第71話 討伐隊
二週間後、UIが赤く染まった。
赤は侵入の警告色だ。
点の数を数える——百以上。
「来ましたね」
「ああ。来たな」
規模が違う。
今まで一番多かったのはゼルヴェンの調査隊十二名で、それでも心臓に悪かった。
百人は次元が違う。
UIの映像を拡大する。
一階層の入口に、鎧の集団が詰まっている。
先頭から順に隊列を組んで入ってくるが、全員が入りきるまでに数分かかった。
討伐隊。
第三大陸常駐のギルド正規部隊だそうだ。
実力は全員中級探索者並み。
装備が統一されていて、動きにも訓練の跡がある。
それが七十人。
リオン達のような個人パーティーとは違い、軍隊に近い。
その後ろに、探索者が百人。
こちらは装備がバラバラで、露払いとして雇われた地元組だろう。
さらに後方に、見覚えのある痩せた影。
「ゼルヴェン、やっぱりいるな」
「います。でも後方ですね。自分では戦わないつもりかもしれません」
案内役は——リオン達ではなかった。
知らない若手の探索者パーティーが先頭近くを歩いている。
UIを通して、案内役の探索者の声が聞こえてくる。
『案内役の役目、俺に任せて正解ですよ。パーティーとしての地力は俺達の方が上ですからね』
『おい、後ろの探索者達はどうにかならんのか。ガラも悪い、言うことは聞かない。さすが街の探索者だな』
話しているのはゼルヴェンではない、討伐隊の人間のようだ。
『ゼルヴェン様も何を考えているんだろうな。あのようなクズども、何人連れてきても何の役にも立たないだろうに』
『へへ、俺達は役に立ちますよ。後ろの連中とは違います』
「さて」
椅子から立ち上がる。今日は座って見ているわけにはいかない。
「ぽんこ、方針を確認する」
「はい」
「十階層までは普段通り。探索者はあまり殺さない。殺したくない」
街の探索者を敵に回すのは避けたい。
深く潜れば危険でも、低層階は安全。
その評価は死守したい。
「十一階層から先は——本気でいく」
ぽんこの返事はなかった。代わりに、小さく頷いた。
低層は予想通りだった。
百人もいれば、何匹かのゴブリンや小さな罠など障害にもならない。
討伐隊は隊列を崩さず一階層から四階層を駆け抜けていく。
露払いの探索者たちが先行してゴブリンや罠を処理し、討伐隊本隊は戦闘すらせず通過した。
五階層以降、ゴブリンの群れが出始めても状況は変わらない。
五体、十体、二十体。
討伐隊の前衛が盾を組み、後衛の弓兵と魔術師が面制圧する。
群れが溶ける。
ホブゴブリンが混じっても、集中攻撃であっさり倒れる。
個の強さではなく、数と連携で押し潰す戦い方だ。探索者たちのような冒険はしない。
確実に、手堅く、一歩ずつ踏み固めて進む。
九階層で露払いの探索者の一部が脱落した。
消耗しきって動けなくなったのだ。
それを機に、ダンジョンに入ってから初めてゼルヴェンが口を開けた。
『探索者ではこの先は危険か。では君達、帰ってよし。案内役の君達は残ってくれ』
探索者達を帰す判断、これ以上はついてこれないと考えたようだ。
『護衛は不要。この人数だ、自力で帰れ』
現場が紛糾する。
自分たちの到達階層よりも深い箇所で、放り出される恐怖、理不尽に対する怒り。
しかし、半ば脅されるように納得させられ、探索者達は恐る恐る帰路についた。
九階層。
ここまでで死者はゼロ。
残りは討伐隊七十名、案内役三名、ゼルヴェンの七十四。
「ここまでは想定内です」
「ああ」
俺は転移でアニのいる階層に飛んだ。
「アニ」
「聞いてる。十階層からだな」
「ああ。任せる」
アニが頷いた。
低く、硬い声で、配下のゴブリンたちに指示を出し始める。
九階層と十階層の境目。
階段を降りた瞬間から、空気が変わる。
それは比喩ではない。
アニの指揮強化バフが、十階層のゴブリン全体にかかっている。
個々のゴブリンの動きが鋭くなり、連携が生まれ、待ち伏せの精度が上がる。
九階層までのゴブリンとは別の生き物になる。
ここからは殺意の階層だ。




