第49話 140万DP
三つのダンジョンが落ちた。
地図UIから三つの点が消え、代わりにDP獲得の通知が届いた。
「DP入りました!ドルグから40万、メルティアから40万、バーゼンから60万。合計140万DPです!」
「……140万」
桁が違う。
今までで一番でかい獲得だ。
「マスター、今どんな顔してるかわかってます?」
「普通だ」
「にやけてますよ」
「……使い道を考える」
「貢ぎ先は決まってますけどね」
そういうぽんこの目線の先では、シルヴァさんがお茶を飲みながら微笑んでいる。
部隊はまだ帰還途中だ。
全員が戻るには十日はかかるだろう。
今回のDPは全て防衛に回すと事前に決めていた。
攻めの強化ばかり優先してきたせいで、ダンジョン本体とシルヴァさんの強化が後回しになっている。
DPの使い道を考え始めたところで、UIにもう一つ通知が来た。
【管理権限レベルアップ:6】
「おっ、Lv6です!追加項目が——」
ぽんこが読み上げようとして、止まった。
「——あー……」
【追加項目:保留中】
「保留中ですね。解放条件が満たされてないみたいです」
「なんだそれ。Lv6になったのに使えないのか」
「条件が何かは表示されてないです。初めてのパターンですね」
【次回管理権限レベル解放条件:同一リージョン内現存有効コア占有率50%以上】
「ぽんこ、同一リージョンってなんだ?」
「管理単位地域のことですね。マスターで言うと、この第三大陸です」
「なるほど。現存有効コアってのは生き残りってことだろ。占有率50%というと二人か、大陸で最後の二人になれってことか」
「……計算上はそうですね!」
UIを立ち上げ、残存管理者数を確認する。
「今の残存管理者数は48人、46人減らさなきゃいけない訳か。急に遠くなったな」
しばらくは放置だな。
「追加項目は……まあいい。後で分かるだろ。先にDPを使う」
気にはなるが、立ち止まっていても仕方がない。
140万DPの使い道の方が先だ。
まずはダンジョンの構造から。
「今うちは五階層だ」
「ちまちま拡張してきた結果ですね。森は五階層目に配置してます」
「森までたどり着いた探索者は」
「まだいません。でもそろそろ来そうです。四階層目まで到達した冒険者パーティーが先月ありました」
森を見られるのはまずい。
理由はいくつかあるが、一番大きいのはEランクの維持だ。
うちのダンジョンは今、外から見ればEランクの低レベルダンジョンということになっている。
洞窟の中にゴブリンがいる、よくある小型ダンジョン。
冒険者ギルドの評価もそうなっている。
そこに森の階層が出てきたら、話が変わるだろう。
ダンジョンの深部に森があるというのは、明らかに異質だ。
探索者が持ち帰った情報が出回れば、ギルドの警戒レベルが上がる。
それだけじゃない。
一度構造を知られた後で階層を変えたら、「構造が変わった」こと自体がバレる。
普通のダンジョンは勝手に構造を変えない。
変わったということは、管理者がいるということだ。
マスターの存在を匂わせる結果になる。
つまり、森は見られる前に奥へ押し込む必要がある。
「森を十階層に移す。今の五階層目の森を十階層目に移動させて、五から九階層に洞窟を挿入する形だ」
「森を奥にずらして、手前に洞窟を足すんですね」
「ああ。洞窟は壁があるから面積あたりの探索時間が稼げる。森は平面だから同じ時間を稼ごうと思ったら膨大な面積が要る。コスパが悪い」
ここまでダンジョンを運営してきて辿り着いた結論だ。
シルヴァさんはドライアドだから、森の整備、木を生やす、下草を茂らせる、環境を維持する、はタダでやれる。
だから最初は「シルヴァさんがいるから森はコスパがいい」と思っていた。
しかしこれが完全に間違いだった。
森の面積を支配域として確保するDP自体が馬鹿にならない。
シルヴァさんが整備するのはタダだが、整備する場所を用意するのにDPがかかる。
「シルヴァさんに貢いでるみたいになってますよね」
「言うな」
「あら、光栄ですわ」
シルヴァさんは嬉しそうだ。
嬉しそうにされても困る。
だからこそ、森は最奥の一層に集中させる。
洞窟九層で時間と体力を削り、最後の森で仕留める。
「ただ、問題が一つあります」
「ん?」
「今ダンジョンの中に探索者が何組かいまして、構造を変えるにはダンジョン構造変更Lv2を使う必要があります。該当の4階層には探索者はいないですし、MPはシルヴァさんがいるので足りますね。まったく問題ありません!」
一通り喋ったあげく自己解決した。
「ならすぐやるぞ」
「わかりましたわ」
構造変更Lv2を実行する。
五階層目の森を十階層目に移動させ、五から九階層に空の洞窟を挿入した。
UIの断面図が更新される。
一から四階層は既存のまま。
五から九階層が新しい洞窟。
十階層が森。
三階層目にいる探索者のアイコンは位置が変わっていない。
「構造だけで20万DPです、罠とか内装も入れてトータル30万ですね」
「高いな」
「五階層分ですからね。でもこれでしばらくは森を見られる心配はないです」
【残DP:1,102,041】
次はシルヴァさんの進化だ。
アニ達に引き続き、シルヴァさんも進化が開放されている。
「シルヴァさんの進化メニューを出してくれ」
UIに二つの選択肢が表示された。
ドライアドクイーン(通常進化・10万DP)
ドライアド種の上位管理種。縄張り内の植物操作精度が向上し、森の維持・再生能力が強化される。
——女王が治める森は幸福の香りがする。
ドライアドエンプレス(特殊進化・70万DP)
ドライアド種の根源種。縄張りと自己の境界が曖昧になり、森そのものが肉体の延長として機能する。
——踏み入れたならば、彼女の中にいる。
「エンプレスは広大な縄張りと他種族の配下が進化条件です。だいぶ値段が違いますね」
「七倍か。アニ達の進化と比べても大分高いな」
「元の種族が高等ですからね。あとこれ、最終進化って書いてあります。ゴブリンはまだ先がありますけど、ドライアドはこの先がない。だから高いんでしょう」
「マスター?私はクイーンでも構いませんわ」
「気を使うな、あくまで俺自身のためだ」
70万は大きい。
だが10万のクイーンで妥協するのが正解とは思えない。
「エンプレスでいく」
「はい!」
進化を実行する。
光がシルヴァさんを包んだ。
だが今回は、光がシルヴァさんだけに留まらなかった。
十階層の森全体に波紋のように広がっていき、木々の幹が太くなる、枝葉が茂る、地面から新しい草が吹き出す。
木々が濃くなり、森の奥が見通せなくなっていく。
シルヴァさん個人の見た目の変化は控えめだった。
髪が少し長くなり、肌の緑が深くなった。
だが纏っている空気が違う。
彼女が立っているだけで、周囲の木々が寄り添うように枝を傾けている。
「あら……これは、いいですわね」
シルヴァさんが目を閉じて、深く息を吸った。森全体が呼吸に合わせるように揺れた。




