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第117話 王と宴

俺はコアの並んだ台座を見ていた。


一つ目を手に入れた時のことを覚えている。

レイゼルのコアだ。


「なあ、レイゼル」

こいつと出会った時は敵だった。

勇者にやられて敗走しているところを、狩った。

殺すつもりでコアを奪ったら、従属システムが解放されて、捕虜になった。

それが今や……


何か言おうとして、やめた。


「こいつらも任せる」

「君は……わかったよ。承ろう」


ダンジョンは、バントーたちに任せることにした。


「方針は今のまま、運営は任せる。ただし俺の権限が上にある」

「主にはなれない、ということか」

「そうだ」


バントーは少し黙って、それから言った。


「構わない」

「いいのか」

「このダンジョンに、主はいらないだろう」


俺は少し笑った。


「あいつ、そんなに嫌われてたのか」

「そういうことではない」


バントーは首を振った。


「だが、あの方がいなくても、ここは回る」


そのとおりだった。


宝箱を仕込むのも、噂を流すのも、探索者を選別するのも、全部こいつらがやっていた。

グランツがやったのは仕組みを作ること。

仕組みを変えないのであれば、主は必要ない。


「税は八割だ」

「八割か」

「文句や相談があるなら、レイゼルに言え」

「あなたは?」

「言われれば聞くが、できればレイゼルを通せ」


バントーが、不思議そうにこちらを見た。


「聞いてくれるので?」

「聞くが?」


俺の顔をまじまじと見てくる。


「……あなたは、主に向いていないのでは」

「やめろ。自信がなくなる」


その後、七人の従属マスターをレイゼルが集めた。


俺は顔だけ出して、三つだけ言った。


「税は八割。勇者を呼び込むな。困ったら言え」


以上だ。


あとはレイゼルが二時間かけて、報告だ、制限だ、罰則だと詰めていた。

俺は他の連中と同じ条件でいいと言ったが、レイゼルに却下されたのだ。

いわく同じ条件では自ら下った者たちが納得しない、と。


まあ、もっともな話だ。


元々は同じ南陣営。

片方は自ら下って勝ち馬に乗った。

片方はグランツに首根っこ掴まれて身動き取れず、捕虜扱い。


これでは、どちらも納得いかないだろう。


「どうしたもんかな……」


そのつぶやきに待ってましたと返す声があった。


「マスター!宴です!宴を開催するのです!」


ぽんこだ。


「社員旅行で親睦を深めつつ、飲みニケーションでアットホームな職場を演出しましょう!無礼講でみんなで楽しく余興をして、風通しのいい職場をアピールするのです!」

「ブラック企業コンプリートか」


わざとやっているようだが、ぽんこは本当に宴がしたくてたまらないらしい。

もしかしたら、この世界ではそれが正しいのかもしれない。


「レイゼル。どう思う?」

「いいと思うよ。酒宴は帰属意識を高める、組織運営の常識だね」


この世界は、昭和だった。

とはいえ、俺も飲み会は嫌いじゃない。


「……じゃあやるか。場所はイース北、従属は全員集合、でいいのかな」

「ああ、それがいい。遠征費用は従属持ち、宴会費用と遠征中のダンジョンの警護は君持ちだ。それがこの世界の基本だよ」


「なんだよ基本って」

「王と領主の基本さ。そういうルールだ」

「俺は王じゃないぞ」

「似たようなものさ。大陸の半分を治める派閥の領袖、まさに王さ」


俺は王らしい。

あの、執事を送り込んで来た、あいつと同じ。

なんとも言えない気持ちになる。

決して楽しい気持ちではない。

むしろ……


「気に食わん」

「……ん?」


レイゼルが不思議そうな顔をする。


「俺は王って柄じゃない。俺が王だと思っているなら間違いだ」

「……いや、そんなことを言っても」


「なんだ王って。そんなに偉いのか、同じ人間だろうが。上司も部下も役割だ。偉いも偉くないもない」

「……王は、偉いだろ」


言ってて腹が立ってきた。


「とにかく気に入らん。俺は王にはならない、役割として上に立つ。死にたくないからこの立場は譲らん。でも俺は偉くない」


しゃべっていたら考えが整理されてきた。

そうだ、役割だ。

役割としてなら俺は上に立てる。


「ん……?いや、王も役割か……?」

「一人で何を言ってるんだ、君は」


「まあいい、とにかく俺は王にはならん。基本なんかクソくらえだ」

「わかったよ……で、じゃあどうするんだい」


ふふふ。

逆を行ってやろうと思って考えていたら、面白いことを思いついたのだ。


「ぽんこ、喜べ」

「やったー!……で、なんでです?」


「宴だ!場所はここ、時間は今からだ!」

「やったー!」


そうと決まれば、今すぐに従属全員を連れてくる必要がある。


まずやることはDPの確保だ。


「バントー、グランツがため込んだDPよこせ。あ、あと宴会の準備よろしく」


よし、DPができた。


DPができたらこちらのもの、マーレンの街まで伸ばした支配域を、更にグランツのダンジョンまで伸ばす。


よし、移動だ。

歩いて蟻の巣ダンジョンに入る。

バントーからもらったDPは潤沢だ、一本道でよければ、相当な長さの支配域を通せる。


つまり……従属全員分のダンジョンに、道を通した。


そこからは簡単だ、ダンジョン内転移で全員迎えに行く。

どうだ、王はタクシー代わりなんてしないだろう。


「よお、トト。迎えに来たぞ」

「は、はい……」


「ゲルダ、久しぶり」

「また無駄遣いを……」


「バーガ、行くぞ」

「あんた、強くなったな?」


そして……


「よっしゃ、全員集合」


「やったー!さすがマスター!頭悪い!」

「……わかったよ。君を怒らせるとこうなるんだね」


無礼講で風通しがよく、アットホームな宴会が始まった。

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― 新着の感想 ―
この世界の常識を知らないことが強みになってるのかな? でも読んでいてこういう展開は楽しいです。
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