第3話 ダンジョンをつくろう
ミッション報酬の500DP。
時給1DPの俺からしたら500時間分の給料と同額だ。
これで、ダンジョンを作り直す。
「よし、通路を伸ばす。まずは距離だ」
「はい!距離は正義です!」
ウィンドウを開く。
【支配域化:3m×300m×4m必要DP:100】
支配域化は3×3メートルが最小単位で1DP。
支配域化で空間を支配すれば、中身は自由に設定できる。
高さは4メートルごと。
「まとめてやる。とりあえず直線で300メートルだ」
「マスター、急に手際が良くなりましたね!」
「命がかかると成長するんだよ、人間って」
壁が消え、一本の通路が一気に奥へ延びた。
さすがに300メートルあれば、奥は真っ暗だ。
その暗さに心が少し落ち着く。
直線通路の奥からは、数メートル単位で支配域化と通路形成を繰り返す。曲げて、曲げて、分岐をつくり、また曲げて。
「マスター!コア部屋は支配域の中なら自由に移動可能です!奥に移しましょう」
「なるほど、どんどん奥に移していけるんだな」
そうして、更に100DPほど、細かい整形に消えた。
【残DP:305】
コア部屋から入口までの距離は、もう500メートル近くある。
完全に姿の見えない奥の闇を見て、初めて肩の力が抜けた。
「これなら、少しはマシか」
「はい!侵入者さん、来るだけで疲れます!」
「表現はともかく、安心感はあるな」
「生体反応!マスター、侵入者です!」
「クソっ、またか……!」
カサ、カササ
通路の奥から、ネズミが一匹、チョロチョロと入ってきた。
「・・・もしかして、侵入者ってあれか?」
「はい!ダンジョンの魔力って、小動物さんの本能を乱しちゃうので。よく迷い込むんです」
そう言っている間に、奥からまた足音がした。
カサッ、カササッ。
二匹のネズミが、迷うようにふらつきながら入ってくる。
「あ、二匹一緒に来ましたね!仲良し!」
「いや全然嬉しくないぞ」
「どうにか出来ないのか?」
「マスターが素手でネズミを捕獲して、殺害できるならどうにかなります」
無理だ。
「なるほど!それではマスター、次のステップに進むしかありません!」
「次?」
ぽんこは胸の前で両手を揃え、きりっとした顔をしてみせる。
お団子が回転し、白銀の髪が揺れる。
「マスター!ここからはモンスター生成についてご説明します」
ぽんこの言葉とともにUIが表示される。
【モンスター生成】
・スライム:5DP
・コウモリ:30DP
・ゴブリン:100DP
・コボルト:200DP
・ゴーレム:400DP
「高いな」
「高いです」
「スライムで5DPってなんだよ。命の価値が重いのか軽いのか分からん」
「軽くはありません。モンスターはダンジョンの維持を助ける存在なので、生成にはどうしてもDPを消費します」
「なるほどな。人件費みたいなもんか」
「人件費です」
「生成って、こいつらを生み出してダンジョンで働かせるってことだよな」
「働かせるという表現は正確ではありません。彼らは迷宮環境に適応した生命存在です。環境を安定させたり、侵入者に反応したり、支配域の自然維持を助ける存在です」
「働いてるようにしか聞こえないんだが」
「そうですね、まず生成したモンスターは死亡しても存在は消えません。ダンジョンに還り、またダンジョンから生まれます。」
「リスポーンか」
「はい、その際にコストはかかりません。自然発生したエーテルを吸収し、再生成されます。」
「今回は練習です!ネズミさん相手ならスライムで十分です」
「よし、それじゃスライムを生成だな」
生成を意識すると、DPが消える感覚が胸の奥に広がる。
【5DP消費→残DP:300】
「はい!スライム生成完了です!」
通路の中央に、ぷるっとした透明のかたまりが盛り上がった。
瑞々しい半球、内部で光がゆらめき、ゼリーみたいに震えている。
「かわいいな?」
「かわいいです!!」
ぽんこが胸を張る。
スライムはふるふる揺れながら、俺の足元に近づいて――ぴょん、と跳ねて逃げた。
「おい、逃げたぞ?」
「はい!初心者スライムさんは警戒心が強いので、まず逃げます!」
「働かないのか」
スライムは通路の影のほうで、小刻みに震えてこちらを見ていた。完全にビビっている。透明なくせに表情まで読み取れるのはなんなんだ。
「これ、戦力として数えていいのか?」
「ネズミさん相手なら勝てます!」
「それ最低ラインすぎるだろ」
「ですが、スライムさんはダンジョンの維持に重要です。不純物の処理、動物の処理、廃棄物の処理など……」
「処理?」
「食べます!」
「食べるのか」
「はい!ダンジョンにはゴミ捨て場はありませんからね。誰かが処理しないと不衛生です」
うーん、まぁ確かにそうか。
そんな話をしていると、通路の奥で影が動いた。
チョロチョロ。
「あっ。ネズミさんです!」
「お、今日の主役だな」
その姿に即座にスライムが反応した。ぷるん、と身体を震わせ――
逃げた。
「逃げんな」
「いえ!スライムさんは基本、逃げます!ただし、逃げながら弱いものだけ襲うんです!」
スライムは通路の角に追い詰められつつも、ネズミが射程に入ると。
ぱしゅっ。
伸びたスライムの一部が、ネズミの背に張り付いた。
「お、捕まえた」
「はい!スライムさんは吸着が得意です!」
ネズミは暴れたが、スライムの体がじわじわ覆い、やがて動きが止まる。
ウィンドウが浮いた。
【獲得DP:1】
【残DP:301】
「マスター!初殺害DP獲得おめでとうございます!」
「いいのかこれ。ネズミで初DPって」
「初期はみんなそうですよ!健全です!」
「健全の基準が特殊すぎる」
「で、DPは理解した、モンスターは他に何を得る?経験値とかあるのか?」
「あります!モンスターさんが勝利経験を積むと、成長します!」
「レベルアップ的な?」
「レベルという概念はありませんが、強くなると理解して問題ありません!」
「ざっくりしてんな」
「真面目に説明しましょうか?生物が死ぬと空間中に分離化エーテルが放出されます、そのエーテルの一部はエーテル力学第三法則に則り、倒した生き物の体内に定着し、体組成エーテルの――」
「悪かった、やめろ」
スライムは捕食を終えて、満足そうにぷるんと揺れた。
「よし!ネズミ退治はお前の仕事だ、見つけ次第狩れ」
わかったのか、わかってないのか、スライムは相変わらずぷるぷる震えている。
「で、探索者相手には何を置くべきだ?」
UIをいじりながら俺が尋ねると、ぽんこは即答した。
「最適解はゴブリンさんです!二体でも運用できますが、包囲するなら三体が必須!」
「コボルトは?」
「コスパが最悪です!強いですが単価が高いので、一体しか買えません!」
「単価って言うなよ。店員か」
「モンスターは数です!単体は所詮単体!ダンジョンは群れで戦うのが基本です!」
【モンスター生成:ゴブリン 100DP】
三体分。
迷いはなかった。
召喚された瞬間、コア部屋の床に、どすん、と重さのある三つの影が現れた。
背筋を丸め、鼻を鳴らし、互いに小さな歯を剥き出しながら距離を測っている。
見た目はアレだが、少なくとも凶暴さは信頼できそうだ。
「こいつら、言葉は通じるのか?」
「概ね、殴る、逃げる、従うの三択で意思の疎通ができます!」
「それ意思の疎通って言う?」
「殴られてる人を見つけると、自分も殴りたくなる習性があります。集団心理に特化しているので、とてもダンジョン向きです!」
「褒め方どうにかしろ」
その後、ぽんこが勝手に訓練を始めた。
「はいゴブリンさん、この丸い石を敵と見なして殴ってください!」
「ゴブッ」
「ゴブブ」
「ゴブゴブ!」
三体が一斉に飛びかかり、丸石を棍棒で四方八方から叩き始める。
石は簡単には壊れないが、ゴブリンたちは順番を争うように殴り続けた。
「ほら見てくださいマスター!一体が殴ると、残り二体も殴らなきゃって顔になります!これが集団心理です!」
「そんな笑顔で集団心理を語るな」
呆れながらも、頼もしくはあった。
少なくとも、こいつらは戦ってくれる。
次に入口から入ってくるのが、ネズミでなくても。




