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第131話 ちょろちょろ

考えていても、答えは出ない。

分かるところから確かめることにした。


「ぽんこ。コア位置表示」

「はい!」


地図の上に、ダンジョンコアが点で浮かび上がる。


探すまでもなかった。

地図に映っているコアは三か所、俺のダンジョン、オルレアスのダンジョン、そして……


点が一つだけ動いていた。


「動いてるな」

「動いてます!しかも、すごく速いです!」


歩く速さじゃない。

さっき見た、バイクの速さだ。

あのガキが走り去っていった方角と、点の動きもぴったり合う。


「コアを持ったまま走り回ってる、ってことですか?」

「そうなるな」


つまり、あのガキがコアを持っている。

コアを持ったまま、うちの部隊に突っ込んできて、リーダーの首を落として帰っていった。

よほどの大物じゃなければ、あのガキ本人がマスターだろう。


「バカなのか、あいつ」

「マスターも前に、コアを持って敵のダンジョンに入ってましたよね?」

「あれは作戦だ」

「そういうことにしておきます!」


本拠地があるのかないのか、なぜそんなことをしているのか、それはどうでもいい。


あのガキがどこにいるかは、地図が全部教えてくれる。

しかも、コアは本人が持っている。

捕まえれば、それで終わりだ。

アニを呼んで、地図を見せた。


「居場所が分かってる獲物か」

「しかも、コア付きだ」


アニは表情を変えずに言う。


「狩りだな」


それから一週間が経った。


まず、支配域から、道路へ抜ける穴をさらに三つ開けた。

穴からゴブリンを入れ、チュウタを大量にバラまく。


あとは地図で点を見て、そっちへ部隊を回せばいい。

簡単な話のはずだった。

最初の日は、本気で捕まえられると思っていた。


「点、右に曲がりました!」

『右だ!』

「あ、また曲がりました!今度は左です!」

『左!』

「速いです!もう次の分かれ道です!」


地図を見て、チュウタに伝えて、チュウタが部隊に伝えて、部隊が走る。

カーナビを見ながら、逃げる車を追いかけているようなものだ。


見えているのに、追いつけない。


「蚊か、あいつは」

「か、ですか?」

「叩こうとすると、もういない」

「なるほど!じゃあ、奴の呼称は今日から『蚊』です!」


部隊が、コアの点までたどり着いたこともある。


「マスター!蚊と、ぴったり重なってます!」

「重なってるのに、いないんだよ」


頭の上を、エンジン音が通り過ぎていく。

岩一枚向こうの、上の道だ。

地図は平らだ。

上か下かまではわからない。


三日目には、奴の方からこちらが開けた穴へ向かってきた。


「蚊が、北の穴に来ます!まっすぐです!」


慌ててゴブリンを集めると、点は穴の手前でくるりと向きを変えて、帰っていった。

その間に、他の穴から入ったゴブリン部隊が、三つ消えていた。


縦横無尽に張り巡らされた道路を、敵のバイク部隊が走り回っている。

初めに見た五台と違い、十台以上がつるんでいる。

それが何部隊もいるようだ。


ゴブリンたちは、それからも消え続けた。


『マスター!またぼくがやられた!これで二十体目!』


バイク部隊とは、何度もぶつかった。

ぶつかったと言っても、向こうは走り抜けるついでに何体か殺していくだけだ。


汎用戦機が追いつきそうになると、バイクがばらばらに散って、別々の道へ消えていく。


「らちがあかん」


五日目に、奴との接触に成功した。


これまでも奴自身は、たびたび現れてはいた。

しかし初めの時と同様、すれ違い様に攻撃して去っていくだけ。


「足止めが必要だ」

「足止めですか?」

「ああ、おとりを立てて足止めする。人間の言葉が話せて、敵が油断するような、そんなおとりだ」

「マスター!危険です」

「俺じゃない」


通常種のゴブリンにDPをつぎ込んで【人化】を覚えさせた。

これで人間の言葉が話せる。


そいつを一体だけ、わざと道の真ん中に置いた。


その上の天井に、蟻を二十体張り付かせる。

あいつは天井の高さを飛んでくる。

来たところで、上から落とす。


「餌が、分かりやすすぎないか」

「分かりやすくないと、来ないだろ」


そして、奴が現れた。

少し先の道で、バイクのライトが止まる。

俺はゴブリンの肩に乗ったチュウタ経由で指示を出す。


「エス殿、我が主ユートが対話を希望だ」


エス、奴の名前だ。

DMコールの連絡先に、俺たちがこのダンジョンに侵入した日から追加されていた。


「話して何か得あんの?そっちが得するだけじゃん?」


そう言いながらも、近づいてくる。


俺はコア部屋で、アニへ言う。


「話してもこっちが得するだけだとさ」

「はっ、正しいな。戦況は向こうの方がいい、今話す必要がない」

「まぁ、こっちも話す気はないけどな」


意識をゴブリンの肩のチュウタに戻す。


「そもそも、対話したいならDMコールで十分でしょ」

「それは……」


「大体さ、あんたら鈍(のろ)いんだよ、それじゃオイラは捕まえられないよ、っと」


言い終わらないうちに、バイクを急発進させ、こちらへ向かってくる。

ゴブリンを殺しにくるつもりだろう。


いつものスピードで、ぐんぐんと近づいてくる。罠を張ったこの場所へ。

よし、と思った瞬間。


バイクが急転回し、横向きに滑って、止まる。

それから、ふと天井を見上げた。


鼻をひくつかせて、露骨に嫌そうな顔になる。


「……うえ。やめとこ」


バイクが向きを変えて、来た道を戻っていく。

一度も振り返らなかった。


「……バレた」

「普通に交渉した方が、よかったんじゃないか」


アニが、地図から目を離さずに言った。


一週間で出た被害は、チュウタが三十、ゴブリン、蟻、汎用戦機が合わせて八十。


向こうの被害は、バイク八台。

あのガキ本人には、一発も当たっていない。


「刺されっぱなしだな」

「ぽんこ、蚊に刺されたことないです!」

「うらやましいよ」


鬱陶しい。

だが、被害はこちらが攻めた分だけだ。

数字だけ見ればそこまでの被害じゃない。


痛くはない、かゆいだけ。一回捕まえれば、それで終わる。


「マスター!エスです!近いです!」


ここ数日、珍しいことじゃない。

最初にコア表示が蟻の巣(うち)の近くまで来たときは、さすがに身構えた。

しかし、奴は通りすぎていった。


地図は平面だ、下を通られたら地図上は重なる。

うちの下にも、あいつの道は通っているらしい。


「うちのコアのほとんど真上です!……いえ、真下かもしれません!」

「どっちでもいい。どちらにせよ、支配域の外だ」


支配域の中に入ってくれば、すぐに分かる。


「放っとけ。そのうちどっか行く」

「はーい」


コア部屋の前には、いつも通りセラが立っている。


「セラ、異常は」

「ありません」


ガリッ、と音がした。

壁の向こうで、何かが岩を削っている音。

セラが、壁の方へ顔を向けた。


「訂正します。異常、一件です」

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