第45話 サヴァンとナイトストーカー
【残DP:162,041】
次はオトだ。
ゴブリンナイトストーカー、8万DP。
【ゴブリンナイトストーカー】
ゴブリン種の隠密特化亜種。闇に適応した肉体は光を吸収し、音を減衰させる。知覚回避に加え、エーテル感知型を含むあらゆる探知系の罠に対して閾値以下の存在濃度を維持する。
——闇は全てのものに安眠を与える。
「ぽんこ、この種族説明……罠が反応しないってことか?」
「はい!ナイトストーカーはエーテル反応が薄すぎて、罠の感知範囲を下回るんです。なので物理的な落とし穴とかは普通に落ちます!」
澄まし顔で落とし穴に落ちるオトを想像してしまい、顔がにやける。
しかし、罠に引っかからない。それだけで敵ダンジョンの攻略難度は大分下がる。
実行。
光がオトを包んだ。
アニの時は光が膨らんだが、こいつは逆だ。
光が縮んでいく。
薄くなっていき、消えかけている。
光が消えた。
——いない。
「消えました!」
全員が辺りを見回す。
俺もだ。
目の前にいたはずの奴が消えた。
気配ごといなくなった。
「いるぞ」
ラセツだけが動かない。
一点を睨んでいる。
「そこだ。二歩前」
言われてみれば確かにいる。
見えていたのに、気付かなかった。
輪郭が背景に紛れ、視線が滑る。
手足は細く長く、肌は黒い。
顔からはゴブリンの面影が完全に消えている。
痩せぎすの少年。
儚い雰囲気すら漂わせる、病弱そうな少年がそこに立っていた。
「オト」
「……いる」
声が返ってきた。
オトも喋れるようになっている。
だが、声に質感がない。
聞いたはずなのに記憶に残らない。
「オト、今なんか能力使ってるか」
「使ってない。素」
素で立っているだけでまともに見つけられるのがラセツだけ。
しかも罠に引っかからない。
こいつを敵ダンジョンに送り込んだら、迎撃も罠もすり抜けて、コアまで一直線に歩いていけそうだ。
「こいつとは戦いたくねぇな。味方ってわかってても怖いわ」
ラセツの言葉に、オトは何も返さなかった。
【残DP:82,041】
ラスト、イモ。
ゴブリンサヴァンが8万DP。
【ゴブリンサヴァン】
異端。
——この者を計ることをしてはいけない。あなたに見えない物が見えているのだから。
異端、情報はそれだけだ。
この種族説明を書いた奴は正気か。
実行。
光に包まれ、そのまま消える。
変わっていない。
小さい、丸い、ゴブリン。
「……見た目そのままだな」
「そうですねぇ」
アニは戦士に。オトは闇に。イモは、かわいいまま。
「むむ……」
イモが声を出した。
念話じゃない。
ふわふわした喋り方はそのままで、ちょっと安心する。
「あー……なんか色々変わりました。魔法使えるっぽいです」
「色々って何だ」
「えーっと、前よりよく見えるっていうか……わかるっていうか……あーそういうことか」
「なにかわかったか?」
「あ、いや別のこと考えてました」
結局、なにがなにやらわからない。
「イモ、今この場所で何か変わったものが見えるか」
「はい。ゴブリン達から何かが出てアニ兄ちゃんに入って戻っています」
俺たちには見えないものが、こいつには見えている。
「ああ、エーテルってそういうことか……同期した対象から鍵を取得して……はー、よく考えたね、こんなの」
「なにかわかったか?」
「面白いです」
「何もわからん」
面白いで済ませるのがイモらしいが、俺は済ませられない。
しかし、今の様子を見ていて思い出したことがある。
前の遠征で、イモをガイドにつけた。
行き止まりを一目で見抜き、安全地帯を嗅ぎ当て、敵の位置を当てていた。
あの時は、勘がいいで片づけた。
勘じゃなかった。
こいつは最初から見えていた。
進化前の、あの小さな体で、ずっと。
今回の進化はそれをさらに強化しただけだ。
「この者を計ることをしてはいけない」。
種族説明の言葉が、急に重く聞こえる。
「この子、規格外かもしれないですよ」
「……見た目は一番かわいいのにな」
イモはきょろきょろしていた。
何が見えているのか。
本当のところは、戦場に連れていけば分かる。
【残DP:2,041】
「残DP、2,041です」
「……またか」
「ラセツさんのときも使い切りましたよね」
全部使った。31万。
だがこの31万で手に入ったものは、今までのどの投資よりもでかい。
部隊をまるごと格上げするジェネラル。
罠を素通りし、存在ごと消えるナイトストーカー。
何が見えているのか誰にも分からないサヴァン。
こいつらが三方向に同時に突っ込む。
「さて、どこを落とすか」




