第51話 報復
シャドウのマスターからのDMメールが届いたのは、全員が帰還した翌日のことだった。
【DMメール:レイゼル】
【報復を開始する。後悔しろ。】
一行だけ。あの軽い口調はどこにもない。
「……来るな」
「来ますね」
「あいつ、モンスターには殺されなかったんだな。意外といい奴なのかもしれん」
「単に本人がモンスターより強いだけかもしれませんけどね」
殺されててくれても良かったんだが。
そして、メールの数分後、チュウタから警報が飛ぶ。
『侵入反応。シャドウ。数が多い、すごく多い』
UIを開くとダンジョンの入口にシャドウの反応が密集していた。
「数は」
「三百以上。ダークミストも混じってます。三十体」
ダークミスト。
シャドウの上位種で、存在反応を偽装する能力を持つ厄介な個体だ。
前回の侵攻でも一体が偽装しながら逃走して、こちらの情報を持ち帰っている。
三百体のシャドウにダークミスト三十体。
同盟が崩壊して、出し惜しみする理由がなくなったのだろう。
今までとは桁が違う。
「マスター、これどうします?」
「どうもしない。来させろ」
ぽんこが一瞬きょとんとした。
「……来させる、ですか」
「ダンジョンを十階層にして、シルヴァさんをエンプレスにして、森を広げた。遠征部隊も帰還している。」
このスピード感、レイゼルも同盟相手がやられた後、遠征部隊が戻る前を狙ったのだろう。
いや、レイゼルのダンジョンからの距離を考えたら同盟相手がやられる前、交渉が決裂した瞬間に送っていそうだ。
狙いはいい、遠征部隊が戻ってなければ被害は免れなかった。
だが残念、こちらの幹部は帰還済み。
うちの幹部は休むということを知らないのだ。
「負ける要素がない」
さぁ。
御披露目だ。
「アニ、出番」
「分かった」
アニが立ち上がる。
ゴブリン部隊はすでに配置についている。
帰還直後だが、再編成は終わっていた。
シャドウの群れが一階層を進んでくる。
前回の侵攻で、レイゼルはこちらの洞窟構造の情報を持ち帰っている。
分岐の位置、罠の配置、迎撃ポイント。
全部知られている。
だからだろう。
罠がほとんど通用しない。
もともと物理罠は素通りするシャドウだが、前回大活躍した雷撃罠の効きが悪い。
「ふむ。予想はしていたが、どうやって雷撃を軽減してるんだろうな」
「雷耐性のスキルでしょうね。マスターのスキルですがモンスターにも多少は反映されます。うちのよわよわビリビリ罠なら十分です」
なるほど、きちんと対策してきている。
耐性スキル、地味だが重要だな。
「想定内だ。罠は捨てていい。アニ、五階層から迎撃しろ」
「了解」
一階層から四階層は素通りに近い状態で抜けられた。
罠で削れたのは二十体ほど。
残り二百八十が五階層に到達する。
アニ隊のゴブリンが五階層の通路に展開した。
指揮強化バフで通常のゴブリンよりも強化されている。
シャドウの先頭集団と接触した。
通路の幅を使って面で受ける。
アニの声が飛ぶたびに前列が入れ替わり、疲弊した個体が下がって新しい個体が前に出る。
途切れない壁がシャドウの進軍を食い止めている。
だがシャドウも数が多い。
アニ隊は各通路に配置しているが、シャドウの圧力に押されて少しずつ後退していく。
ダークミストが前に出てくると、ゴブリンでは止めきれず壁が崩れる、その隙間をシャドウが抜けていく。
「六階層まで下がれ。七階層との間に挟んで削る」
アニが後退しながら挟撃の形を作った。
六階層で受け止め、七階層から横穴を通して側面を突く。
シャドウの数が減っていく。
だが同時にゴブリンも消耗している。
七階層。
八階層。
押されながらも、アニ隊はシャドウを削り続けた。
九階層を抜けた時点で、シャドウの残りは三十体ほど。
ダークミストは四体倒して二十六体。
三百から六十に減らしたが、アニ隊のゴブリンも三割が戦闘不能になっている。
「アニ、十階層には入るな。ここで止まれ」
「了解」
十階層はシルヴァさんの森だ。
アニ隊が入ると、シルヴァさんの戦い方と干渉する。
六十体のシャドウが十階層の森に踏み込んだ。
「シルヴァさん」
「ええ。見えていますわ」
そして、森が動いた。




