第103話 初陣
裏口の指揮は俺が直接とることにした。
直接とは言っても、チュウタの身体を使ってだが。
表はアニの役目だ。
ゴブリンと蟻の混成部隊が、入口を塞いで敵を順番に潰している。
アニは強い、あっちは心配いらないだろう。
チュウタの分体に意識を落とすと、辺り一帯から這うような音が聞こえてくる。
通路の奥で、大蛇がうごめいている。
その後ろから大きく、青く鮮やかなカエルが跳ね、さらに後ろで赤黒いイモリが列を作っている。
一番後ろには数メートルはありそうな巨大な亀が数体。
情報を流した相手は爬虫類、両生類特化。
その特徴は、状態異常攻撃。
攻撃の決め手は全て状態異常、毒や呪いなどの状態異常で敵を弱らせてから狩るスタイルだ。
それに対してこちらの陣営。
『戦機、前へ』
三十体が、狭い通路の幅いっぱいに広がって進んだ。
アニの新しい手勢、汎用戦機突破エディション。
ラセツの穴を埋めるために加えた、前線突破型の攻めの要。
しかし今回こいつらに期待するのはその突破力じゃない、汎用戦機としての特徴だ。
『突入』
その言葉と共に汎用戦機が脚部で何かを爆発させて、凄まじいスピードで飛び出す。
先頭の一体に蛇が数匹まとめて噛み付き、牙が装甲を傷つける。
戦機が腕を振ると蛇がまとめて壁に叩きつけられ、跳んできたカエルの毒液は身体に当たって、飛び散り消える。
それだけだった。
汎用戦機としての特徴、汎用戦機はロボットだ、生物的な毒が効かない。
一方的だった。使い慣れた得意技が片っ端から空振りして、相手のモンスターの動きから困惑が見えた。
蛇もカエルも引いた後、通路の奥から重い足音が聞こえてくる。
亀だった。
体長数メートル、甲羅が異様に分厚く、縁が刃のようにせり出している。
甲羅の模様が浮き上がり、中から蛇とカエルが顔を覗かせていた。中に詰めて運ぶ、動く要塞だ。
三体が横に並んで通路を塞ぎ、甲羅が一斉に開いて中身が吐き出された。
出てきたカエルが、今までのより一回り大きい。
赤黒いイモリの模様が光り、戦機の動きが一瞬だけ鈍る。
その瞬間、カエルが口から粘液を吐き出し、先頭の戦機の身体から白い煙が上がった。
酸だ。
金属が溶けて、片膝をついた戦機の肩に二発目が当たり、腕ごと落ちた。
『下がれ!全機、後退!』
一体の頭部が溶けて前のめりに倒れた。
汎用戦機を下げ、ゴブリンと蟻を牽制に進ませる。
『囲め、酸に気をつけろ。お前らに効くのは、こいつの酸と、イモリの呪いと、大蛇の物理攻撃くらいだ、落ち着いていけば削れる』
そこからは、消耗戦だった。
酸持ちのカエルはゴブリンと蟻でかき回して、戦機が横から潰して行く。
向こうの数は減っていく。
しかし、こちらの数も減っている。
既に残りは二十体。
消耗しすぎるようなら、アニの軍勢をこちらに回してもらうことも考えなくてはならない。
更に一体、大蛇に巻きつかれ、装甲ごと潰された。
その時、視界の隅に妙なものが動いた。
さっき足を溶かされて通路の脇に転がっていた戦機が、立ち上がり敵に向かっていく。
その場に残った、しゃがみこんだ小さな影。
ドワーフだった。
蟻の掘削の補助に連れてきた三人のうちの一人で、女だ。
髪を後ろで雑に束ね、腰に工具袋を提げて、顔中に煤と酸の跳ねた跡がついている。
壊れた戦機を集めてきたのか、そこら中に転がる戦機に手を突っ込んでいた。
『おい、そこの。何やってる』
ドワーフが顔を上げずに言う。
「見りゃ分かんだろ、直してんだよ!」
手を止めない。叫びながら金具を打ち込んでいる。
「こいつらは『汎用』戦機だ、無理やりでもパーツが揃えばとりあえず動く!イモが言ってた!」
『やったことあるのか』
「ない、でもセラに聞いて構造は把握してる。繋げるだけならできる」
目の前で戦機が一体立ち上がった。
片脚を引きずってはいたが、動いている。
「ほらな!」
ドワーフが、煤だらけの顔で笑った。
『お前、命令もないのに勝手に直してたのか』
「あ?悪いかよ!」
『悪くない。……いや、良い。じゃんじゃん直せ』
「おう!任せろ!」
『ゴブリン、こいつを守れ。囲んで敵に触れさせるな。厳しそうなら戦機を呼べ』
「嬉しいけど、ゴブリンよりは私の方が強いよ。ドワーフは戦闘種族でもあるからね!」
そこから、戦場の形が変わった。
戦機が壊れると、ドワーフが壊れた二体から一体分の部品を引き抜き、別の機体に嵌める。
ゴブリンが部品を運び、ドワーフが直し、半死の機体が立ち上がる。
目に見えてこちらの損耗が減っていた。
亀は全て倒した。
割れた甲羅の破片が通路に散らばり、残った蛇とイモリが奥へ奥へと追い込まれていく。
こちらはもう大丈夫だろう。
『よし、お前ら。そのまま奥まで追い込め。俺は他を見てくる』
最深部のトトの元へ。
ちょうど壁に蟻が穴を掘って顔を出したところだった。
『トト、そこの穴から逃げろ。あとは最深部での殲滅戦に移行する』
「は、はい!」
トトが穴に消え、後ろで蟻が土を落として、道が消えた。
ダンジョンの中に残っているのは、敵だけだ。
さて、アニはどうなっているかな。
アニの元へ繋ぐ。
『アニ、どうだ』
「問題ない、倒した数は少ないがこちらは損耗なしに奥へ押し込んでいる。そっちは?」
『損耗はあるが大体倒した』
俺がそう言うと、アニは眉間に皺を寄せる。
「……マスター。作戦は?」
『入口と裏口、両方から押し込んで最深部で殲滅』
「わざわざ最深部まで押し込むのは何故だ?」
『挟み撃ちにできるし、蟻で道を作れば横からの奇襲もできる、何より全体にアニの強化が乗る』
「……で、言うことは?」
『すみませんでした』
そうして、最深部まで押し込んだ後は汎用戦機にもアニの強化が乗り、蟻の道を使い、裏にもアニの部隊が雪崩れ込み、理想的な殲滅戦となった。
それを見届けてから、その場をアニに任せて感覚共有を切る。
「マスター!大丈夫ですか!」
「……大丈夫じゃない」
「一日感覚共有を繋ぎっぱなしです!十数分が限界だったのに!」
「途中で切れるわけないだろ、あの状況で」
世界が回る、胃がひっくり返る、脳みそが痛い。
「ぽんこ」
「はい」
「あのドワーフ、知ってたか?」
「赤髪の子ですね。イモちゃんやセラちゃんと仲いいですよ」
「後で考える」
「なにをですか」
「名前だ」
口をゆすぎたかったが立ち上がれなかったので、ぽんこに水を持ってきてもらった。




