第97話 レイゼル、二人だけの会話
「来たね」
「どうした、わざわざ呼び出した上に二人だけで、とは。一身上の都合により退職か?」
「それだよ」
「退職?」
「違う。『一身上の都合により』だ。意味はわかるが、そんな言い回し聞いたこともない」
「……そっちか」
「ダンジョンマスターは時代も地域もバラバラの人間が集められているようだ。その中でも君は異質に思える」
「うん」
「何か、世界の秘密と深い繋がりが?」
「いや?むしろ逆だな。俺はこの世界の住人じゃない。多分別の世界から混じったバグだとさ」
「……なるほど」
「納得するのか」
「納得するさ、君はそれほど異質だ」
「で、それがぽんこ抜きの理由か?」
「ああ、いやこれは余談だよ。本題は別にある」
「余談かよ。で、本題は?」
「管理権限レベル7の条件。君はどう読んだ」
「見たままだろ」
「見たままとは?」
「第三大陸で最後の二人になる。そういう条件だ」
「どうしてそうなる」
「占有率50%。残存DMが二人になれば、俺のコアが全体の半分だ」
「なるほど。君の算数だと、分子は君のコア一つだけなんだね」
「……どういうことだ」
「私のコアは、今どこにある」
「うちのコア部屋だ」
「あれは、システム上どう扱われている」
「従属コア……あーそういうことか」
「従属コアは、従属先の占有として数えられる。つまり君の占有は、今この時点で君自身のコアと、私のコア。最低でも二つある」
「……」
「気付いていなかっただろう」
「じゃあ、占有ってのは」
「これは最後の一人を決める殺し合いじゃない。先に半分を押さえた方が勝つ、陣取り合戦だ」
「……お前はいつから気付いてた」
「自分のコアが君の従属コアになった頃だね。確信したのはレベル7の条件を聞いた時だけど」
「言えよ……」
「最後の一人まで殺し合う。じゃあ従属化された奴はどういう扱いだ?と負けた側は嫌でも考えるのさ」
「言われればそりゃそうだって話だわな」
「他のダンジョンマスターは気付いているよ。東のあいつとかね」
「奴か、特定できたのか?」
「消去法だが、ランキング3位のリシウスだろうな。第三大陸では1位、奴以外に有り得ないだろう」
「ランキング3位……分かっていることは?」
「二つだけ」
「一つ。手口。モンスターを敵ダンジョン近くの村に放ち、人間を襲わせ、その罪をダンジョンに着せる。怒った人間たちが、ギルドと勇者を連れて潰しに来る」
「……俺らをやった手だな」
「私は勇者アルディオを呼び込まれ、君はアウル村を襲われて、ゼルヴェンを呼び込まれた」
「二つ目は」
「勢力を広げている。東で、確実に」
「規模は」
「分からない。ただ、私の情報網に引っかかる断片を繋ぐ限り、東の空気は他と違う」
「違うって、何がだ」
「静かすぎる」
「東が静か、か。掲示板でも言われてたな」
「広がっているのは分かっている。それ以外は全部、分からない」
「……で、何か策はあるのか」
「南を取る。北西は君が更地にした。増やせるコアがもう無い。東は多分既に奴のものだ。残っているのは南だけだ」
「南って、確か」
「不戦条約がある。南のダンジョンマスター同士は争わない、という建前のね」
「平和なのか」
「平和に見えるが、実態は談合だ。調停者を名乗るマスターが一人いて、争いを止める体で貸しを作り、逆らえないようにしている」
「……ろくでもないな」
「ろくでもないが、賢いよ。従属させずに縛る、あれも一種の陣取りだ」
「それでね」
「うん」
「ここからが本題なんだが」
「やっと本題か」
「君に私を売り込もうと思って呼んだんだ」
「売り込む?」
「ああ。自分で言うのもなんだが、陣取り合戦なら私は得意なんだ。それこそ君以上にね」
「まあ、そうだろうな」
「だから私が前線に立とう、その代わり私に権限をくれ」
「……捕虜にやらせると思うか?」
「ふむ。しかし、君では勝てないよ」
「……なぜ?」
「君は自分が思っている以上に、甘い。考えも甘いし、脇も甘い」
「言うじゃないか。なにか心当たりでもあるのか」
「私は外部と連絡を取っている」
「……は?」
「知らなかっただろ?」
「通信は機能制限をかけているはずだ」
「外部に連絡をとる手段なんていくらでもある」
「なにをした?」
「チュウタくんに協力してもらった。いや、チュウタくんを責めないでくれ、私が騙したんだ。君の密命をうけた、とね。そうして、私はダンジョンに残った幹部と連絡が取れた。後は人間に化けたそいつが街に入り込み、教会の掲示板を使って、私の代わりに情報戦を繰り広げている」
「ふざけるな。チュウタに幹部?住人掲示板?やりたい放題じゃないか」
「やらせたい放題の間違いだろ?あまりにも君の脇が甘すぎて、試してみたらできた」
「それを俺に教えて、何がしたいんだ。お前」
「だから言っただろう。私が前線に立つ、代わりに権限をくれ、と」
「その前に殺されるとは思わなかったのか?」
「それなんだが。実はもう、近場のダンジョンマスターを三人落としてある」
「……は?」
「君の名前を使わせてもらった。君が声をかければこちらに降るところまで来ている」
「どういうことだ?」
「君の監視下でも、直接連絡が取れなくても、このくらいはできるってことさ。このまま行けば一年もあれば君の勢力を超える私の勢力が出来ただろう」
「……」
「だけどね。見えてしまったんだ」
「なにが」
「私は君を呑み込み、南の調停者を倒し、東ともいい勝負をするだろう。東には勝てるかわからないが、まぁ負ける気もない。そうして運良く東を倒せたとして、次は世界だ。……しかし、各大陸を制した連中相手に勝てるビジョンが浮かばない」
「……」
「一方君はどうだろう、何が起こるかわからない。いや、君自身は理屈で動いている。しかし君の発想と、周りの人間が君の器を超えた結果を出す。君だったら、世界で勝てる可能性も見えるかもしれない」
「……」
「だから、君に賭けた方が分が良さそうだ」
「……」
「改めてお願いしよう。私を前線に、権限をくれ。その代わりに君を助ける一員となろう」
「……ふざけるな」
「……」
「はじめに言っただろう。外部への連絡は禁止、守らなければ殺す。分をわきまえろ、できなければ殺す、と」
「……殺すかい?」
「殺す。当然だ。お前だってそう思うだろう?」
「思わない。君は甘いからね」
「……俺は優しい人間じゃない。人だって殺してる」
「そうだね、君は優しくはない、でも甘い。理由があれば殺したくないし、信じれるならば、信じたい。信じるならば、殺す理由はない。だろ?」
「……信じれるのか?」
「ふふ。私に聞くなよ、それが甘いって言うんだ」
「……」
「……」
「……はぁ。……わかった。信じよう」
「ありがとう」
「お前、マジふざけんなよ……」
「いやぁ危なかったね。さすがに死ぬかと思ったよ」
「勘違いするな。監視は止めないし扱いは変えない。お前は捕虜だ。しかし、権限はやる」
「うん、細かい内容は外で詰めよう。ぽんこくんもそろそろ怒りだすだろう」
「その前に、一つだけ約束しろ。これを破ったら二度はない」
「なんだい?」
「裏切る時は、正面から裏切れ」
「……それだけ?」
「それだけだ」
「君は本当に、交渉に向いてないな」
「知ってる」
「普通はそこで、絶対に裏切れないようにするんだ。私ならそうする」
「そうしたところで、お前相手に機能するのか」
「しないだろうね」
「だったら要らない。裏で刺すな。敵になるなら敵として来い。守るのはそれだけでいい」
「わかった。これで私は、君の周りの想定外の一員だ」




