↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/88

第62話 顔合わせ

十日後、リオン達がダンジョンに来た。


約束通り、探索者として、普通に。

いつもの三人で、いつもの装備で、いつもの入口から入ってきた。

UIに映る三つのアイコンが一階層を進んでいくのを見ながら、俺はチュウタに指示を出す。


「チュウタ、五階層の休憩所まで案内してやれ。そこで集合だ」

『わかった』


自分の足で五階層まで上がる。

いい加減ダンジョン内の移動が厳しくなってきた。


「呼んだものの、村のことは大体わかってるんだよな」

「チュウタさんが報告してくれますからね」


さて、どうやって場を保たせよう。


「ふむ。自己紹介でもしておくか」


休憩所に着くと、リオン達は既に座っていた。


リオンが立ち上がる。


「来た。約束だからな」


エルノが壁にもたれて座ったまま、周囲をきょろきょろ見回している。

カークは腰掛けに座り、いつも通り静かにこちらを観察していた。

三人とも、あの夜から十日経って少し落ち着いた顔をしている。


「村の様子はチュウタ経由で大体把握してる」

「全部筒抜けですか」


エルノが苦笑し、肩の上のネズミを横目で見た。


「まあ、そうだな。だから今回の集まりは顔合わせだ。お前らにうちの幹部を紹介しておく」


リオンが少しだけ目を見開いた。


「幹部?」

「ダンジョンのモンスターだ。あの夜、赤いのと黒いのを見ただろう。あいつらを含めて、主だった連中の顔を覚えておいてくれ。今後、何かあった時に話が早い」


三人を十階層の森まで連れていく。

途中、五階層から先の洞窟を通る時にエルノが「ここ来たことないな」と呟き、カークが通路の構造を黙って観察していた。


十階層に降りると、空気が変わった。

石とカビの匂いが消え、緑の香りと湿気が全身を包む。

木々の向こうに光苔とは思えない光がにじみ、森そのものの中に入り込んだような感覚がある。


「……すげえ」


エルノが声を上げた。

前回見てるはずだが、それどころじゃなかったんだろう。


「ダンジョンの中にこんな場所があるとは思わなかった」

「うちの切り札だ。あんまり口外するなよ」

「するわけないです。殺されたくない」


軽い口調だが、その声には確かに怯えが感じられる。


森の中の開けた場所に、椅子とテーブルが並んでいる。

会議室と呼んでいる場所だ。そこに、幹部達が集まっていた。


最初に目に入るのはラセツだ。


薄紅色の肌が森の緑に映え、上半身裸のまま金棒を肩に乗せている。

釘バットにしか見えない凶悪な形状の金棒だ。

背丈は人間の成人と同じくらい、細身だが隙のない筋肉がついていて、腕には古い傷跡がいくつも走っている。

端正な顔立ちをしているが、目つきが悪い。悪すぎる。


リオン達の足が止まった。


「……あの夜の」


リオンが低く言った。

暗闇の中で母親を襲うゴブリンを叩き潰した、あの赤い男。


「ラセツ。悪鬼。うちの攻め専用の切り札だ」

「よう」


ラセツが片手を上げた。

愛想はない。

だがリオンの目には恐怖と感謝の両方が見えていた。


「次にこっち——と言いたいが、見えるか」


三人が周囲を見回す。


「……どこ?」

「オト。いるぞ」

「……いる」


テーブルの横に、黒い髪の少年が立っていた。

ゴブリンの面影が完全に消えた痩せぎすの少年で、肌は暗く、手足が細長い。

儚い美形と言えなくもないが、それ以上に存在の薄さが異様だった。

見ているはずなのに視線が滑り、目を離すと位置を見失う。


「ゴブリンナイトストーカー。隠密特化だ」


オトは何も言わなかった。

リオンと一瞬だけ目が合い、すぐに視線を外す。


「え、こいつがゴブリン?」


エルノが信じられないという顔で見ている。

ゴブリンと言われなければ人間の少年にしか見えない。


「次」


テーブルの下から、小さな丸い影がひょこっと顔を出した。


「はーい」


こっちは逆に、進化してもゴブリンにしか見えない。

小さくて丸い体。

背丈はリオンの腰ほどしかなく、大きな目がくりくりと動いている。


「イモ。ゴブリンサヴァン。後方支援と分析担当」

「えっ、かわいい」


エルノが思わず声を上げた。


「かわいいって言われましたー」

「見た目で判断するな。こいつは一番やばい」

「えへへ」


イモが嬉しそうに笑っている。

嬉しがるな。


「三兄妹でな。アニが長男で指揮官、オトが次男で隠密、イモが末っ子で分析。こいつらがうちの主力だ」

「三兄妹……」


リオンがアニの方を見た。


テーブルの奥に、腕を組んで立っている人影がある。

人間の青年と変わらない体躯で、肩幅が広く、首が太い。

顔にはゴブリンの名残が残っているが、もう子供のサイズではない。

ホブゴブリンとも格が違う。

周囲のゴブリンたちの立ち姿がどこか引き締まっているのは、こいつの指揮強化バフが常時かかっているからだ。


「アニ。ゴブリンジェネラル。全軍の指揮官。こいつがいるだけで配下のゴブリン全員の動きが一段上がる」

「……オレはお前らを信用していない。変な真似をしたら潰す。注意しろ」


アニが言った。

声は低く硬い。

こいつのクソ真面目は昔からだ。


カークがアニを見て、ほんの少しだけ目を細めた。

同じ仕切る側の人間が、同類の気配を感じ取ったのかもしれない。


「こちらにいるのがシルヴァさん。ドライアドエンプレス。この森そのものがシルヴァさんだと思ってくれ」


木の根元から、シルヴァさんが歩いてきた。

深い緑の長い髪が揺れ、肌にほんのり緑がかった透明感がある。

穏やかな微笑みを浮かべているが、彼女が一歩踏み出すたびに周囲の木々が枝を傾けてざわめく。

足元からは小さな草が芽吹いている。

美しいが、人間ではない。

森が人の形をとっている、と言った方が近い。


「おひさしぶり」


シルヴァさんが淹れたお茶を三人に配ると、場の空気が少し緩んだ。


「あとはこっちがぽんことレイゼル。モンスターでもないし戦闘員でもない」

「ぽんこです!マスターの管理AI!旧式ですが心は最先端です!」

「捕虜のレイゼルです。よろしく」


リオンがレイゼルを見て、少し困惑した顔をした。

捕虜と言われたが、お茶を飲みながらくつろいでいるようにしか見えない。


全員の紹介が終わる。


その瞬間を待ちわびていたかのように、ラセツが声を上げた。


「よし(あるじ)。模擬戦だ」

「は?」

「探索者なんだろ。うちのダンジョンの常連だ。どの程度の腕か気になる」


リオン達の顔が引き締まった。

エルノが少し引いている。

カークは無表情だが、目だけが動いた。


周囲を見回すと、ゴブリン達の目がきらきら光り始めていた。

こいつらは戦いの匂いに目がない。


『やれやれー!』

『人間と勝負だー!』

『オレも混ぜろー!』


あっという間にゴブリン達が集まってきて、会議室の周りが闘技場のような雰囲気になりつつある。


「……やるか。よし模擬戦だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。