第47話 レイゼル
【DMコール】
ピピピ……ピピピ……
【着信:レイゼル】
「……なんだこれ」
「DMコールです!ダンジョンマスター同士の音声通話。管理権限レベル3で解放されてたんですけど、今まで一度も使ってなかったですね」
「レイゼルって誰だ」
「えーっと……手短に説明します!DMコールで連絡できる相手は『ダンジョンに
接触した相手』だけです!うちのダンジョンに攻めて来たのはシャドウのマスターだけですから、ヤツかと!」
シャドウのマスター。
侵攻を仕掛けてきているあいつが、連絡?
電子音が鳴り続けている。
「出たらこっちの情報が漏れるリスクは」
「声だけです。それ以外のデータは共有されません」
「……よし、出る」
通話を開始した。
数秒、無音が続いた。
「……ユートだ」
「ああ、よかった。出てくれないかと思った」
拍子抜けするほど普通の声だった。
若い。俺とそう変わらないかもしれない。
少し早口で、声の輪郭が軽い。
「私はレイゼル。シャドウを管理してる者だ」
「シャドウを送り込んでる者、と言ったらどうだ」
「フフフ、撃退してるんだからいいじゃないか。あれは倒す気半分、牽制半分でやってたからね」
悪びれない。
何度も攻め込んできた相手なのに、声だけ聞くと隣の席の奴と話しているみたいだ。
「掲示板もお前か?」
気になっていたことを聞く。
掲示板における情報の暴露、俺への警戒の呼びかけ、こいつ以外にメリットがない。
「そうだよ。掲示板に書いたことは本心だ、私はあなたを評価しているんだよ。だから掲示板も使うし、こうして連絡もする」
嫌な評価だ。
「で、何の用だ」
「単刀直入に言う。私は周辺のダンジョンマスターと同盟を結んだ」
「同盟?」
「南のドルグ。西のメルティア。東のバーゼン。私を含めて四ダンジョンの連合だ」
南。西。東。
そして北のレイゼル。
ダンジョン間はかなり離れている。
攻める側も攻められる側も、手が届く範囲は限られる。
うちの周辺で届く距離にあるのは、もう数ヶ所しかない。
同盟相手は、その数ヶ所のうちの三人。
「それぞれ違う特徴を持ってる。あなた一人で四つを同時に相手にするのは、さすがに厳しいと思うよ」
「それで、降れと」
「降伏とは言わない。協力関係だ。管理権限もダンジョンの運営も今のまま。ただ、まとめ役は私がやる」
「断ったら?」
「四対一になる」
「……レイゼル、一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「その同盟はどうやって成立させた。ダンジョンマスターは最後の一人になるまで殺し合うしかない。全員それを知ってる。手を組もうって言って、信じる奴がいるのか」
「……鋭いね」
レイゼルの声のトーンが少し変わった。
軽さは消えていないが、言葉を選んでいる。
「まあ正直に言うと、綺麗な交渉じゃなかった。脅したり、騙したり。中にはもう勝つのは諦めて少しでも長生きできればいいと思う者もいる」
あっさり手の内を明かす。
「正直に話すんだな」
「あなたに嘘をついても意味がないと思ってね。頭がいい人には正直に話した方が早い」
「褒めてるのか」
「褒めてる。で、どうする?四対一だ。降りた方が賢い」
「…………」
レイゼルは、俺がこの同盟を聞いてどう思うかまで計算して話している。
脅しと嘘で作ったと自分から明かすことで、「自分だけは特別」と俺に思わせようとしている。
同盟の中身がどうあれ、四対一は事実だと押す。
対人の勘がいい。
人を説得することに関しては、間違いなく俺より上だ。
「ユート?黙ってるけど、考え中?」
「ああ、考えてる」
「急かすつもりはないよ。大事な決断だ」
その時、チュウタから念話が割り込んだ。
『イモから伝言。DMコールの連絡先見てー、だって』
イモ。
今、西のダンジョンに向かっているはずのイモ。
なんでこのタイミングで——
『ぽんこ。DMコールの連絡先リストを出してくれ』
バレないように念話でぽんこに話しかける。
「え?今ですか?イモちゃんが?なんででしょう……」
ぽんこが首をかしげながらUIを展開した。
一瞬で表情が変わる。
「——マスター。これ」
連絡先リストに三つの名前が並んでいた。
ドルグ。メルティア。バーゼン。
チュウタが偵察で各ダンジョンに潜った時点で、接触扱いになっていた。
こっちからも連絡できる状態だったのに、今まで気づいていなかった。
レイゼルが挙げた三つの名前。
UIに並んだ三つの名前。
一致している。
つまり、奴の同盟相手は丸々今回の遠征相手……
「ユート?まだ考えてる?」
「まとまった」
「それで?」
「断る」
短い沈黙。
「……残念だ。理由を聞いても?」
「四対一にはならない」
沈黙が長くなった。
「……ハッタリだな」
「そのうち分かる」
「曖昧な脅しには動かないよ。具体的に——」
「レイゼル」
「……何」
「お前は交渉がうまいよ。本気でそう思う」
「……その言い方、不吉だね」
「タイミングが違えば、俺はお前に取り込まれただろう」
「……」
数秒の沈黙の後、レイゼルが口を開いた。
声から軽さが消えている。
「一つだけ聞かせてくれ。あなたは今、何かを仕掛けてるのか」
「さあな」
「……そうか」
また数秒。
「ユート。後悔するぞ」
「覚えておく」
通話が切れた。
「……マスター」
「ああ」
「よくがんばりました」
「あぁ。さすがに疲れた……」
余韻を振り切る。
「全部隊に通達。作戦開始」
ぽんこが命令を飛ばす。
三方向に、同時に。
南のドルグに、ラセツ隊が突入する。
西のメルティアに、オト隊が潜り込む。
東のバーゼンに、アニ隊が押し寄せる。
レイゼルは今、同盟の三つで俺を潰すと宣告した。
だがその三つは、今まさに攻め込まれている。
レイゼルがそれを知るのは、もう少し後の話だ。
「チュウタ」
『なに?』
「イモに伝えてくれ。助かった、と」
「……あの子、なんでこのタイミングで分かったんでしょうね」
分からない。
だが確かにあいつらしい。
必要な時に、必要なものが分かっている。




