↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/141

第121話 ピザ窯が生えるダンジョン

ウィンドウが勝手に表示され、消えていった。

俺の願望を勝手にスキャンし、失敗したら会話から推測し、勝手に叶えて、だ。


「ぽんこ。今のなんだ?」


ぽんこが目をそらす。

気まずそうな顔だが、深刻な顔はしていない。


「弱者救済プログラムですね。戦力差が激しい場合に適切な競争を促すために発動します。よかったですね、これでレベル7の能力わかりますよ」


弱者。

まあしょうがない、そうなんだろう。

大いに失礼な通知だったが、今は喜ぼう。


「管理権限レベル7の能力、従属コアの完全支配、だったか?どういうことだ」

「はい!従属コアを自分のコアと同じように扱えます。直接ダンジョンに干渉できますし、DPの移行も自由自在です。また元のダンジョンマスターから管理権限自体を取り上げたり、逆に他の人物に権限を任せることも可能です!レイゼルさんのダンジョンを取り上げて、ゲルダさんにあげたりできます!」


なるほど。

税金で取り立てる必要もないし、命令してモンスターを生成させる必要もない。

全部自分でできるってことか。


「うん、便利だが、攻められる側(こっち)からしたら大して変わらない気がするな」


命令する代わりに自分でやれるようになる。

やることが増えるだけだ。


「マスター、それはうちが特殊だからです」

「特殊か?」

「はい!普通の管理者は従属を信用しません。裏切られたら終わりですから。細かく縛って、報告させて、それでも心配で夜も眠れないのです!」

「不眠取れよ」

「そういう問題ではありません!」


「彼も、任せる側だよ」


レイゼルが言った。


「落とした国の王を、そのまま治めさせた男だ。口を出す王じゃない」

「……じゃあ、あいつも大して変わらないってことか」

「逆さ」


レイゼルは指を組んだ。


「任せるのが上手い人間ほど、困るのは適材適所が組めないことなんだ。あそこの守りにはこいつを置きたい、あの交渉はこいつにやらせたい。このダンジョンはあいつが最適だ。分かっていても、コアの権利者はマスターだ。そこをすげ替えることはできない」


なるほど、思い当たる節はある。


「お前のダンジョンみたいに、か」

「そう。私のダンジョンは半ば放置状態だ、私が交渉(こっち)にかかりきりだからね」

「それを他のマスターに管理させる」

「月の収入は増えるだろうね、確実に」


俺は口の中で数字を数えた。


十八人のマスター。

十八のダンジョン。


「……全部、あいつの好きなように並べ替えられるってことか」

「そうだね」

「面倒だな」

「面倒だよ」


蟻の巣ダンジョンへ戻ったのは、その日の夜だった。


ゲルダは自分のダンジョンへ帰した。

中枢の仕事に関わりたいという話はレイゼルが引き取って、さっそく書類を山ほど渡していた。

あれで喜んでいるらしい。

俺には分からない世界だ。


居住区へ降りると、飯の匂いがした。


「おい。誰か飯作ってんのか」

「シュリさんが窯を作りました!」

「窯?」

「暇だから作ったそうです!ピザ焼き窯だそうです!」


行ってみると、通路の隅に炉が据えられていて、ゴブリンが五人がかりで何かを焼いていた。

シュリが煤だらけの顔で振り返る。


「おう、マスター!見ろよこれ、熱源の分散に成功した!元は工場の熱源設備だ」

「熱源の分散はいいが、ピザ窯だろこれ」

「ピザ窯だ!せっかくなら旨い方がいいだろ!」


イモが横で皿を持って並んでいた。


「マスター、おかえりなさい。敵の本拠地は楽しかったですか」

「楽しくはなかったな」

「あ、そうですか。じゃあ後で聞きます。いま順番なので」


行列ができていた。

ゴブリンが並び、蟻が並び、汎用戦機まで並んでいる。


「戦機は食えないだろ」

「並んでるだけです」

「なんでだ」

「みんなが並んでるからでしょうね」

「あいつら、感情はないんじゃなかったのか」

「モンスターは成長しますからねぇ」


俺は少し眺めてから、列の最後尾についた。


「マスター、何を並んでいる?」


通りかかったアニが、声をかけてくる。


「おう、アニ。ピザだ、食うぞ」

「……わかった」


アニが並ぶと、その隣にいたオトが静かに一歩下がる。

下がって、後ろにならんだ。


「お前も並ぶのか」

「……食べる」


焼けたものを受け取って、通路の壁に背を預けて食べる。

いつの間にか、レイゼルも混ざっていた。

肉と、なんだかよく分からない根菜が並んでいる。


「レイゼル」

「うん」

「あいつのところ、飯出るのかな」

「オルレアスの?」

「ああ」


レイゼルは自分のぶんを半分ほど食ってから答えた。



「出るだろうね。あの人はそういうところを疎かにしない。統一戦争の時も、糧食の管理が徹底していたと記録にある」

「うまいのか」

「うまいだろうね。一流の者を専属で置くはずだ」


俺は炉のほうを見た。


シュリがゴブリンと言い合いをしている。

火が強すぎると誰かが言って、弱いと誰かが言い返して、その横でイモが温度を測っていた。


「そういや、うちの料理係って誰がやってるんだ?」


アニに尋ねる。


「はじめは持ち回りだったが、今は希望者が専属でやってるはずだ。ピザを焼いてる、あいつらだな」

「あいつらか。……ん?」


UIからステータスを眺めると、特殊進化が出ている。

【特殊進化:シェフゴブリン 50,000DP】

一人がシェフゴブリンで、他の奴がコックゴブリンだな。


進化させとこ。

ぽちっと。

これで更に旨い料理を作ってくれるだろう。


ケンカを続けるシュリたちを眺めながら、続ける。


「東にシュリがいたら、どうなるかな」

「工房をもらうだろうね。いいやつを」

「機械作ってるのか」

「作ってるだろうね。うちにいるより、いい設備で、いい素材で」


「……本人は」

「喜ぶんじゃないかな」


そうだろうな、と思った。


あいつは機械が作れれば機嫌がいい。

工房をもらって、材料をもらって、好きなだけやれと言われたら、たぶん一日中笑っている。

穴を掘らないドワーフだと言われて追い出された女だ。


「じゃあ、東じゃあ窯は作らないな」

「作らないだろうね」


レイゼルはそこで少し黙った。


「作る必要がないからね。仕事があるんだから」


俺はもう一口食った。


冷めかけていた。


うちには、シュリの仕事を決める奴がいない。

工場を買ってやって、あとは放ってある。

放ってあるからやってみたいことが出て、余った時間が出て、その二つがくっついて窯になった。


向こうなら出ない。

余りが出ないように組むのが上手いからだ。


「なあ」

「うん」

「うちのやり方って、無駄が多いよな」

「多いね」

「向こうは無駄がないんだよな」

「ないだろうね」


それだけ言って、レイゼルは残りを食い終えた。


「……つまんなくないか?それ」


レイゼルは答えなかった。


その夜、俺は掲示板を開いた。


住人掲示板に、目立った話はない。

……一つを除いては。



〈西〉赤い鬼の噂を集めるスレ part6〈山〉


17:名無しの旅人

海を割ったらしい

19:名無しの旅人

船がなくて困ってた漁村で、海に向かって何かして、道ができたと

24:名無しの商人

それ潮が引いただけじゃないか

25:名無しの旅人

>>24

夢のない事を言うな

31:名無しの住人

うちの方では、宝を積んだ舟と自分の宝を交換して海に出たと聞いた

32:名無しの住人

>>31

海賊では?



パート6まで伸びていた。


「……あいつ」


海に出たらしい。


出ていく時に、気が向いたら帰ってこいと言った。

半年経つが、気は向いていないようだった。


DM掲示板のほうは、荒れていた。


【第三大陸】残り三十五【フェーズ2】

1:名無しのDM

ここまでの流れ

南は北西の狂犬ユートに統一

東は王がレベル7に到達

謎のメッセージ流れる←いまここ


なお、既に三陣営しか残っていないため、ポジショントークが前提です

張り切って参りましょう


2:名無しのDM

南が統一された

4:名無しのDM

>>2

狂犬に噛み殺されたな

12:名無しのDM

東は十八

狂犬は十六

残り一つ、こいつすごくね?

14:名無しのDM

>>12

生き残ってるのはすごいけど、単独だろ

もう無理だろな

28:名無しのDM

あの通知の最後の一行なんだよ

よい統合戦争を、って

29:名無しのDM

>>28

自我出して来たのはじめてだよな?

30:名無しのDM

誰が書いてるんだあれ

31:名無しのDM

>>30

考えるな



考えるな、と誰かが書いていた。

書いた奴も考えている。


「なあ、ぽんこ」

「はい」

「さっきの通知の、最後の一行」


ぽんこの瞳のリングが、一度だけ止まった。


止まって、それからまた回り出した。


「定型文です」

「今まで一回もなかっただろ」

「フェーズが変わりましたから」

「そういうことじゃない」


ぽんこは俺を見ていた。

いつもの高い声で、いつもの調子で、こう言った。


「秘密です!」


そうだろうな、と思った。


「……まだ何も言ってない」

「フェーズが進めばだんだんわかります。最後の一人になれば全部わかります」


「生き残れってことか」

「はい!ぽんこはマスターを信じています!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
彼らが存在している巨大スペースコロニーの技術力、もしくは魔術力がすごい。 >>24:名無しの商人 >>それ潮が引いただけじゃないか  この書き込みからわかるのは、スペースコロニー内に普通に潮の満ち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。