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第57話 東端の手口

コア部屋にて、二つ並んだコアを眺めながら考える。


レイゼルは敵だ。

それも油断ならない敵で、同じ屋根の下に置くなら相応の備えがいる。

最悪レイゼルのコアはいい、しかし俺のコアを破壊されたら俺が死ぬ。

奴からコアを守る手立てが必要だ。


「やっぱり殺した方がいいか?」

「めんどくさくなるのやめてください」


うーん。

ダンジョンにいるレイゼルから確実にコアを守る方法……

24時間体制の警備があればいけるか。

専用の護衛モンスターを置いて、誰も入れない。

レイゼルは自分で戦うタイプじゃないから、戦闘タイプの護衛を置いておけば一応安心か。


レイゼル自身の監視は……


「チュウタ。お前の分体、何匹かレイゼルにつけといてくれ。24時間、目を離すな」


「わかった」


護衛は……専用のモンスターが欲しいが、今はDPがない。

とりあえずシルヴァさんに頼むか。


あれ?

そういえば、勇者はレイゼルのコアを破壊せずに撤収したのか。

明日レイゼルに聞いてみるか。


そうして翌日から、レイゼルの尋問を始めた。


尋問といっても、拷問めいたものではない。

食堂の隅のテーブルに向かい合って座り、お茶を飲みながら話を聞く。

シルヴァさんが淹れたお茶を、レイゼルは遠慮なく飲んでいた。


「コアの防衛はシルヴァさんに頼んだ、変な気を起こすなよ」

「シルヴァさんか。彼女、戦えるのかい?」

「とぼけるな。シャドウを返り討ちにしたんだ。知ってるだろ」


本当に口のたつ奴だ。


「そういえば、勇者はお前のダンジョンでコアを破壊せずに撤収したのか?」


その問いに、レイゼルではなく、レイゼルについていたチュウタが答える。


『勇者、コア破壊してた』


コアが二つ?


「……なるほど。ダミーコアか」

「ご明察」


ダミーコア。

管理権限レベル5の報酬。

見た目からエーテル反応までコアそっくりの偽物だ。

ただし、一つしかない。


「なるほど。じゃあ間違いなくこっちのコアは本物ってことだな」


気を取り直して、本題に入ろう。


「まず聞きたいのは、勇者だ。なぜお前のダンジョンに来た」


レイゼルは湯気の向こうで少し考えるように目を細めてから、口を開いた。


「私のダンジョンの周辺で、村が襲われた」

「村が?」

「モンスターの群れに踏み荒らされた。死者も出た。最初は一つだったのが、二つ、三つと増えていって、すぐに街にも噂が広がり、教会の耳に入った」

「お前がやったのか」


レイゼルは首を振った。


「やってない。村を襲うメリットがない。DPにもならない。」


確かにそうだ。

ダンジョンの外で人が死んでもDPにはならない。

村を襲う理由がない。


「じゃあ誰がやった」

「嵌められたんだよ」


レイゼルの声から軽さが消えた。

お茶の器を置き、こちらをまっすぐ見る。


「あるダンジョンマスターが、敵対するダンジョンマスターの周辺の村や街を意図的に襲っている。被害が出れば住人が騒ぐ。ギルドが動く。探索者が派遣される。そうなれば、襲われた側は探索者と戦いながらダンジョンも守らなきゃならない。二正面作戦だ」

「……つまり、お前は襲われた側か」

「そう。まぁ勇者まで来たのは向こうも計算外だったみたいだな。普通は上級探索者止まり。勇者なんて来たら危なくて攻める方も攻められない」


汚い手だが、理に適っている。

ダンジョンを直接攻めるにはリスクがある。

だが人間社会を経由すれば、被害なく敵を削れる。


「そいつは誰だ」

「大陸の東端にいる。名前は知らない。掲示板でも素性を出してない。ただ、やり口だけは分かってる。私以外にも同じ手で潰されたダンジョンマスターがいるはずだ」

「証拠は」

「ない。だから気付かなかった。後から調べればあいつの周辺だけ村の被害が少なくて、周りのダンジョンマスターがどんどん消えていた」


レイゼルの語り口は淡々としていた。

悔しさはあるが、感傷に浸っている余裕はないという顔だ。

自分が嵌められた経緯を、分析対象として話している。


ただし、俺はこいつの話を全部は信じない。

レイゼル自身が同盟を脅しと嘘で作った側だ。

完全に清廉な被害者ではない。

「村を襲うまではしていなかった」という線引きが、こいつのグレーさの境界だろう。


「なるほどな。お前は村を襲わなかった。でも村や街にちょっかいはかけていた、違うか?」

「……否定はしない。よくわかったね」

「だから他のダンジョンと違ってお前の場合は勇者が来た、ってことだな」

「分かってるよ。手を広げすぎた。目立ってたから勇者が来た。そこは自業自得だ。だが村を焼いたのは私じゃない」


その目に嘘はなさそうだった。

もっとも、嘘が上手い奴の目というのは、嘘をついていない時も同じ目をしている。

信用はしない。

だが情報としては受け取っておく。


「もう一つ聞く。そいつの戦力は」

「詳細は分からない。ただ、人間社会との接点を利用している以上、モンスターを大量にダンジョンの外へ送り出せる能力があるはずだ。それだけの余裕があるということは、ダンジョン自体もかなり育っている」


「ランキングには?」

「載ってないと思う。あいつは目立たないように立ち回ってる。私みたいに掲示板で暴れたりしない」

「お前は暴れすぎだ」

「自覚はある」


レイゼルが苦笑した。

初めて、作り物でない笑い方に見えた。


大陸東端に、人間社会を経由してダンジョンマスターを潰す手口のダンジョンマスターがいる。

直接戦わず、探索者を誘導して敵を排除する。レイゼルはその手口で嵌められ、勇者アルディオに踏み込まれた。


名前も顔も分からない。だが手口だけは分かった。


「レイゼル、そいつの手口はどこまで——」


話の途中で、頭の中にチュウタの声が割り込んだ。


『マスター、緊急』


声のトーンがいつもと違う。慌てている。


『近くの村で異変。モンスターの群れが村に向かってる。』

「シャドウか?」

『違う。ゴブリン』


レイゼルの顔が変わった。お茶の器を持つ手が止まり、軽さが一瞬で消える。


「あいつだ」


低い声だった。さっきまでの語り口とは別人のように硬い。


「私にやったのと同じ手だ。私の時はシャドウだった。次のターゲットは君だ」


同じ手口。

ダンジョンの周辺の村を襲い、被害を出し、人類を動かし、探索者を呼び込む。それを俺のダンジョンでやろうとしている。


「私にやらせろ。あいつの手口は私が一番知ってる」

「お前は出さない。まだ信用してない」


レイゼルの目が一瞬だけ鋭くなったが、すぐに視線を落とした。

反論しない。

立場を理解しているからだ。


「ラセツ、オト。出るぞ」

「おう」

「……了解」


ラセツが金棒を担いで立ち上がり、オトの気配が廊下の方で一瞬だけ揺れた。


村が焼かれる前に着けるかどうか。

それだけが、勝負だった。

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