第68話 作為的な迷宮
俺は息を吐く。
「帰ったか」
撤退中の会話をUIが拾う。
『妙ですね。作為的だ』
『作為的というと?』
『Eランクにしては整いすぎています、なんというか危険度が調整されているような』
『かもしれん。だがあくまで判断はゼルヴェン様に任せる。我々の任務は調査であって査定ではない』
UIを閉じた。
「作為的、か」
「ゼルヴェンさんが判断材料としてどう使うか、ですね」
ゼルヴェンが評判通りなら、何か感じ取るだろう。
出来れば、評判倒れの無能であって欲しいものだ。
調査隊が去った翌日、リオン達がダンジョンに来た。
なんとも嫌な顔をしている、最近はダンジョンにも馴染んできたからこの表情はギルドのせいだろう。
「街の様子を聞かせてくれ」
「本部直轄の査定官、ゼルヴェンって男が来た」
リオンが切り出した。
「街のギルドじゃ相当嫌われてる。優秀だって話だが、探索者からの評判は最悪だ。調査隊の連中も傲慢で、街の探索者を見下している」
エルノが憤慨し、続ける。
「しかも権力持ってやがるから手に負えない。既に突っかかった探索者が何人かやられたよ、死んではないが多分もう復帰できない」
カークが補足する。
「本部の連中は大抵そうだ。街の探索者はゴロツキも多いからな、奴らエリートからしたら住む世界が違うんだろう」
「嫌な奴ですね!うちのお客さんを勝手に減らすなんて!もったいない!」
ぽんこが怒るが、完全にずれている。
あとそれ、リオン達に聞かせちゃだめなヤツだろ。
「他になにか情報はあるか?」
「このダンジョンの調査結果。情報が足りないとやらでゼルヴェンが直接来るってのは知ってるよな?」
そう、ゼルヴェンは評判通りの男だった。
警戒されていてゼルヴェンの元にチュウタはつけられていない。
それでも伝わってくるゼルヴェンの優秀さ。
即決だったようだ。
報告書を数秒眺めて即、再調査の決定、さらには討伐隊編成の下準備まで始めているらしい。
なんだこいつ。
不審さを感じるところまではわかる。
しかし、脅威を感じる要素なんて無かったはずだ。
「はぁ。カーク……それなんとかできない?」
つい素でカークに尋ねる。
「……勘弁してくれ。楯突いたって再起不能にされるのがオチだ」
いきなり砕けた俺に戸惑いながらも、適切な答えを返してくるカーク。
こいつも大概優秀だ。
「なんか考えなきゃなぁ……」
遠い目をする俺を、三人が見ていた。
そんな俺に言いづらそうにリオンが続ける。
「もう一つ、伝えなきゃいけないことがある。」
一拍置いて、更に言いづらそうに続ける。
「次の調査、俺達に案内役の打診が来た」
その言葉にぽんこが反応する。
「裏切り者です!裏切り者がいます!」
「おう、裏切りだ。ラセツ、やれ」
「ちょっ、ちょっちょっ、ユートさん、勘弁してくださいよ」
「ダメだ、裏切り者は抹殺だ。オト、やれ」
「……わかった」
そう言ってオトが消える。
「ユートさん!オトはまずい!冗談通じないから!」
「確かに。オト、やっぱやめ」
俺達はこの数ヶ月で、こうしてじゃれあえる程度には打ち解けた。
エルノが涙目になっているが、冗談であることはわかっているはずだ。
ちなみにリオン達が案内役に抜擢されたことは当然知っている。
ゼルヴェンご指名だそうだ。
「断った方が良いか?」
一人冷静なカークが尋ねてきた。
逆に尋ねる。
「断れるのか?」
その質問に、リオンが答える。
「……断りたくはないな。まず間違いなく探索者は続けられなくなるだろうし、下手したら母親まで探られそうだ」
「僕は反対!……だけど断れないのはわかる」
「と、いう訳だ。心情的には断りたいが、断るならそれ相応の覚悟がいる」
「関係は、バレてないよな?」
そこだ。
リオン達が案内役に選ばれた理由。
リオン達はこのダンジョンのレコードホルダーだ、普通に考えたら順当な人選だろう。
しかし、ここまでのゼルヴェンの行動を見ていると、不安が拭えない。
もしかしたら、と。
「しかしまぁ、どちらにせよ断る理由はないか。バレてるならどちらでも同じだし、バレてないならわざわざ怪しまれる必要もない」
「じゃあ、受けるでいいな」
カークが念押ししてくる。
その表情が、この選択が本意でないことを物語っていた。
「それしかない」
奴はまだ何もしていない。
調査隊を送り込んで、再調査を決めて、リオン達に案内役を頼んだ。
それだけだ。
それなのに、こちらはどんどんと追い詰められていく。
じわじわと逃げ場のない袋小路に誘い込まれているような気分だ。
再調査。
大してDPは溜まってない。
やるなら運用でなんとかするしかない。
調査隊が踏み込まなかった10階層以降が勝負だ。




