第125話 ダンジョン前
翌日、三人が来た。
適当な地点で転移で回収する。
話し合いは最下層の奥に増設された、居住区画だ。
ゴブリンが茶を運んできた。
カークが茶碗を見て、リオンを見た。
「……ここ、迷宮の中だよな」
「中だ」
「また変わってるな」
「ああ、人数も増えたからな」
「熱っ」
エルノが騒いだ。
「気をつけろよ」
「迷宮で熱い茶が出るのがおかしいでしょ」
カークは三日ぶりにイースから戻ったばかりらしい。
髭が伸びている。
「で、宿の話か」
リオンが紙を出し、俺は受け取って読む。
ギルドからの協力要請。
というより、これはアウル村の復興支援だな。
ギルドから金と人を出す、アウル村に管理を任せる。
宿、飯屋、店、倉庫、買い取り所。
そして最後に、小規模なギルド出張所。
「……買い取り所か」
「ああ、探索者としてはありがたいな」
カークが言った。
「便利すぎるんだよな」
俺は紙を見ながら考えた。
ダンジョンで得た資源は、今はイースまで運んで売っている。
イースまで、ここから二日。
往復で四日。
「今はどうしてるんだ?」
「毎日帰る訳にはいかないからな、野営して連続で潜る。金に余裕がある連中はアウル村に泊まったり、食事をしたり、だな」
「じゃあアウル村、儲かってるんじゃないか」
「いやいや、探索者なんて基本はその日暮らしだからね!戦利品を換金しなけりゃ金なんてないよ」
エルノから返答が帰ってくる。
それにリオンが続けた。
「それに今は馴染みの探索者しか受け入れてない。宿も飯屋も足りてないし、探索者は信用ならないからな」
「なるほど。ギルドはその状況を変えたいって訳か」
入口に宿と買い取り所があれば、今日稼いだ資源で今日の宿が用意できる。
明日の探索の準備ができる。
帰る必要が無くなれば、そのまま次の日も潜れる。
稼ぎが増えれば、落とす金も増える。
「もう一つある。というかこっちが本命だな」
カークが言う。
その表情は楽しそうであり、面倒くさそうでもあった。
「流行りなんだとよ」
「流行り?」
「ああ、南の宝箱ダンジョンって知ってるか?」
南、宝箱。
「そのダンジョンがな、ギルド支部がうまいことやって大盛況だそうだ。宝箱を置いて探索者を釣り、ダンジョン入口に街を作って便利にする」
心当たりは、ある。
「これからの時代はダンジョンを運用できるギルドが必要だ!ってな。支部長が張り切ってたぞ」
「担当になった若い子が困ってたね。宝箱ダンジョンの話も、どこまで本当かわからないのにって」
「どこの世界も偉い人が張り切ると、ろくなことにならんな」
なんだか耳が痛い気がする。
「それで困った若いのが、リオンに相談してきたって訳だ」
ああ、そういうことか。
やけにアウル村に都合のいい条件だと思ったが、ギルドとしては偉い人を納得させるために、わかりやすい結果を出したいだけ、ということだ。
「なるほど!費用対効果ではなく、やったと言えることが大切、ということですね!金は出すから具体的な方策はアウル村に丸投げ、と」
「おい」
ぽんこが身も蓋もないことを言う。
「経緯はともかく、アウル村にとってはチャンスなんだ」
リオンが真面目な顔になる。
「村の連中も納得してる、じいさんたちも畑を絶やさなければ、それでいいって言ってる。ユートさん、俺たちとしては、この話を受けたい」
リオンが俺の方を見た。
一瞬黙って、続ける。
「後は、あんたが困るかどうかだ」
「困る」
即答したら、三人の動きが止まった。
「……困るのか」
「困るだろ」
「なんでよ。ユートさんだって儲かるでしょ」
「儲かる。だが目立つ」
隠しても仕方がない。
こっちの事情も説明しておかないと、齟齬がでる。
「人が増えれば、死ぬ奴も増える。死ぬ奴が増えれば、危険度が上がる。危険度が上がると、ギルドの手に負えなくなる。ギルドの手に負えなくなれば、奴らがくる」
三人の顔が変わった。
「……勇者か」
「勇者だ」
しばらく、誰も何も言わなかった。
「じゃあ、だめか……」
リオンがつぶやく。
見るからにしょぼくれている。
まったく、こいつは……
「ぽんこ。言ってやれ」
「はい!リオンさん、あなたは村を焼かれたあの日、マスターになんと言いましたか」
急に生き生きとしだしたぽんこに、驚くリオン。
「忘れましたか?あなたのアウル村への思いはその程度だったんですね!オッケーです!マスター、宿は不要です!」
「まて……!」
リオンの目に、力が宿る。
「確かに言った。ダンジョンは危険に晒さない、かわりにあんたはアウル村を守れ、と」
あの時の目だ。
「ギルドは俺がなんとかする。教会には上げない。だから、宿を建てさせろ……!」
ぽんこがニヤニヤしている。
俺も口元が緩むのを感じる。
「マスター。だそうです」
「わかった。ぽんこ、レイゼルとバントー、あと毒使いのカイエンを呼べ」
レイゼルは勇者を招いた経験がある。
バントーは南の宝箱ダンジョンの責任者。
カイエンは有能すぎてグランツに飼い殺しにされていた、あの時の毒使い。グランツのやり方を一番知っている男だ。
これだけいれば、なんとかなるだろ。
「わかりました!ではマスター、まずは転移で連れてきてください!」
「わかった」
後ろからカークとエルノの声が聞こえてくる。
「ユートさんって割と甘いよな」
「まあうちのリオンも甘いから、丁度いいんじゃないか」
黙れ。
大活躍の転移タクシーで全員を連れてくる。
ぽんこに乗せられたが、よく考えたら通信でよかったのではないだろうか。
あ、いや。バントーはマスターじゃないから通信が使えないのか。
地味に不便だ。
場所はリオンたちがいる部屋の、隣。
リオンたちにこいつらまで見せる気はない。
「問題ないと思うよ」
口火を切ったのはレイゼル。
「私もそう思います」
それにバントーが続く。
「グランツはもっと色々やってましたからなぁ」
カイエンも同意見らしい。
「みんな同じ意見か。なんだ、なぜ問題ない?」
「勇者が来るなら、もう来てるさ。アウル村を取り込んだ時点でね」
「通常のダンジョンは、ランクAにはあがりませんぞ。あれはダンジョン外部まで危機が迫っていたり、大人しくとも暴れだしたら国家が破綻するレベルのダンジョンのみですな」
「実際、うちのダンジョンは問題なくまわっています。入場者数も、死亡率もこちらより高いですよ」
なるほど。
「ただ、一つだけ注意した方がいい。アウル村の教会は放棄されたが、イースにはある。もしかしたら教会を地上支配域にしたら、アウトかもしれない」
「教会の誘致はさせるなってことだな」
「そう。まあ、街の教会は勇者との関わりは薄い。ダンジョンには近づかないと思うけどね」
「私からも一つ」
カイエンだ。
「グランツと、東の執事との会話で聞いたことがあります。『教会はわかっている。だが、人類のためになるのなら、黙っていてくれる』と」
「ぽんこ」
「はい!秘密です!」
「さんきゅ」
重要な証言ゲット。
俺たちのやりとりに、カイエンが驚く。
何が起きたのかわからないって顔だ。
「ああ、悪い。気にしないでくれ」
「は、はい。……それで、人類にとって損害よりも利益が大きいならば問題ないのではないか、と」
「なるほど、確かにそうだ」
「それはどうかな」
レイゼルが割って入る。
「多分、一発アウトの言動がいくつかある。私もそれを踏んだんだと思うよ」
「ふむ。例えば?」
「わからない。だが、教会関係だろうね。だから教会さえ近づけなければ大丈夫なはずだ」
そうして、イース北入口前の開発会議は終了した。
季節が変わるころには、イース北の周りは様変わりするはずだ。
楽しみにしていいのか、いけないのか。
複雑な気分だった。




