第44話 ゴブリンジェネラル
進化候補をUIに並べた。
アニ。ゴブリンジェネラル、15万。
オト。ゴブリンナイトストーカー、8万。
イモ。ゴブリンサヴァン、8万。
合計31万。
全部買ったら残り2,000。
「……やるか」
「やりましょう!」
迷う理由がない。
全部入れる。
最初はアニだ。
ゴブリンジェネラルで15万DP。
【ゴブリンジェネラル】
ゴブリン種の上位指揮種。配下の戦闘能力を自身の指揮力によって底上げする固有能力を持つ。有効範囲は広く、部隊規模での運用を前提とした種族。
——その強さは、自らの腕にではなく、従える者たちの中にある。
「なんかすごそうだな」
「特殊進化ですからね。ゴブリンは特殊進化先が多い種族ですが、それでも相当珍しいんですよ」
実行。
光がアニの体を覆う。
背丈が伸びていく。
子供のサイズが青年のサイズへ変わり、まだ止まらない。
肩が広がり、首が太くなり、腕が長くなる。
光が消え、姿が見えるようになった時、そこにいたのはゴブリンと呼んでいいのか迷う体だった。
人間の青年と変わらない体躯。
顔にゴブリンの名残はあるが、もう子供じゃない。
ホブゴブリンとも格が違う。
周囲のゴブリンたちが騒いでいる、騒いでいるのだが——なにかおかしい。
構えを取っているわけでもないのに、全員の立ち姿がさっきまでと別物になっている。
「ぽんこ。こいつら、どうした」
「『指揮強化』です!ジェネラルの固有能力。範囲内の配下を底上げするバフです」
「範囲は」
「半径500メートル!隊単位で動いてれば全員入ります!」
半径500メートル。
部隊が多少散開しても効果が切れない。
アニが口を開いた。
「構え」
声だった。
念話じゃなく口から出た、低く硬い人間の言葉。
それに驚く暇もなく、ゴブリンたちが動いた。
速い。
中型ゴブリンの動きが、先ほどのホブゴブリンのような鋭さになっている。
他の個体も同じだ。
全員が一段上の動きをしている。
「……全員進化種並みかよ」
「そのようだな」
「お前、喋れるようになったのか」
|「ゴブゴブ」《『ゴブリン語も話せるぞ』》
アニは特に感慨もなさそうだ。
こいつは自分が変わったことより、部隊がどう変わったかのほうが気になっている。
こいつらが戦うとどうなるのだろうか。
「アニ。強化されたゴブリン100と、通常ゴブリン500で模擬戦やれるか」
「やれる」
「100対500、ですか?」
ぽんこが心配そうにしているが、数字を間違えたわけじゃない。
バフが本物なら、5倍の差を質でひっくり返せるかどうか。
それが知りたい。
「場所は森の広場でいい。死なない程度に全力でやらせろ」
アニが頷いて、すぐに段取りに入った。
こういう時の動きを見ていると姿形は変わったが、確かにアニなんだな、と感じる。
十分後。森の広場に600体のゴブリンが集まった。
アニ側の100体は、半径500メートルの圏内に収まっている。
見た目は通常ゴブリンと変わらない。
だが立ち姿が違う。
重心の位置、目線の高さ、間合いの取り方。
バフがかかっているだけで、全員がひとつ上の兵隊に見える。
対する500体は数で圧倒しているが、いつも通りの動き。
「始め」
アニの一言で全員が動いた。
衝突の瞬間に分かった。
次元が違う。
100側の先頭が500側の前列に突っ込む。
一撃で崩れた。
500側は受け止めようとしているが、反応が間に合っていない。
100側の方が速く、正確で、判断が早い。
一合ごとに500側が後退していく。
数の差は確かにある。
500側が包囲しようとする動きも出ている。
だが100側は崩れない。
公平を期すために、100側にもアニの指示はない。
それでも、100側は陣形を組み、一点突破で敵の中を駆け抜けることで包囲を破壊する。
群の力も個の力も100側が圧倒している。
500側が左翼から回り込んで100側が薄くなるが、その薄い部分を担当している数体の動きが鋭い。
一対三でも押し返す。
通常ゴブリンがホブゴブリンの動きをしている以上、数体で十数体を受け持てる。
五分。
500側の陣形が崩壊した。
それを見て、アニが一言短く言う。
「終わり」
全員が一斉に止まった。
「五倍を正面から潰したぞ」
「ですね。範囲が広いので散開しても効果が切れなかったのが大きいです。これ隊単位で遠征させたら……」
ぽんこが言いかけて、黙った。俺も同じことを考えている。アニ隊にゴブリンを1000体つけて遠征に出す。
それだけで1000体のホブゴブリン相当の部隊ができあがる。
ホブブリンは生成したら1000DP、1000体いれば100万DP。
それが、アニがいるだけでいい。
15万は安すぎた。




