第94話 汎用戦機突破エディション
防衛訓練をやってみた。
蟻の巣の中に仮想敵を放って、迎撃する。
キラーアントが通路を塞ぎ、ゴブリン隊が分断し、背後からオトが仕留める。
弱い敵なら片がつく。
だが、アニの顔が晴れない。
「ダメだな。これで倒せるのは雑魚だけだ」
見ていてわかる。
防衛は出来ても、撃退はできない。
最後はオト頼りな分、数も相手できないし、そもそもオトより強い敵は倒せない。
アニが続ける。
「ま、蟻達がまだ生まれたてだからな。育てればなんとかなる」
「育てられるか?」
その言葉に、アニの顔がにやける。
悪い顔だ。
「ああ、蟻は固いからな。実戦投入してもそうそう死なない」
なるほど、育てやすいと。
「それより……外の方が問題だ」
「外。遠征か」
遠征。
外での戦力。
今のうちが一番足りない部分。
ワーウルフ戦でも思い知った、あいつの抜けた穴。
まぁ何を言っても後悔は先に立たない。
「とりあえず前のダンジョンに他の連中を迎えに行く必要がある」
「足りないか?」
「足りない。蟻が育つまではゴブリンとオトはこのダンジョンから離せない。勝手に来いとも言えなくはないが、大所帯だからな。狙われたらイモが危ない」
なるほど。
アニが行けば強化ができる。
アニが行けなければ、ただのゴブリンの大群だ。
「レイゼルのことも忘れるなよ」
「あいつは勝手に生き残るだろ、そういう奴だ」
アニの評価がひどい。
お前ら仲良しじゃなかったのか。
「……コア輸送のとき、セラを見ていた」
「セラを?」
「機械兵はいい。疲れない、命令を聞く、感情で鈍らない。セラほどのものは要らない。下位種でもいれば俺が一人で迎えにいける」
ぽんこがモンスター一覧を開いた。
「汎用戦機、ありますよ。基本素体は共通で、後付け装備でエディションが変わります。突破、防衛、偵察、移動」
「突破」
アニの即答。
迷いがない。
「何体だ」
「十体」
「……二十体いっとけ」
「多い」
「このくらいじゃ、あいつの穴は埋まらないだろ」
アニが一瞬だけこちらを見て、頷いた。
「わかった。もらおう」
二十体生成。
一体一万DP、計二十万。
通路に並んだ光景は、ちょっと異様だった。
人型であるが、人ではない。
セラのように肌ではなく、白くコーティングされた金属面がむき出しの人型。
セラがアンドロイドなら、こいつらは人型のロボットだ。
二十体、同じ姿勢で膝をついている。
顔はあるのに表情がない。
突破エディションの装備が載ると、肩と腕が一回り厚くなり、脚がゴツくなる。
壁にぶつかっていくための体。
「命令を」
二十の声が揃う。
「アニの指揮下に入れ」
「了解」
「セラちゃんの後輩ですね!」
「後輩ではありません。汎用機です」
「後輩です!」
「彼らに積まれたAIは低級品です。我々のような感情や思想は持ち合わせません」
「セラ、お前AIに感情はいらないとか言ってなかったか」
「マスター!そういういじわる言わないでください!セラちゃんは感情の大切さだってちゃんとわかってます!」
「……確かに戦機に感情は不要です。訂正します」
「訂正は不要です!もー!マスターが余計なこと言うから!」
そんなやりとりをするセラは、楽しそうに見えた。
そうして、汎用戦機を連れたアニが、旧ダンジョンへ皆を迎えに行き、引っ越しが終わった。
新ダンジョンに、俺、ぽんこ、セラ、アニ、オト、イモ、レイゼル、チュウタの本体、ゴブリンが半数、蟻、ドワーフ、汎用戦機。
旧ダンジョンに、シルヴァさん、ゴブリン半数、チュウタ分体、ダミーコア。
それぞれのダンジョンが、あるべき姿に収まった形になる。
レイゼルが最後に入ってきた。
入口を潜って、通路を歩きながら、壁を触り、天井を見上げ、分岐を数えている。
五分もしないうちに立ち止まった。
「ふざけたダンジョンだ」
「ありがとう」
「褒めてない」
レイゼルが壁に手を当てたまま、首を傾げた。
「これ、階層が切れていないね。敵が入ったら構造変更できないだろう」
五分で気づく。
この鋭さが、こいつの厄介さであり価値でもある。
「そこはもう解決した」
「解決?」
俺は横の壁を、ノックするように軽く叩いた。
しばらく待つ。
壁の向こうから、岩を噛み砕く振動が伝わってきた。
壁面がぼこりと膨らんで、穴が開く。
黒い甲殻と太い顎。キラーアントだ。
レイゼルが半歩下がった。
「……蟻?」
「こいつらが物理的に掘る。管理機能の構造変更じゃないから、制限を受けない。戦闘中でも壁を塞げるし、横穴を開けられる」
穴の奥で、ドワーフが支柱を打つ音がしている。
レイゼルが穴の縁を触って、黙った。
こいつが黙るのは珍しい。
普段は軽口が止まらない男だ。
「普通のダンジョンマスターなら、構造は管理機能で変える。モンスターに掘らせる理由がない」
「掘れるモンスターがいるんだから、それも想定内だろ」
「……ああ。そうなんだろうな」
レイゼルが穴から目を離して、こちらを見た。
いつもの軽さが混ざっていない顔だった。
「やる奴はいるんだろう。だが、そこにたどり着けるのはきっと一握りだ」
レイゼルは、少しだけ笑った。
「私は、その一握りではなかったらしい」
少し間があった。
「私は、絶対に諦めない。それでもね」
それだけ言って、レイゼルは通路の奥に消えていった。
「マスター」
「ん」
「レイゼルさん、褒めてくれましたね」
「褒めてたか?」
「ぽんこ、嬉しいです」
「お前が褒められたわけじゃないだろ」
「マスターが褒められたら嬉しいんです!」
引っ越しは終わった。
新ダンジョンはまだ未完成だが、動き始めた。
だが、最後の仕事が残っている。
俺自身が旧ダンジョンへ戻って、シルヴァさんに正式にあの場所を託すことだ。




