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第135話 王はタクシーをしない

東の領地の端っこから、順につついて回ることにした。

南の端の、ダンジョンの近くまで一本道を通す。


こちらも、地表の一マス手前で止めておく。

あとは蟻に最後の数メートルを掘らせて、顔を出すだけだ。

顔を出して、何が来るかを見る。

来たら引っ込む。


やっていることは、エスとそう変わらない。

あいつのことを、あまり笑えなくなってきた。


蟻が土を抜き、ゴブリンが二体這い出す。

チュウタと感覚を繋いで、周りを見回す。


乾いた丘の上に出る。

辺りを見回して、十秒。


荒れ地の向こうから、灰色の影が走ってきた。

走ってくる、というより、いきなり近くに湧いた影が、そのまま駆け寄って来たという感じだ。


子牛くらいある狼だった。


ゴブリンが棍棒を振り回して、一頭の鼻面をはたく。

狼は吠えもせず、ひるみもせず、その腕ごとゴブリンの喉に食らいついた。


その時点で、感覚共有を切る。

ゴブリンとチュウタは助からないだろう。


『また?』

「悪い」


感覚共有を切り、手際よく穴を塞ぎ、転移でチュウタを回収する。

敗戦処理ばかりが上手くなる。


「向こうは鎧、こっちは狼か」


なのに、出てくる早さは同じだ。

囲み方も、話しかけもせずに黙って片付けに来るところも、全部同じ。


「アニ、誰が見てると思う?」

「……王が直接、はないだろうな。こういうのは軍事担当の仕事だろ、俺みたいなな」


アニが難しい顔で続ける。


「ただ、実際に誰が動くかは、組織の形次第じゃないか?うちは、うち以外のダンジョンは特に見てないだろ」

「確かに」

「ただ、動きに統一感は感じる。王の軍事担当が直轄しているか、各マスターに教えているか、じゃないか」


しかし、あの速さは見事だ。

転移にしろ、生成にしろ、侵入直後に検知して即送り込まなければ、ああはならない。


「試してみるか」


以前に見たコア位置から、あたりをつけてあるオルレアス側のダンジョンは五つ。


「五つ同時に仕掛ける」

「同時にですか!」

「誰かが一人で見て、一人で飛ばしてるなら、五か所同時は手が回らない。どこかが遅れる」


俺なら、回らない。

チュウタの目は一つしか借りられないし、転移も一度に一か所だ。


それに、王が自分で動いている可能性も捨てきれない、手が足りなくなった時に出てくるのは王本人ということも、なくはないはずだ。

伝説の統一王の顔を、拝めるかもしれない。


東の中でも西寄りの五か所、予想通り、地表すれすれで引っかかる。

敵の支配域であると確認された。


「三、二、一……開けろ」


五か所で同時に、蟻が土を抜いた。

第一地点、南の端のチュウタと、感覚を繋ぐ。


狼が、もう走ってきている。


次、第二地点に繋ぎ変える。


骨の戦士が見える。


次。


次々と、視点を切り替えていく。


「狼、骨、蜂、人型、機械」

「見事にバラバラだな」


どこも、十秒かかっていない。

遅れた所は、ない。

王の顔は、どこにもなかった。


「マスター!コールの連絡先が増えてます!」

「増えてる?」

「六件です!」


見てみると、知らない名前が六つ並んでいた。

最初の街の鎧と、今日の五か所。


相手のダンジョンに触れれば、連絡先は勝手に増える。


エスの名前を知った時と同じだ。

六つとも、リシウスじゃない。


「見てる奴はバラバラっぽいな、それぞれのダンジョンマスターが各自対応してるって感じか」


アニが、腕を組んで地図を睨みながら、言う。


「そっちの方がやっかいだ。聞いた通りなら、全箇所で最速の対応をしている。そこらのダンジョンマスターがだ」


確かにそうだ、うちだったらそんなことできるのは、半分もいればいい方だろう。


見つけるのも、決めるのも、飛ばすのも、片付けるのも。

その土地の管理者が、その場で全部やっている。


「伝説通りって訳だ」

「マスターは、全部自分で走り回ってますもんね!」

「走り回るのも、仕事のうちだろう」


アニが、鼻を鳴らした。


「頭が全部やる軍は、頭が潰れたら終わりだ」

「……それはそうだが」


俺が見て、俺が決めて、俺が伝える。

とはいえ、俺がいなけりゃ何も進まない訳ではない。


「いや、逆だな。俺は走り回っているが仕事はしてない。大丈夫だ」

「ん?」

「軍と防衛はアニ、イース北と育成はシルヴァさん、従属の管理はレイゼル」

「マスター!何もしてません!」

「そうだ、俺は仕事をせずに走り回っているだけだ」

「……確かに」


俺は、オルレアスのようにはなれない。

俺のやり方を、組織全体に統一させて、それぞれが『俺のやり方』で進めていく、そんなやり方は上手くない。

しかし、みんなが好きにできるように、『それぞれのやり方』で進めるように走り回ることはできる。


「やっぱり俺の役目は転移タクシーだな」

「……もうちょっと、何かしてくれ」


まあいい、俺は俺で、俺のやり方で好きにやろう。


「よし!次は、街だ」

「また掘るんですか?」

「掘らない。今度はオトに歩いて入ってもらう」


オトはゴブリンナイトストーカー、隠密特化。

オトなら侵入検知をすり抜けて、街まで行けるんじゃないか。


「チュウタは付けるのか」


アニが聞いた。


「付けない」

「連絡取れなくなるぞ」

「チュウタは検知される、ここまでで実証済みだ」


それから、試してみたいこともある。


「オトを呼んでくれ」

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