第43話 模擬戦
アニがゴブリンを四体連れてきた。
もう大きさからして違う、小、中、大のゴブリン。
そして一際目を引くのは、ゴブリンの外見をしているが、背が高く手足が伸び、人間に近い大きさの一体。
「なんだそのでかいの、そんなのいたか?」
『この間の遠征で進化した。ホブゴブリンだ』
「ゴブリンの上位種ですね!順当進化です!」
「よし、じゃあ小さいのから順番だな。本気でやらせろ」
『いいのか?』
「死んだり大怪我しそうだったらそっちで止めてくれ」
俺も男だ、強くなったと思ったらちょっと本気で戦ってみたくなってきた。
でも回復手段なんてないからな、怪我は困る。
ちなみに回復魔法は50万DPだった。
これもそのうち欲しい。
そうして模擬戦がはじまる。
一戦目、ゴブリン(小)
生成されたてのゴブリンだ。
開始直後、駆け寄りざまに腹に蹴りを一撃。
小さな身体が吹き飛んだ。
ゴブリンは起き上がって、きょとんとした顔でこちらを見ている。
なんかすまん。
弱いものいじめになってしまった。
二戦目、ゴブリン(中)
一回り体が大きいゴブリンだった。
目つきが違う。
普段から探索者を相手に生き残り、シャドウの迎撃を何度かくぐり抜けた個体だ。
ゴブリンが先に動いた。
さっきの比じゃない速度で棍棒が横から飛んでくる。
反射的に腕でガードすると衝撃が骨に響いた。
痛い。
痛いが、それだけだ。
強化前なら、たぶん折れていた。
こっちから踏み込んで殴る。
当たった。
だが効きが薄い。
体幹がしっかりしていて、一発では崩れない。
即座に反撃が来る。
棍棒が下から顎を狙って振り上げられ、首を捻って避けると風が頬を掠めた。
距離を取り直す。
ここからは足の速さで勝負だ。
もう一度踏み込み、フェイントを入れて右から回り込む。
強化された脚力がゴブリンの反応を上回り、横が取れた。
脇腹に一発、今度はまともに入った。
ゴブリンが膝をつく。
「おー」
「勝ったが、一発じゃ倒せなかったな」
「攻撃力は上げてませんからね!次あたり負けるんじゃないですか?」
「おい」
三戦目、ゴブリン(大)。
三体目が来た瞬間に空気が変わった。
遠征に参加し、敵ダンジョンを生き抜いた個体。
体格差はそれほどないのに、立ち方がまるで違う。
重心が低く、構えに隙がない。
こっちが踏み込む前に仕掛けてきた。
棍棒で真っ直ぐ突いてくる。
戦争を経験したゴブリンは、どう戦えば相手を殺せるか知っている。
横に飛ぶ。
避けた直後にもう次が来ている。
振り下ろしからそのまま横薙ぎに繋ぐ連撃。
相手を倒すことに最適化された、実戦での戦い方。
ガードが間に合わず肩を掠められて、HPが削れる感覚が走った。
一歩引いて間合いを作る。
ゴブリンは追ってこない。
こちらの出方を見ている。
賢い。
速度はこちらが上だ。
逃げ回っていればよほどのことがない限り、負けることはなさそうだ。
あとは勝てるかどうか、だ。
こっちから仕掛ける。
右のフェイントから左に回り込む——さっきの二戦目と同じ動き。
ゴブリンが左を警戒して体を回した。
読まれた。
だが、それでいい。
左に回ると見せて、足を止める。
ゴブリンが回った分だけ正面がガラ空きになった。
そこに踏み込んで、一発。
まともに入る。ゴブリンがよろめき、踏みとどまった。
まだ立っている。
追撃に入る。
距離を詰めてもう一発、ゴブリンが棍棒で受けようとするが速度差で間に合わない。
胴に当たったが、今度は耐える。
ゴブリンが短く持った棍棒を、振る。
バックステップでかわし、距離を取る。
その後、似たようなやりとりを数回重ね、やっとのことでゴブリンが倒れた。
時間はかかったが、勝てた。
「ふむ、結構動けるな」
「ゴブリンさんは探索者さんなら大体倒せますからねぇ。中級探索者には負けるくらいだと思いますよ!」
「ま、いいさ。通常モンスターに勝てれば今は十分だ」
そして、最後の一体、ホブゴブリンを見る。
「ホブゴブリン!ちょっと動いてみてくれ」
そう言うと、ホブゴブリンは素早く戦闘体制を取り、武道の型のように鋭い素振りを始める。
うーん、俺より早い。
こりゃ勝てそうにないな。
「よし!ホブゴブリン戦は不戦敗としよう」
そう宣言した俺に、皆が思い思いの言葉を吐く。
「んだよ、そんなんありかよ」
「さすがマスター!弱者としか戦わない!汚い!」
『戦場に来るならもう少し強くなってくれると助かる』
「でもマスター、強くなりましたね」
確かに、元の弱さを考えたら五倍どころの話じゃない。
ぽんこの言う通り、ダンジョンマスターの強化は相当コスパがいいようだ。
ま、それにしても最終手段だけどな。
と、余興めいたことまでしたところで。
実はここまではまさに余興、前座というわけだ。
今回の強化はここからが本命。
「よし。本題に入る」
残り30万DP。
これが今回の勝負所だ。
三つ同時に落とすには、三部隊が独立して動ける必要がある。
ラセツはいい、あいつは一人でもダンジョンを落とせる。
だが今のアニ、オト、イモではまだ足りない。
戦力は上がったが、単独で敵ダンジョンを攻略できるレベルにはない。
方法は一つ。
「進化させる」
「おっ」
「アニ、オト、イモ。三体ともだ」
『……おお!』
アニが唸る。
それに呼応するように、ぽんこの目がきらりと光った気がした。
「いいですね!進化UI出しますよ!」
UIに、三兄妹の進化候補が並ぶ。名前と、コストと、簡易説明。
「全員ホブゴブリンは出てます!ホブゴブリンはコスト0DP、通常進化はコストが低く、一定のエーテル濃度を越えると自動で進化可能になります。特殊条件を満たした場合は、特殊進化先が開放されます」
全員、ホブゴブリン以外の特殊進化がリストに載っている。
だが、その数字を見て、俺は一瞬黙った。
「……高いな」
「ええ。高いです」
「30万で足りるのか、これ」
「ギリギリですね」
ギリギリ。いつものことだ。
画面に並ぶ進化先の名前を、一つずつ確認する。




