第74話 大規模討伐隊編成
改修が始まって十日目に、チュウタから報告が入った。
『マスター、大規模討伐隊の編成が始まった。本部から船が来た』
「船?」
『第一大陸から。上級討伐隊五十名。街の港に着いた』
第一大陸から、本部直属の上級討伐隊。
予想はしていた。
だが、予想していたことと、実際に聞くことは違う。
「五十人か」
「上級ですよ、マスター。前回の中級とは格が違います」
ぽんこの声にも緊張がある。
『それと、前回の中級討伐隊の残りもそのまま参加するらしい』
「前回の生き残りか。懲りない連中だ」
「懲りないというか、命令でしょうね。拒否権はないと思います」
『あと、街中の探索者にも大量に声がかかってる。二百人以上集まるって』
「二百——」
「総勢三百名規模ですね。ちょっとした軍勢です」
前回よりも質も量も跳ね上がっている。
「……ぽんこ、改修の進捗は」
その言葉に待ってましたとばかりにぽんこが言う。
「全階層、構造変更完了です!シルヴァさん、お疲れ様でした」
「ふ~。お疲れ様でした、ぽんこちゃんもありがとね」
シルヴァさんが木の根元に座って、自分で淹れたお茶を飲んでいた。
大仕事の後の一服らしい。
「あとは中身だ」
「はい。モンスターと階層ボスは、DPが足りないので保留です。次の戦闘で稼ぎながら埋めていくしかありません」
自転車操業。
ガワだけのダンジョンに、戦いながらモンスターを入れていく。
冷静に考えるとかなり無茶だが、他に道がない。
その翌日、チュウタ経由でもう一つ報告が入った。
リオンからだ。
『リオンが言ってる。案内役に立候補したって』
「……は?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
「来るなって言ったよな、俺」
『言われたけど自分で決めたって。止めないでくれって』
あの馬鹿。
「ぽんこ」
「聞いてました」
「止めろと言ったのに」
「言いましたね。でもリオンさんは聞かなかったみたいです」
怒りよりも先に、理解が来た。
リオンは馬鹿じゃない。
来るなと言われた意味は分かっている。
巻き込まれる危険も分かっている。
その上で志願した。
「……あいつ、覚悟を決めやがったな」
「止めますか?」
「止められるか。ゼルヴェンに直接志願してるんだろう。今さら撤回したら怪しまれる」
「ですよね」
チュウタに伝言を預けた。
「リオンに伝えろ。『勝手なことをするな』と。……それから、『死ぬな』と」
『わかった』
二日後。
UIが、赤く染まった。
前回よりも圧倒的な赤。
点の数が、多い。
「来ました。大規模討伐隊。三百名超え」
映像を拡大する。
一階層の入口に、見たことのない規模の集団が詰まっていた。
全員が入りきるまでに何十分もかかる。
入口の通路が人で埋まっている。
先頭は探索者達。
探索達は今回も露払い役のようだ。
「前回あんな扱いだったのに、よく協力する気になりましたね」
「結構な報酬が出てるそうだ。それに前回は結局だれも死ななかったからな、割がいいと思ったんだろ」
続けて中級討伐隊。
前回の生き残り四十名。
表情が前回と違う。
あの地獄を経験して、それでもまた来ている。
さすがに討伐隊としてのプライドがあるらしい。
その後ろに、上級討伐隊。
一目で分かった。
纏っている空気が違う。
装備の質が違う。
立ち方が違う。
中級の連中が訓練された兵士なら、こいつらは歴戦の戦士だ。
全員が修羅場を潜ってきた顔をしている。
「あの中に、ラセツ級がいたりするか」
そう呟いた時、レイゼルの声が飛んできた。
「上級討伐隊の話?」
「聞こえてたのか」
「聞こえてたよ。で、気になるなら教えてあげようか」
レイゼルが壁にもたれながら、お茶を片手に言う。
「お前、上級討伐隊と戦ったことあるのか」
「直接はない。でも話は聞いてるよ。ギルド本部直轄の上級討伐隊は、大陸間の遠征任務にも使われる正規の戦力だ。個人の実力で言えば——」
レイゼルがお茶をすすり、一拍置いた。
「ラセツくんよりは強いよ。ダンジョン内での話だけど」
「……何?」
「ラセツくんはダンジョンの中だと出力制限がかかるだろう。そのラセツくんよりは、上級討伐隊の連中の方が上だと思った方がいい」
俺はレイゼルを見た。
「お前、なんでラセツの出力制限について知ってる」
「ゴブリンくんたちと仲良くなったからね。大抵のことは教えてくれるさ」
こいつ。
いつの間にうちのゴブリンから情報を引き出してやがる。
「おい」
「まあまあ。別に悪いことには使ってないよ。それよりも——」
レイゼルが少しだけ真面目な顔になった。
「前回の中級は数で押してきたけど、個の質は大したことなかった。だが上級は違う、一人一人がダンジョン攻略の専門家で、実力者だ」
だから作り替えた。
とは言わない。
レイゼルに中身を教える気はない。
「忠告ありがとう。参考にする」
「どういたしまして」
レイゼルが引っ込んだ。
こいつの情報は信用できないが、今回は嘘をつく理由もない。
レイゼルにとっても、このダンジョンが潰されたら自分のコアも危うい。
利害が一致している間は、こいつの助言は使える。
上級討伐隊、そしてその中に——
リオン。エルノ。カーク。
三人の姿が、討伐隊の中程に見えた。
案内役として、討伐隊の隊列に組み込まれている。
リオンが、一瞬だけ上を見た。
ダンジョンの天井を。
何かがある訳ではない、ただ上を見ただけだ。
だが俺には、こちらを見たように感じた。
隊列の最後尾に、ゼルヴェンがいた。
前回と同じ位置。
後方、痩せた体に眼鏡、杖を腰に差して、壁を見ている。
侵入直後のやり取りをUIが拾った。
『ゼルヴェン様。全隊、準備完了しました。出撃してよろしいでしょうか』
『構わない』
『目標は最下層到達と制圧、間引きでよろしいですか』
ゼルヴェンが、少しだけ間を置いた。
そして興味がなさそうに言う。
『……それでいい』
『……了解しました』
隊長格が少し戸惑った顔をしていた。
ゼルヴェンの意図が読めない、どう見ても制圧に来た様子ではない。
「マスター。あの人、勝つつもりで来てない気がします」
「……だが引く気もないだろう」
全戦力を突っ込んでおいて、勝利が目的には見えない。
何のために来ているのか。
分からない。
分からないが、あの目は知っている。
前回の詳細調査の時と同じ、温度のない目だ。
「ぽんこ」
「はい」
「全幹部に伝達。戦闘配置」
「了解です」
「低階層は今まで通り。探索者を殺すな。討伐隊も、十階層までは手を出すな」
「十階層からですね」
「ああ。十階層から先は——」
言葉を切った。
UIの画面に、三百を超える赤い点が隊列を組んで、一階層の通路を進み始めていた。
「——全力でやる」
大規模討伐が、始まった。




