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第134話 東へ

一週間後。

この間の支配域の拡張で、すっからかんになった財布も大分潤ってきた。

一週間で四十万DP、……やっぱり搾取しすぎだろうか。


「遠足ですね!」

「偵察だ」

「でも、マスターの顔が遠足です!」


否定はしない。

悪ガキに一週間振り回されて、ようやく一息ついたところだ。

次の相手は、大陸の東半分を押さえている伝説の王様。


どんなダンジョンを作っているのか、正直、見てみたい。

とはいえ、実際にダンジョンまで突っ込む気はないが。


とりあえず、ダンジョンの周り、それから地上支配域にしているという街、その辺りを見に行きたい。


やり方は決めてある。

地下に支配域の線を伸ばして、街の手前で止め、そこから蟻に掘らせて、地上に出る。

マーレンでやったのと同じことだ。


「同じ手が通じる相手か?」


アニが、地図から顔を上げずに言った。


「通じなかったら、その時考える」


蟻の巣から東へ、支配域の線を伸ばしていく。


「ぶつかりません!」


百キロ。


「まだぶつかりません!」


五百キロ。


「全然ぶつかりません!このまま東端まで行きましょう!」


千キロ。


青い線は、伝説の王の領地のど真ん中まで、するすると届いてしまった。


「楽勝だな」


そう言うアニの眉間には、しわが寄っていた。

言いたいことはわかる、簡単すぎるというのだろう。


「まあ、そりゃそうさ。道なんて通してても数本だ、そうそうぶつからない。エスの奴が異常なんだ」


一番近い街の手前で、線を止める。

上へ伸ばして、地表に足場を作れば――


【指定範囲は既に支配域として登録されています】


「あ、取られてます!」

「なるほど、そう来たか」


少しずらして何回か試すが、どこも取られている。

どうやら周辺一帯、支配域になっているようだ。

ただし、どこの深さを支配域としているのかはわからない。


「さてと、じゃあ刻みますか」


半分、通った。

また半分、通る。


「これ、もしかして……」


地表のみ残してギリギリまでを範囲にして、実行。


通った。


「地上支配域だけだな」

「アウル村と同じですね、街全体を覆っているのでしょう」


ふむ、地表ギリギリまで支配域にできてしまった。

ならばやることは一つだ。


「掘る」

「力技ですね!」


転移で蟻を運び、戻ってくる。

そして、蟻に最後の数メートルを掘らせて、一緒に置いてきたチュウタに感覚を繋ぐ。

土を掻く音が上へ上へと続いて、ふっと途切れた。


『まぶしい』


チュウタが、穴の縁から顔を出す。


野原だった。

蟻の頭が少し出るくらいの原っぱが、ずっと先まで続いている。

その向こうに、石造りの街。


遠くに見える街道には荷馬車が行き交い、街の煙突からは昼の煙が上がっている。

真っ暗な地下道ばかり見てきた目には、まぶしいくらいだ。


周りを見渡していると、足元の草に、影が落ちた。

振り返ると、音もなく、そこに鎧が立っていた。


三体が、穴をぐるりと囲んでいた。

頭のてっぺんから足の先まで、出ている箇所のない全身鎧。

右手に長剣、左手に盾。

三体とも、全身揃えたように一緒だ。

兜の隙間の奥は、真っ暗で中には何も見えない。


『マスター、なんかいっぱい来た』


蟻が、慌てて構える。


鎧は特に反応せずに、ゆっくりと剣を掲げ、振り下ろした。

蟻の頭が落ちる。


隣の鎧が剣を横薙ぎに……あ、やべ。


「あぶな」


急いで感覚共有を切る。

殺されるところだった。

チュウタには悪いが、もう死の感覚はごめんだ。


『マスター、向こうの僕、繋がってない。回収してきて』


チュウタの同期は五百メートル。それ以上になると中継が必要だ。

当然千キロ先のチュウタは本体に同期していない。


それに……


「まずい」


鎧が穴に侵入してきたら、閉じられなくなる。

すぐにUIを開き、構造変更を行う。

地面まで伸ばした縦穴部分は塞ぎ、とりあえずの侵入は防いだ。


それから転移して、チュウタを回収する。

地上に出た方じゃない、記録用に一匹穴の中に残しておいたのだ。


『やられた』

「いつの間に囲まれた?」

『出たときはいなかった』

「だよな」


穴から出て、十秒も経っていない。

出る時に一度周囲を見回している、その時はいなかったはずだ。


「生成……いや転移か?」

『転移?』


支配域なら侵入者を検知できる。

侵入者を検知したら、すぐにモンスターを生成するか、転移で連れてくる。


アニが、喉の奥で笑った。


「地下を空けておくわけだ。どこから掘ってこようが、出てくるのは庭だからな」


庭。

うちの庭は、どうだ。


イース北には、もうすぐ人間の新しい街区ができる。

探索者が集まって、店が並んで、人が住む。


そこに、地上支配域はない。


アウル村の石畳を下から突き破って、エスが顔を出し、べっと舌を出す。

そんな絵が、やけにはっきり浮かんだ。


「マスター、どうしました」

「庭の心配をしてる」

「お庭ですか?」

「ああ、シルヴァさんの『お庭』だ」


イース北の周りを、地上支配域で覆う必要がある。出来れば、蟻の巣も。


「それより、東はどうする?このまま引き下がるのか」

「偵察は続ける。今回はっきりした、俺は敵も、戦い方も知らなすぎる」


エスの戦略も、オルレアスの戦略も、俺とは違う。

今までの俺のやり方が通用しない。


敵から学んで行くしかない。


「次は端っこのダンジョンで試すぞ」

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― 新着の感想 ―
戦争のルールというかやり方が大きく違う相手との戦闘はお互いに戸惑うものですが、現在のところユートが相手のやり方を知らない(理解しきれていない)ので圧倒的に不利ですね。相手が自分と同じやり方でより強いと…
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