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第48話 同盟崩壊

三方向に同時に突入した。

あとは待つしかない。


チュウタが各方面の状況を中継してくれているが、映像があるわけではない。

断片的な報告だけが届くが、俺にできることは、ここで座って結果を待つことだけだ。


「マスター、お茶でも入れますか」


「……頼む」


ぽんこがお茶を淹れている間に、最初の報告が入った。




【side:ラセツ】


南方面のダンジョン。

ラセツ隊。


五層構造の防衛型ダンジョンを、ラセツは金棒一本で突き進んでいた。


ゴーレム主体の防衛陣形は堅い。

層を進むごとに数が増え、大型が混じり、配置も工夫されていく。

四層目では屈強な大型ゴーレムの群れにちょこまかとした小型ゴーレムが混じる。

それでもラセツは力任せにそれを打ち砕いてきた。


苦戦はしない。

だが無傷でもない。

大型ゴーレムの拳は重く、掠めるだけでも体が揺れる。

四層目を抜けた時点で、ラセツの身体は傷にまみれていた。


「これを一人でやれってのは、主、実は頭悪ぃんじゃねぇか……?」


ちょろちょろとついてきていたゴブリンが答える。


『ラセツなら余裕だろ、と言ってましたよ』

「……はっ、余裕だけどよ」


五層目。

最下層への階段の前に、巨大ゴーレムが鎮座していた。

ラセツの三倍の背丈。

全身が黒い石で構成されていて、今までのゴーレムとは材質が違う。


金棒を叩き込んだ。渾身の一撃。

ヒビすら入らなかった。


「硬ぇ」


もう一発。

同じ箇所。

わずかにかけた。

だが「わずか」だ、通常打撃で壊すには何十発かかるか分からない。


「チュウタ、主に許可とれ!」

『わかった。……使っていいって』


ラセツの構えが変わった。

腰を深く落とし、金棒を体の後ろまで引く。

全身のエーテルが金棒に集中していく。


巨大ゴーレムの拳が天井を削りながら振り下ろされる。


ラセツの金棒が、その拳より先に届いた。


一撃。


音が遅れてきた。

黒い石の体に亀裂が走り、胴体から肩へ、肩から頭へ、頭から脚へ。

全身に広がった亀裂が一瞬止まり——内側から弾け飛んだ。


【悪鬼固有スキル:蓄積解放「威致解鬼(いちげき)」】


コア部屋の護衛はダンジョンマスターごと金棒の数振りで片が付いた。

コアを破壊し、ダンジョンが停止する。


「チュウタ、マスターに伝えろ。南、終わり」

『怪我は?』

「余裕だって言っとけ」




【side:ユート】


『マスター、ラセツ隊から報告です。南方面、陥落』

「……早いな」

「ラセツさんですからね」



【side:オト、イモ】


西方面ダンジョン。

オト隊。


全二十階層のギミック型ダンジョンを、オト隊は異様な速度で駆け抜けていた。


罠と迷路の多層構造。

分岐のどれが正解か、普通の部隊なら一つずつ試して消耗していく設計だ。

だがイモがいると、迷う工程が丸ごと消える。


「三番目の通路だよ。あ、途中に落とし穴があるからオト兄ちゃんも気をつけてね。物理的なやつ」

「……落ちない」

「落ちたら面白いのに」


イモの判断は階層を重ねるごとに速くなった。

空気の流れ、壁の材質、通路の幅。

設計者の癖を構造から逆算して読んでいる。

五階層目あたりでパターンを掴み、十階層目にはダンジョンの設計思想そのものを理解していた。


「このマスター、罠メインとモンスターメインのゾーンを交互にする癖があるね。分岐の正解は入口から二番目に遠いところ。これ多分十五階層を超えると単調になるんじゃないかな」


十一階層目からは単体でも強力なモンスターが混じったが、オトの前では意味をなさなかった。

エーテル感知型の罠はオトに反応しない。

迎撃モンスターはオトが近づいていることに気づかない。

罠を素通りし、モンスターの背後に回り込み、気づかれる前に斬る。


二十階層目。

コア部屋の護衛モンスターが八体。

ダンジョンマスターの姿もある。


オトが消えた。


護衛モンスターとダンジョンマスターが次に見たオトの姿は、コアを破壊するその瞬間だった。


コア破壊。

ダンジョンが停止する。


「チュウタ。西、終わりです」

『……早くない?』

「普通」




【side:ユート】


「マスター、オト隊からも報告です。西方面、陥落。二十階層を攻略」

「何時間かかった」

「えーっと……小腹がすいてきたくらいですかね」

「……時間を聞いてるんだが」

「半日かかってないみたいです」

「二十階層を半日?」

「イモちゃんとオトさんの組み合わせが異常なんですよ、たぶん」




【side:アニ】


東方面、アニ隊。


物量型のダンジョンにアニ隊は物量で突っ込んだ。

通路が広く、迎撃モンスターの数が多い。

向こうの武器も数、こちらの武器も数。

だがアニの指揮強化バフがかかったゴブリン達は、一匹一匹が進化種並みの動きをしている。

同じ数のぶつかり合いで、兵の質が一階級違う。

結果は最初から見えていた。


敵の前列とぶつかる。

押し負けたのは向こうだった。

アニ隊のゴブリンは一合ごとに相手を押し込み、崩れた穴にはすぐ後列が入る。

アニが「右を詰めろ」と声を出すと、右翼が半歩前に出て敵の側面を圧迫した。

声一つで陣形が動く。

模擬戦で見せた統率が、そのまま実戦で機能していた。


二層目、三層目。

迎撃モンスターの数は増えていくが、アニ隊の進軍は止まらなかった。

敵がどれだけ並んでも、一匹一匹の質で負けている以上、並んだ分が削られるだけだ。

通路の幅いっぱいにゴブリンの面が広がり、面で押し、面で削り、面で進む。


アニは最前列にはいない。中央のやや後方から全体を見ている。

前列が崩されかける箇所があれば声を出し、後列から補充を送る。

どこが薄いか、どこが余っているか。

常に全体を見て、声で動かす。

アニ自身は一度も武器を振っていない。


八層目で、流れが変わった。


オーガが出てきた。

以前の遠征で苦しめられた、通常モンスターとは桁が違う種族だ。

その時は、圧倒的な能力の差に、数が意味をなさなかった。


前列のゴブリン数体をまとめて薙ぎ払い、陣形に穴を開ける。

一体の力は確かに圧倒的だった。

腕を一振りするたびにゴブリンが吹き飛び、空いた穴から通常モンスターが流れ込もうとする。


だがアニ隊は止まらなかった。


薙ぎ払われた分だけ後列が差し込まれる。穴が開いても、一秒で埋まる。


オーガの周囲をゴブリンが囲んでいく。


「上だ、壁を使え!」


アニの命令により、ダンジョンの壁をよじ登り、横からも、上からも飛び移るように襲いかかる。


そうして数十体が絶え間なく取りつくと、オーガの動きが目に見えて鈍っていった。


腕を振る。

三体が吹き飛ぶ。

だが振った腕が戻る前に、反対側から五体が取りつく。

足を踏み出そうとすると、足首に二体がしがみついている。

振り払う。また来る。途切れない。


象にたかる蟻だ。

一匹一匹は小さくても、数が途切れなければ象はいずれ沈む。


オーガが膝をついた。

まだ戦える体だったが、もう動けなかった。

四方をゴブリンに囲まれ、一歩も踏み出せないまま殺された。


その後、オーガが何体こようともアニ隊は崩れなかった。


以前は、正面から蹴散らされた。

一体出てくるだけで隊が崩壊しかけた。

それが今は、アニの隊の前では数に飲まれて沈んでいく。


コア部屋まで同じ調子だった。

ダンジョンマスターと護衛モンスターを数で飲み込み、コアを破壊する。


「……戻るぞ」




【side:ユート】


「マスター。アニ隊から報告。東方面、陥落」

「損耗は」

「死亡多数、重傷多数、問題ない、だそうです」

「問題ないって……」

「ゴブリンさん達はあれですからねぇ。『死は誉れ』です」

「ダンジョンに還った、か」


三つの点が、地図UIから消えた。


南のドルグ。西のメルティア。東のバーゼン。

レイゼルの同盟は、一日で崩壊した。


「ぽんこ」

「はい」

「全員帰還させろ。急がなくていい。怪我した奴は休ませながら戻れ」

「了解です」


レイゼルは今頃、同盟の三つと連絡が取れなくなっていることに気づいているだろう。あの軽い声が、どんな顔で沈黙しているのか。少しだけ想像して、やめた。


「お茶、冷めちゃいましたね。淹れ直します?」

「……頼む」

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