第67話 調査隊侵入
UIに、見慣れない連中が映った。
十二。
一階層の入口から、整然と並んで侵入してくる。
いつもの探索者とは動き方が違う。
入口付近で足を止め、周囲を確認し、隊列を組んでから前進を始めている。
「来たか」
「来ましたね。本部直轄調査隊、十二名編成です」
ぽんこがUIの表示を拡大する。
映像が切り替わり、一階層の通路が映し出された。
盾持ちと剣士が前衛。
中衛に杖を持った魔術師が二人。
後衛に弓と短剣。
装備の質が高い。
革鎧の上から金属板を要所に仕込んでいて、軽装に見えて防御力がある。
だがそれより気になるのは、動き方だった。
先頭の盾持ちが角を曲がる前に、必ず足を止めて壁面を確認している。
罠の痕跡を探しているのだ。
剣士がその間に通路の奥を目視で確認し、魔術師が何かの探知系魔法を発動させている。
後衛は常に後方を監視していて、退路の確保を怠らない。
「索敵、罠解除、連携、撤退判断。全部が洗練されてますね」
「ああ。今までの探索者とは格が違う」
今までうちに来た探索者は、良くも悪くも素人だった。
なんだったら初見の罠は普通にひっかかるからな、あいつら。
即死罠にしたら一日で全滅させられそうだ。
しかし、こいつらは違う。一階層の時点で、罠の位置を正確に避けている。
「一階層の落とし穴、三つとも回避されましたね」
面倒だ。率直にそう思う。
だが、低層は変えない。
一階層から五階層までは、完成してから同じ構造を維持している。
スライム、ゴブリン、簡易な罠。
初心者向けのEランクダンジョンとして、地元の探索者たちに馴染んだ構成だ。
ここを変えると常連に怪しまれる。
調査隊は二階層に入った。
二階層の構造も変わっていない。
ゴブリンの数は増えるが、群というほどの数ではない、調査隊にとっては単独と変わりがないだろう。
案の定、剣士が足も止めずゴブリンを処理していく。
盾持ちは戦闘に参加せず、剣士の背中を守りながら通路の先を見ている。
分担が明確だ。
UIから奴らの会話が聞こえてくる。
『二階層。ゴブリン二体。連携なし。罠は落とし穴と雷撃罠、低出力。通路設計は入り組んでいるが、それを利用した挟撃や罠はない。典型的なEランクの構造だ』
『報告書通りですね』
『報告書通りすぎる。一年以上構造が変わっていないというのは本当だろう』
淡々とした口調だ。
こいつらは攻略ではなく調査に来ている。
構造を記録し、モンスターの配置を記録し、罠の種類を記録している。
戦いに来たのではなく、測りに来た。
三階層、四階層と進んでいく。
ここも変わっていない。
ゴブリンが一体ずつ増え、通路の分岐が増える。
ただ、それだけだ。
調査隊は分岐のたびに立ち止まり、両方を確認してから進路を選んでいる。
『ここまでモンスターの質はEランク相当。むしろ低層の難度が報告より軽い』
『初心者向けだと聞いていたが、確かに初心者でも死なない設計だ。親切すぎるくらいだ』
親切。
その言葉に心臓が跳ねる。
意図通りではある。
低層は探索者を殺す場所ではない。
適度に稼がせ、適度に怖がらせ、また来たいと思わせる場所だ。
Eランクとして自然な難易度を維持しているつもりだったが、本部の目で見ると「親切すぎる」と映るらしい。
さっきのは何の気なしに言った一言のようだ。
俺のことがバレた訳じゃない。
そう理解しても、心臓は落ち着いてくれなかった。
調査隊は五階層への階段の前で足を止めた。
あれだけ丁寧に進んできて、ここまで三時間しかかかっていない。
『五階層以降のデータは支部にない。探索者の報告もほぼない。ここから先は未知だ』
『ここから本番というわけか』
五階層の階段を少しだけ降り、入口付近の構造を確認する。
五階層は探索者の中でもリオン達くらいしか通っていない。
何人か挑戦して諦めた奴らと、退き際を間違えて死んだ奴らがいるが。
まあ、この調査隊なら普通に攻略してくるだろう。
現在の最下層、シルヴァさんの森は十五階層。
調査隊が来ると決まってガワだけでも深くしようと、五階層分追加した。
「ぽんこ、こいつら、夜になったら帰ると思うか?」
「うーん、どうでしょう。普通のダンジョンなら野営は当たり前です。なので彼らが本気なら泊まりです」
「様子見だったら日帰りか」
シルヴァさんの森まで来たら本気でやらざるをえない。
様子見日帰りプランであることを祈るしかないか。
そうして、五階層の攻略が始まった。
調査隊はこれまでと同様に、慎重に全てを暴こうとするかのように進んでいく。
五階層以降はゴブリンが群で出る、ホブゴブリンも混じる。
しかし、アニのバフが乗った強化版ではなく、普通の強さの通常版。
「うーん、超えてくるよなぁ」
「奴ら調査隊は中級探索者クラスと見ました!まぁ中級探索者が12人いればゴブリンの10体や20体では怪我もしないかと」
中級探索者、カーク級か。
頭の中にカークが12人並び、全員まとめてラセツにふっ飛ばされる絵が浮かんだ。
ふむ、そう考えてると大したことがない気がしてきた。
幹部が出れば一蹴できるだろう。
つまり、こいつら相手に命の危機はない。
問題は何を見せるか、だ。
予想通り、調査隊は群始めたゴブリンをものともせずに進んでくる。
『ゴブリンの群。20体。キリのいい階数から様子を変えるのはダンジョンの定番か。』
『ま、このくらいならEランクの範疇ですね』
まさに今、ゴブリンの群20体に囲まれながら、中央にいる男が記録していく。
『しかし、この階層は未攻略なんだよな。この街の探索者は下級しかいないのか?』
『この近辺はここができる以前はダンジョン空白地帯だったそうですよ。そんなもんじゃないですか』
やはりこの近辺の探索者はレベルが低いらしい。
「あ!住人掲示板でも言われてましたよ。イース北は初心者向け過ぎて中級には旨味がないって」
「うーん、悪くない評判だと思っていたが、実は悪かったのか」
そうこう見ていると、なにやら雲行きが変わってくる。
『この様子なら、ここから先も大した収穫はないだろう』
その言葉に光明が見える。
「お、帰るか」
『一気に進み、10階層だけ確認して、終了としよう』
「帰れよ」
「シルヴァさんの森、15階層まで移しておいて良かったですね!」
確かに、10階層が最下層だったら終わってたな。
地味にファインプレーだ。
そうして調査隊は、10階層の入口まで進み、異常の無いことを確認すると、引き返していった。




