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第132話 直通

「訂正します。異常、一件です」


セラが言い終えた時には、戦闘形態への換装が終わっていた。

継ぎ目が開き、装甲がせり出し、脚が無限軌道に組み変わる。

瞬き一つの間に、全高四メートルの戦闘形態がコア部屋の前に立っていた。


同時に、壁が弾けた。


【侵入者を検知】


中に入ってくれば、すぐに分かる。

ただし、分かった時にはもう中にいた。


石の破片の中から、小さな影が飛び込んでくる。

足首で、バシュン、と火花が散る。


エスだ。


自分の目で見るのは、初めてだった。


放っておいた蚊が、耳元まで来ていた。


セラが前に出た。

四メートルの巨体が、無限軌道で床を削り、一瞬で間合いを詰める。

重い。

だが、速い。

広げた腕が、エスの進路をまるごとふさいだ。


「でかっ!」


バシュン。

エスが、腕の上へ弾かれたように跳ぶ。


空中で、もう一度バシュン。

向きを変えて、セラの肩の横をすり抜ける。


一秒。


それだけで、セラは抜かれていた。


コア部屋まで、二十歩。


あいつなら、一秒もかからない。

エスが、コア部屋の扉に向かい飛ぶ。


「いただき」


やられた。


「阻止、不可能。閉鎖します」


セラは、振り向きもしなかった。

その全身の装甲が、一斉に開く。


針。

細い腕。

ワイヤー。

天井へ、床へ、壁へ、前後左右のすべてへ、放射状に飛び出した。

キン、と岩に刺さる音が、部屋中で一つに重なる。


もう一秒。


コア部屋が、針とワイヤーの檻になった。

逃げ場は、どこにもない。


エスの目が、まん丸になった。

バシュン、バシュン、と足元が立て続けに破裂する。

右へ、上へ、また右へ。

針を一本かわす。

ワイヤーを一本くぐる。

三本目の針が、頬をかすめた。

四本目のワイヤーが、袖を裂いた。


「いっ……!」


エスが、頬に手をやる。

指についた血を見て、顔が引きつった。

迷いは、一瞬もなかった。


コアまで、あと一歩。


その一歩を、エスはあっさり捨てた。

来た穴へ、一直線に跳ぶ。

針とワイヤーの隙間を縫って、闇の奥へ消えた。

壁が弾けてから、ここまで、五秒もなかったと思う。


「なにそれ!そんなの、オイラ聞いてないんだけど!」


穴の奥から、声が響いてきた。

言うわけないだろ。


「次は、そのでかいのも倒すからな!」


声は、それきり遠ざかっていった。

針とワイヤーが、しゅるしゅると音を立ててセラの中に戻っていく。

壁にも床にも、細かい穴が無数に残っていた。


その中に、血が一滴だけ落ちていた。

初めて、あいつに当たった。

ぽんこは、まだ固まっている。


「ぽんこ」

「エ、エス、離れていきます!すごい速さです!」


ぽんこの声が、まだ裏返っている。


「蟻に、あの穴を塞がせろ」

「はい!」


セラが、無限軌道を鳴らしてこちらを向いた。


「再度訂正します。異常、一件。処理済みです」

「処理済みって言っていいんですか、これ!」


ぽんこが、壁の穴を指さして叫ぶ。


「コア、損傷なし。侵入者、撃退。追撃は行いません」

「……助かった」

「任務です」


セラは、それから少しだけ間を置いた。


「対象の速度は、想定を上回っていました。次は、最初の一手で止めます」


装甲が畳まれて、セラは元の細い体に戻った。

何事もなかったように、また入口の前に立つ。

ぽんこが、自分の頭に手をやった。


「セラちゃん、まるでウニでした!ぽんこのお団子の真横に刺さってました!」

「当たっていなければ問題ありません」


セラがいなければ、今ごろコアは破壊されていた。

コアが割れれば、俺も終わる。


今になって、膝が震えてきた。


「マスター!アニ隊、今着きました!」

「遅い」


ゴブリンと蟻、それにアニが部屋に駆け込んできたのは、全部終わったあとだった。

誰も悪くない。

五秒で終わる襲撃に、間に合う方がおかしい。


「……来たのか」

「来て、帰った」


アニは針の穴だらけの壁と、崩れた穴を順番に見た。


「これがセラの本気か、初めて見た」

「俺もだ」


俺は、壁の穴の前に立った。

人ひとりがやっと通れるくらいの、細い穴だ。

その奥は、すぐに広い空洞につながっていた。

掘ったのは、最後の壁一枚だけだ。

アニが隣に来て、覗き込んだ。


「一発で当ててるな」

「一発?」

「試し掘りの跡が、どこにもない。迷わずこの壁に来て、迷わず抜いてる」


ここ数日、エスは何度も蟻の巣の近くまで来ていた。

最初は身構えた。

二回目からは、放っておいた。


あいつは、通り過ぎていたんじゃない。

探っていたんだ。

追い回していたつもりで、見られていたのは、こっちだった。


「でもマスター、変です」


ぽんこが、地図を広げて首をかしげた。


「地図は平面ですよ?ここの高さはわからないはずです」

「知ってる。一週間、それで振り回された」

「そもそも、この部屋の周りは通路だらけだ。真っ直ぐここまではこれん」


アニの言葉に、誰も続けられなかった。

どうしてここまで、正確に来られた?

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