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第104話 シュリ

トトのダンジョン防衛戦は無事終了した。

アニ達も既にダンジョンへ帰還してきている。


見せしめを逆に完封されたグランツがどう動くかは懸念だが、今はそれよりも気になることがあった。


件のドワーフは、格納庫にいた。

正確には、格納庫で、汎用戦機の胸部装甲を勝手に開けていた。


「おい」

「ん?」


振り向いた顔は、機械油で半分黒かった。


背は低い。

ドワーフだから当然だ。

女だが骨格はがっしりし、筋肉が浮き出ている。

歳は若い。

ドワーフの見た目の歳は分かりにくいが、声と動きで若いのがわかる。

前に見た時は汚れてわからなかったが、髪の色はくすんだ朱色、相変わらず後ろで雑に束ねている。


「お前、イモとセラと仲がいいんだって?」

「おう!イモは色々考えてて面白いし、セラはあれだ、カッコいいからな」


そこで、格納庫の入口から声がした。


「マスター。ご報告があります」


セラだった。

話を聞くために来てもらったのだ。


「当該ドワーフ個体について、記録を提出します。過去三十日間、当機への無許可接触、二十四回。無許可接触の内訳、外装の接触観察が十九回、打診のための殴打が四回、装甲接合部への工具挿入未遂が一回」

「工具挿入未遂」

「開けようとしました」

「開けようとするな」

「だってセラの装甲、収まりが綺麗なんだよ!どうなってるのか見たいだろ普通!」

「普通は見ない」

「当機は、当該個体を警戒対象として登録済みです。……ただし」


セラは一拍置いた。


「ただし?」

「機械に対する熱意、知識は本物です。私たち機兵はエンジニアには敬意を払います。彼女のことは私が保証します」

「つまり仲良しってことだな」

「否定します」


セラらしい、合理性で感情を隠した表現だった。


「だからさ、セラはもっと俺に触らせるべきなんだって」

「拒否します」

「ちぇっ」


ぽんこが小走りにやってきたのは、そのタイミングだった。


「マスター!例の子の話、聞いてきました!」


ぽんこに、こいつの情報を集めてくるようお願いしたのだ。


「ではご報告です!まず、アニさん、イモちゃん、オトくん、それからシルヴァさんは赤毛のドワーフを覚えていました!」


「ん?シルヴァさんがなんで知ってる?」

「引っ越しの時に汎用戦機に着いて一緒に行ってたそうです」


「お前、そんなことしてたのか」

「うん、アニさんにバレて怒られたけどな!」


「幹部の皆さんからは概ね高評価でした!元気で物をはっきり言うところと、そもそも能力への評価が高かったです!」


勝手に勉強して汎用戦機をぶっつけ本番で直すような奴だ。

優秀さは俺も知っている。


「それとですね、ドワーフさんたちに聞いて来たんですけども……」


そこで言葉を詰まらせ、赤髪のドワーフを見る。


「言ってくれていいぞ!嫌われてるのはわかってる!」

「嫌われてる?」

「ドワーフさんたち、頑固ですからね。穴掘りをしないドワーフは認めないそうです」


職人気質のドワーフたちだ。

穴を掘るのがドワーフとしての生き方で、それ以外の生き方は認められないらしい。


「ドワーフさんの基本は、土の種族です。穴掘り、坑道の補強、鉱石の採掘。そっちが本流で、たまーに、鍛冶や金属に興味を持つ変わり者が出ます。そういう子は、鍛冶ドワーフ系の別種族に進化していくことがあります」

「こいつは、その変わり者か」

「それがですね、この子、鍛冶系とも違うんです。鍛冶ドワーフさんは素材や、素材を生かすことが大好きですが、この子が興味あるのは構造や、動くもの、ですね」


土でも、鍛冶でもない。

機械の方に伸びている。

「穴掘りは嫌いか」

「好きだぜ?」


意外な答えだった。


「掘るのは楽しい。でも、土は別に好きじゃねぇ」

「土?」

「ドワーフはな、好きなもんをいじり倒して、こねくり回して、すげぇもんを作るのが好きなんだよ。大抵の奴はそれが土だし、たまに金属の奴もいる。あたしはそれが動くもんだ」


セラの腰を工具の柄でこつんと叩いた。


「あいつら自分たちのことをわかってないんだよ。ドワーフは土を掘るもんだと思ってる。違うね、ドワーフは『好きなもんを極める者』だ」


そう言ったそいつの顔は、楽しさに満ちあふれていた。


「気に入った」


みんながこいつを評価する理由がわかった。

自分が同族から迫害されている理由を、そして、その種族をこんなに誇らしそうに語れる奴はそういないだろう。

一言で言うと、気持ちのいい奴、だった。


「お前」

「ん?」

「うちの技術班をやれ。『好きなもんを極め』ろ」


ドワーフの目が、まん丸になった。


「……全部、触っていいのか?」

「触っていい。ただし許可は取れ、ダメと言われたら止めろ」

「うぐ」


「名前をやろうと思う。どうだ?」

「名前……わかった、好きなもんの次に、あんたに仕えよう」


その目は、希望に燃えていた。


「お前はシュリだ」


ドワーフは、二秒固まった。

そして、変わらず誇らしそうに言った。


「シュリ。それがあたしの名だ」


「しゅり……髪の色の朱?あとは……首里、城……?赤いから……?」


ぽんこが何やらつぶやいている。

ちなみに名前の由来は汎用戦機を修理(しゅうり)してたからだ。


「気に入ったなら何よりだ」

「なあマスター、名前の記念に一個いいか!」

「なんだ」

「工場(こうば)!工場をくれ!あと旋盤!フライス盤!プレス機も!」

「初日から要求が多いんだよ。そもそもないだろ、そんなもん」


言いながらUIのダンジョン設備の欄を見る。

部屋や厨房、農場、牢屋に混じって……


【工場】

・旋盤、フライス盤、プレス機完備

・100,000DP


……あった。


「これこれ!マスター!サンキュー!」

「……わかったよ。出世祝いだ」


細かくUIを眺めていくと、色々な項目で工業用品が増えている。

物体生成【ねじ】ってお前、一本一本生成するのか。

モンスターも戦機シリーズに、特化機兵……メカゴブリン?これ後で生成してみよう。


とにかく、シュリの加入で工業系ジャンルが解放されたらしい。


技術班なんて部署は、俺の計画のどこにもなかった。

汎用戦機に整備が必要なんて発想はなかったし、工業系項目なんてものがあるとも思っていなかった。


その穴を見つけたのは俺じゃない。

穴の方に、勝手にはまりに来た奴がいただけだ。


うちの陣営は、俺が組織図を書くより先に、現物が増えていく。

マスターとしてどうなんだ、それは。


「……まあ、動いてるからいいか」


どこかの『極める者』とは真逆の姿勢だった。

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