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第124話 森の村

「アウル村へ行こうと思う」

「はい!」

「なんで嬉しそうなんだ」

「お出かけです!」


ぽんこのお団子が高速で回っている。


イース北の入口を出たところで、探索者達とすれ違った。

これから入る連中は静かで、出てくる連中はうるさい。


「おい兄ちゃん、丸腰かよ」

「落としたんだ」

「落とすなよ」


笑われて、通り過ぎていった。


「マスター、嘘をつきました!」

「本当のことを言える訳がないだろう」


村までの道は、前より広かった。

地面が踏み固められている。

両側の下生えが刈ってあって、刈り跡が新しい。


「これ、シルヴァさんの仕業ですかね」

「刈るのは村の連中か、探索者だろ。木をどけたのがシルヴァさんだ」


上を見た。

枝が道の上だけ開いている。

日が真っ直ぐ落ちてきていて、足元まで明るい。


以前は半日だった道が、二時間で終わった。


村は木立の中にあった。

木は家を避けて生えている。

畑が森側に広がっていた。


村の入口に、新しい柵と門番が二人。

若い男だ。


「止まれ。どこから来た」

「イースから」

「探索者か」

「まあ、そんなところだ」


門番が俺の腰を見た。


「……武器は」

「落とした」

「落とすなよ」


今日二回目だ。


「ああ、そいつは通していい」


後ろから声がかかった。

リオンだった。

革の上に金属の板が入った鎧を着ている。

たかだか数ヶ月会わなかっただけなのに、やたらと大人びている。


無事門を通過してから話しかける。


「久しぶりだな」

「久しぶり。ユートさん、次からは棒でもいいから持ってきてくれ」

「なんでだ」

「持ってない奴の方が怖いんだよ」


村の中は人が多かった。

半分は見慣れない顔だ。

道の脇で荷を広げている連中がいて、その横で村の女が鍋を運んでいる。

銅貨が手から手へ渡っていた。


昼はリオンの家で食った。

パンと、豆を煮たやつと、干した肉。

リオンの母親が出してくれた。

俺の顔に反応はなかった。

それでいい。


「畑、北だけ増えてるな」

「増えた」


リオンが窓の外を見た。


「この間の冬だ。北側だけ、いきなり実った」

「いきなり」

「いきなりだ。種もまいていない、世話もしてない、去年の収穫の、残りが勝手に育った」


リオンが豆をすくった。


「じいさん連中が掲示板で似たような事例を探してきた。魔力の高いモンスターの死骸が混ざってるはずだと言って、みんなで三日かけて掘った」

「あったのか」

「ないさ。わかってるだろ」

「それで」

「今年の春、また北だけ実った」


リオンが肉を噛み切る。


「あと、猪が来なくなった。毎年、春に必ず来た。今年は来なかった」

「森が深くなったのにか」

「森が深くなってからだ」


リオンが俺を見た。


「あんたのおかげだよな」


俺は豆を食っていた。


「俺じゃない、シルヴァさんだ」


リオンが少し黙った。


「……あんた、もしかしてうちの村のこと、シルヴァさんに丸投げか?」

「待て、大丈夫だ、アウル村の事はきちんと引き継いである、危険はない、そうだな?」

「……まぁ」


危なかった。


「危なかったですね!」


黙れ。


午後、村を歩いた。

井戸が新しくなっていた。

石を積み直してある。

集会所の屋根が張り替えられていた。


しかし、その隣の家は焦げたままだった。


そこだけ、あの夜のまま止まっている。


「直さないのか」

「順番だ」


リオンが焦げた柱を叩いた。

乾いた音がした。


「井戸と集会所が先だった、次は井戸のもう一本。その次が道。家はもっと後だ」

「金か」

「金も、人もだ」


それ以上は言わなかった。

言う必要もなかった。

数十人が死んで、まだ焦げた柱が立っている。

そういうことだ。


教会の建物が見える。

元々無人だったが、襲撃後に紋章まで回収され本格的に撤退したそうだ。


広場に差し掛かると、エルノが木箱に座っていた。

こちらを見て、飛び降りてくる。


「おっ、来たな。痩せた?」

「痩せてない」

「痩せたって」


そのまま俺の横に並んで歩き出した。


「なあ、あんたさ」

「なんだ」

「入口んとこ、なんか建つらしいぜ」


リオンが露骨に嫌な顔をした。


「エルノ」

「え、まだ言っちゃ駄目なやつ?」

「順番があるだろ」

「あるの?」


エルノが俺を見た。


「あるらしい。じゃあ後で聞いてくれ」


そう言って、また木箱に戻っていった。


村の北の端まで来た。

畑の向こうに森があって、森の奥に俺のダンジョンがある。

畑の外れに、杭が打ってあった。

十本ほど。

縄が張ってある。


「家を建てる場所だ」


リオンが縄を指でつまんだ。


夕方、広場に人が戻ってきた。

探索者が飯を買って、村人が金を数えている。

その端で、じいさんが二人、言い合っていた。


「探索者の相手ばかりしやがって。ここは畑の村だぞ」

「復興には金がかかる。畑だけじゃ金にはならん」

「復興か。あんなことがなければの」

「そうだな。ダンジョンがなければ済んだ話だが、起きちまったもんはしょうがない。せいぜい利用するしかないだろ」

「……いや」


片方が空を見上げた。

森の上に、日が落ちかけている。


「……あの森は悪くない」

「ああ。そうだな」

「守ってもらっとるようなもんだ」


足が止まった。

止めるつもりはなかった。

止まってから、余計なことだと思った。

思ったが、口が動いた。


「守ってもらってる、ってのは」


じいさんがこちらを見た。

俺の顔を見て、リオンの顔を見て、また俺の顔を見る。


「北のダンジョンだよ」


あっさり言われた。


「あそこの魔物は村に来ん。獣も来ん。森も、村の中には入ってこん」

「怖くないのか」


じいさんが笑った。

歯が何本か無い。


「怖いよ」


そう言って、また空を見た。


「怖いが、あの夜、村へ来たのはあそこのモンスターじゃなかった。追い払ったのがあそこのモンスターだった。そういうことだ」


じいさんたちは、また北がどうのと言い合いながら離れていった。


日が落ち、そろそろ帰るかと門までリオンに送ってもらった。


「エルノが言った話だ」

「ああ」

「ギルドの支部から来てる。イース北の入口の前に、宿とか、飯屋とか、買い取り所を建てないかって」

「ギルドか」

「そうだ、イース北を盛り上げる為には、アウル村(おれたち)の協力が必要だって、そう言ってきてる」


俺は門の外を見た。

森があって、道があって、その先にうちの入口がある。

日は、もう森の奥へ消えていた。


「お前……それ、帰り際に言うことじゃないだろ」

「うっ……すまん。言い出し、づらくて……」


リオンが気まずそうな顔で言う。

エルノの方がよっぽど丁度いいタイミングだった。

大人びたと思ったが、やはり不器用な男だ。


「明日、空いてるか?」

「ああ」

「三人でダンジョンに来れるか。話を聞きたい」

「わかった。俺も相談したいことがある」

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