↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/89

第83話 レイゼルとアニ

広域捜索が始まって、十日が経った。


アニがまとめた報告が、毎朝コア部屋に届く。

俺はそれに目を通して、気になる区画にチェックを入れて返す。


その朝、アニは報告を渡した後、すぐには帰らなかった。


椅子に座り直して、机の縁に手を置いた。

何か言いたいことがあるようだ。


「マスター」

「ん」

「レイゼルを、捜索に連れていきたい」


俺は、報告に落としていた目を上げた。

冗談で言っている顔ではなかった。


「……なんでだ」

「候補地を見る時に、俺たちには判断できない部分がある」

「どの辺が」

「人間の街道からの見え方とか、探索者が踏み込みやすい地形か避ける地形かとか、表向きの不自然さをどう消すかとか。そういうのは、俺たちゴブリンには難しい」


アニの言うことは、筋が通っている。


ゴブリン達がどれだけ成長しても、生まれてからずっとこのダンジョンの中で育った連中だ。

人間社会との距離感は、肌では分からない。


レイゼルなら、それが見える。

あいつはこの世界で生まれ育った人間だ。


それに勇者をダミーコアで騙した判断力。

他のダンジョンマスターに同盟を持ちかけた交渉力。

あいつの頭は、認めたくないが、使える。


そしてその勘は、実のところ俺にもない。

俺はこの世界の人間じゃない。

この大陸の地理や常識は、チュウタの偵察と住人掲示板から組み上げた継ぎはぎでしかない。


レイゼルを確保している利点を生かすなら、確かに今は使いどころだ。


「アニ。お前、レイゼルとどれくらい話してる」


アニが、わずかに目を逸らした。


「前から、何度か。食堂であいつが仕事の話を振ってきて、返してたら、何度か」

「あいつ、相変わらず食堂にいるのか」


レイゼルはダンジョンマスターだ。

俺と同じように食事の必要はない。

ただの娯楽だ。


「いる」


俺は息を吐いた。


レイゼルは、捕虜だ。

奴のコアは握っているから、コアさえ守っていれば問題ない。


ただ、最近のあいつは、捕虜らしくない。


食堂に自然に座って、ゴブリン達と軽口を叩いて、情報を集めて、アニの相談に乗っている。

いつの間にか、住人のように振る舞っている。


悪いことかと言われると、悪いとは言いきれない。

だが、警戒は別の話だ。


「マスター」


アニが、まっすぐこちらを見た。


「俺が責任を持つ。連れて行かせてくれ」


責任を持つ、とアニは言った。

こいつがそう言うからには、考えた上で言っているのだろう。


「……分かった。任せる」


アニが立ち上がった。

出ていく前に、一度だけ振り返り、言う。


「あいつが何かしたら、俺が止める」

「分かってる」


アニが部屋を出ていった。

扉が閉まる。


俺は、机の上のコアを見下ろした。


「ぽんこ」

「はい」

「オト呼べ」


オトはすぐに来た。

扉が開いた音は、しなかった。

気づいた時には、部屋の中にいる。


「来た」

「頼みがある」

「うん」


俺は、声を少し落とした。


「明日からアニの隊にレイゼルが同行する。隊の周辺にいて、レイゼルを監視してくれ」

「うん」

「アニには気づかれるな」


オトが、一拍だけこちらを見た。

黒い目に、感情の揺らぎは見えない。


「兄、知らないほうがいい?」

「ああ、アニが責任持つって言ってるからな。オトはあくまで保険だ」

「分かった」


それだけ言って、消えた。

出る時も、扉が開いた音はしなかった。


部屋に静寂が戻る。


アニを疑っているわけではない。

あいつは慎重で、責任感が強い。

だが、強すぎる。

もしなにか被害が出たら、アニは自分の判断のせいだと思うだろう。


それに、アニ自身に何かあるのも困る。


「マスター」

「なんだ」

「それ、任せたって言わないんじゃないですか」


俺は、ぽんこの方を見なかった。


「アニを心配してるだけだ」

「心配」

「あいつは責任を背負いすぎる。レイゼルが何かやらかしたら、アニが自分のせいだと思う。それを避けたい」

「ふーん。まるでマスターみたいですね」

「おい」

「事実です!」


ぽんこが、にっと笑った。

お団子が一回、機嫌よく回る。


俺はぽんこから目を離して、UIを開いた。


オトの位置情報が表示されている。

十三階層の通路を離れて、移動を始めていた。


開いた後で、自分が何をしているかに気づいた。

閉じた。


「マスター?」

「分かってる」

「何が分かってるんですか」

「分かってる」


ぽんこは、それ以上は突っ込まなかった。


お団子だけが、もう一回、ゆっくり回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。