表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/24

第4話 さあ、ダンジョンを開始しよう

ゴブリンを生成した後。

その日は、そこで作業を切り上げた。


ダンジョンマスターはコアから栄養を供給されるため、食事も水も必要ないらしい。

トイレにも行かなくていい。


その代わり、睡眠は必要だった。


「寝ないで済む方法はないのか?」

「スキル【不眠】があります!二十万DPです!」

「時給1円だぞ、買えるわけないだろ」


スキルもDPで取得できるらしいが、どれも桁が違う。

【不眠:200,000DP】

【暗視:16,000DP】

【念話:40,000DP】


結局あきらめ、ぽんこに見張りを任せて、その日は眠った。


次の日から、自分用の武器を生成し、ゴブリンと一緒に訓練をはじめる。


朝はゴブリンと訓練。

昼はぽんこからこの世界のお勉強。

夜はたまったDPの使い道を考える。


そうして、一週間が過ぎた。


「マスター」

「どうした?」

「生命反応、三つ。入り口に入りました。武装……あり」

「探索者か?」


「行動パターン、探索者とは違います」

「何者だ?」

「推定――盗賊です」


ぽんこが、はっきりと言った。


「入り口で止まっています。状況確認中のようです」

「慎重だな」

「まあ、前回は確認するまでもなく丸見えでしたからね」

「成長の証だな」


だが、冗談で逃げられる状況ではない。


「またもや想定よりも早いですが、今度は準備ができています。あとは――迎えるだけです」


俺は、握り慣れてきた槍を手に取った。


ゴブリンたちが、暗がりでじっと待機している。


「よし」


ぽんこが隣で、小さく息を呑む。


「今度が本番です。がんばりましょう」


入口の方から、声が聞こえる。


ダンジョン内の様子はUI越しに観察できる。

さながら監視カメラだ。


まだ光苔が増えきっていない、一番外側の暗い通路。

そこに下品な笑い声が響いていた。


「おい見ろよ、洞窟だぞこれ。なんだ?宝でも隠してんのか?」

「バカ、こんなとこ誰も来ねえよ。雨しのぎにちょうどいいってだけだ」

「へっ、だったら酒盛りだろ。ちょうどいい、あの酒開けようぜ」


声だけで、ろくでもないのが分かる。

ボロボロの格好の三人組。

背負っている袋がパンパンで、銀器や布袋がはみ出していた。


ぽんこが、ふっと息を呑んだ。


「推定飲酒量、かなり多め。推定意識レベル、ふにゃふにゃです」

「ふにゃふにゃか」

「ふにゃふにゃです!観測結果は正確です!」


ぽんこの瞳のリングが回転を速める。


軽口とは裏腹に、完全に戦闘モードだ。


盗賊たちの会話が続く。


「よーし、まずはこの銀皿売ろうぜ。昨日の婆さん、泣きながら差し出してきたっけな!」

「へっ、泣く暇あんなら働けってんだよな」


UIで盗賊の様子を観察する。


「うん、悪人だなこれ」

「はい。少なくとも善良な村人ではありません」


その後も盗賊達の犯罪自慢が続く。


盗賊たちはまだ、ここをただの天然洞窟だと思っている。


その油断は――致命的だ。


気付かれなければ、難を逃れるかもしれない。

このまま静かにしていれば、こちらにはこないかもしれない。


だが、俺はもう知っている。

殺らなければ、殺られる。


戦い慣れた三人相手に勝てるなんて驕りはない。


先手必勝。

不意打ちで、潰す。


そんな中、ひとりが立ち上がり、酒を持ったままフラフラと奥へ歩いていく。


「俺、ちょっと奥見てくるわー。宝の匂いすっからよぉ」


ぽんこが、いつもより低い声で告げた。


「マスター。先行一名、単独行動……やりやすいです」

「了解」


盗賊の足が、暗がりへ、一歩。


「――あ?」


そのまま、地面に消えた。

DPで設置した、落とし穴。

中には鋭い鉄の針がはえている、殺意の塊みたいな構造だ。


「先頭の生体反応、消失を確認。DP500、獲得です!」


一瞬だった。

ぽんこが小声で続ける。


「マスター。残り二名、いま初めて異常事態だと気づきました。酒を落としました。動揺しています」


盗賊たちの声が荒れる。


「おい!コダンがいねえぞ!」

「なんだよこれ。待てよ、誰かいんのか!!」

「ふざけんな!出てこいコラァ!」


入口からは、怒声と金属音。


そして――足音がこちらへ向かってくる。


俺は槍の柄を握り直した。


「マスター。これより先は、準備どおりに進められます」

「ああ。十分だ」


俺は、もう迷わない。

この二人は迷宮に来た「敵」だ。


通路を進んでくる盗賊の足音が、洞窟の中を反響する。

力強く重い、荒々しい足音だ。


「おい!どこだコラァッ!!出てこい!!」


怒号が響きわたる。


その声色に、一瞬身が固くなるが、冷静に聞けば、見えてくるものもあった。

威嚇、警戒、奴らもまた、こちらを探っている。


ぽんこが、俺の横で、小さく声を落とした。


「マスター。敵二名。視界狭窄、心拍数増加、動揺32%。奇襲、成功率はかなり高いです」

「……いけると思うか?」

「いけます!というか、いかないともったいない状況です!」


相変わらず言葉の選び方がひどい。


「よし」


短く答える。


UIには、通路を駆ける盗賊。

やたらと声を張り上げ威嚇しているが、肝心の警戒はおざなりだ。

通路には腰くらいまである巨大な岩、岩を除けようと迂回する、その瞬間。


「行け」


その奥に潜んでいた影が、一斉に躍り出た。


――ガッッ。


足を打たれ、盗賊が転がる。


岩の裏から飛び出してきたのは、三体のゴブリンだ。

背丈は低い、せいぜい俺の腹ぐらい。

けれど、その動きは人間の大人と変わらない。

緑の皮膚、露出した腕や肩には細い筋肉が浮き出ていて、握っている棍棒は十分に殺傷力がある。


盗賊の片方が、目を剥いた。


「うわっ!?なんだこいつら!」


返事代わりに、ゴブリンの棍棒が再度振り下ろされる。


――ドガッ。

その瞬間、二体目のゴブリンが背後に回り込み、足首を刈るように蹴り払った。

盗賊の足が交差し、踏ん張る前にバランスを失い倒れる。


「く……っそ……ゴブリンだと……?」


呻きながら、男が歯を食いしばる。


「ロブ兄。やばい。こいつら普通のゴブリンじゃない」

「うるせぇ!お前そいつら足止めしとけ!!」


怒鳴りながら、兄貴分らしき男は背を向けて走り出した。

通路は狭い。

すれ違うことも難しい幅だ。しかも、ところどころに段差や緩いカーブがある。


逃げられる道は、ひとつしかない。


その道の先に、俺がいる。


分岐の影に体を寄せて隠れながら、呼吸を整える。

自分の鼓動の音がうるさい。

盗賊が走ってくる音と、自分の鼓動が混じる。


突くだけ、突くだけ、それだけを練習し続けた。

今、その突くだけのフォームで槍を構えている。


盗賊の足音が近づいてくる。

地面を蹴る、重い足音。


心臓が早い。それでも、手は震えない。

突くだけ、だ。

ぽんこが、微かに息を呑む。


「マスター……刺突、最適距離まであと三秒。不意打ち補正、最大値です」


三秒後。

盗賊が俺の隠れている脇道の前を通り過ぎる。


ほんの瞬間、盗賊の体が無防備にさらけ出された。


その一瞬で、俺は地を蹴った。

重心が前に傾き、全身の力を込めて腕を突き出す。


槍先が、盗賊の腹へ一直線に伸びた。

刺突が届く、その瞬間。

俺は、心の中で静かに考えた。


さあ、ダンジョンを開始しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ