第102話 見せしめ
レイゼルから、グランツの軍勢がトトのダンジョンに向かっているとの情報が入る。
「トトか、想定内だな」
「おー。マスター、大正解です!」
グランツの反撃がどこにくるか。
コアは俺が保護している、とすればグランツが狙うのはマスター本人の命。
見せしめにするには、相手に非がある方がいい。
貸しがある相手。
しかし、強いマスターはダメだ、費用がかさむ。
つまり、トトか、トトの紹介でレイゼルに目を付けられた可哀想なマスターだ、とあたりをつけた。
トトからDMコールが入る。
『ユ、ユートさん。グランツの策を見抜き、先んじて軍勢を送っていただき、ありがとうございます』
「気にするな。お前が死んだら俺も困る」
事実だ。
現金収入がなくなるのはもちろん、他の連中の信頼を失うのも避けたい。
トトのダンジョンには、アニを送った。
もう片方にはオトと、バーガを含む武闘派マスターが二人。
戦いたがっていたから配置したが、外れだったな。
「それで、トト。いいんだな」
『は、はい!私も戦います!このダンジョンは私のダンジョンですから』
俺は最初、トトを避難させようとした。
コアがない以上、トトを避難させてしまえば相手の目標はなくなる。
「いやートトさん、なかなかに漢ですね。自分のダンジョンを守って散るとは」
「散らすな」
『あ、足手まといだとは思いますが、いただいた囮の役目、全うしてみせます!』
トトのダンジョンは小さく、狭い。
モンスター相手に守るには心もとない。
「しかし、相手のモンスターを閉じ込めてしまえば、小さく狭いのは利点になる。外から押し潰せばいいだけだからな」
トトには入口の反対側に出口を掘らせた。
「敵が来たら、迎撃しつつ奥まで引き込め」
『はい、そして十分引き込んだら抜け道から脱出、ですね』
「そうだ、そうしたらアニ達が外からダンジョンに突入する。味方で蓋をするイメージだな」
本来なら入口を増やすのは両刃の剣だ。
守る道が増えることになるからな。
しかし、トトに守るものはない、逃げればいいだけだ。
「相手を騙すために、敵が全員ダンジョンに入るまで耐えて欲しい、できるか?」
『はい!』
敵が来たのは、三日後の夜だった。
俺はチュウタの分体二体に、交互に感覚共有を繋ぐ。
一体はダンジョン最深部、トトのもと。
一体は外、アニのもと。
まず、ダンジョンの中。
低い視界に、トトの背中が見えた。
震えている。
震えながら、UIからモンスターに命令を出している。
近くにいたチュウタから念話が入る。
『敵、入口より侵入。第一波、推定三十』
来た。
配下のスライムたちが、罠を代わる代わる引っかけて、矢を放つ様子がUIに移る。
トトのダンジョンは罠とスライムの連携ダンジョン。
スライムが敵を転ばせ、罠にかける。
スライムが罠を起動し、攻撃する。
人間相手なら有効だが、モンスター相手にはさほど効き目がない。
「ユ、ユートさん!スピード、落ちません!」
『まだまだ大丈夫。アニの方見てくるわ』
アニの近くのチュウタに、感覚共有を切り替える。
アニ達は敵に悟られないように、入口がかすかに見える森の中に隠れていた。
入口の周りには、侵入してきたモンスターの十倍以上のモンスターが集まっている。
『アニ、どんな感じ?』
「先遣隊が入った。あそこのダンジョンは入口の見通しがいい、人間に見つからないように少数精鋭で来てるな。思ったより数が少ない」
『三百くらいかな』
「ああ。俺たちが最初に潰し合っていた頃でも、二千は動いた。本気で更地にするなら桁が違う」
確かに、入口の周りに展開するモンスターはそれほど多くはない。
しかし、なかなか入口に入ろうとはしない、先遣隊の報告を待っているのだろうか。
『了解、あっち行くわ』
トトの元へ戻ってくる。
『トト、もうちょい耐えてくれ。ある程度深くまで引き込まないと後続来なさそうだわ』
「だ、大丈夫です!次の階層がうちの名物。スライム湖ですから」
UIを見ると、まさに敵が新しい階層に突入するところだった。
「止まれ」
先頭にいる、鳥頭の獣人が声をかける。
「なんだこりゃ、こんな階層聞いてないぞ」
豚頭の獣人が応える。
というかこいつら普通に喋ってるな、割と上等なモンスターだ。
トトを見ると、怯えた目で口は笑っていた。
器用な奴だ。
「ふ、ふふ。ただの湖じゃありません。ウォータースライムを増殖させて作ったスライム湖。戦闘能力は大してありませんが……」
モンスター達が対岸に渡ろうと、湖へ踏み込む。
足首、腰、肩、そしてとうとう足がつなかくなり、泳ぎはじめた。
そして、見る見る間に沈んでいく。
『気付かず泳いで渡ろうとしたら、溺れて死ぬってことか』
待機していた少数を残し、全員が沈んで行った。
残った少数は来た道を引き返していく、外に応援を呼びに行くのだろう。
「で、でも、効かない相手も多いんです。壁を伝ったり、飛び越えたり」
『そもそも呼吸がいらない奴なら無視して進めるしな』
うちのゴブリンだったら、人海戦術で全部汲み出すかな。
『となると、やっぱり本命はアニ達だな』
「は、はい!これで外の奴らを呼び込めれば……」
その時、チュウタから念話が入る。
『マスター。レイゼルから伝言、裏口に敵きた。新しいの』
「う、裏口……!」
『アニから。入口、敵が一斉に突入』
『レイゼルから。裏口も敵が一斉に突入』
「ユ、ユートさん……これ……」
トトがこちらを見る。
その目は信じられないものを見る目だった。
『上手くいったな』
「まさかユートさんの言うとおりになるとは……」
そう、裏口から突入されるのも予定のうち。
作戦通りだ。
『別に読んだわけじゃない、誘導しただけだ』
「誘導?」
『ああ、レイゼルに裏口の存在を漏らさせた。裏口の存在を知れば、そりゃ挟み撃ちにしようと両側から入ってくる』
「な、なるほど」
レイゼルは上手くやってくれた。
自然に、漏れ出たように相手に悟らせる、まぁこういうことをやらせたら奴に勝てる人間はそういないだろう。
『ついでに、ちょっと仕掛けをしてある。上手く行けば面白いことになるぞ』
トトには、ギリギリまで籠城を続けるように指示を出し、アニの元へ飛ぶ。
『アニ、どうだ?』
「敵は全軍突入、こちらも準備完了。いつでも行けるぞ」
『裏口は?』
「裏口も準備できてる。ああ、例の作戦、はまったみたいだぞ」
『よっしゃ』
例の作戦、ちょっとした仕掛け。
レイゼルとの相談で思いついた。
その時のことを思い返す。
「レイゼル、情報を流した相手はどうすると思う」
「十中八九、独り占めするだろうね。あそこは損得の集まりだ、自分が得するように立ち回る。確かな情報じゃないから保険で自分の手勢を出しておいた、そうしたら正しい情報だったから攻め込んだ。それで言い訳はつく」
「なるほど。つまり裏口からはそいつのモンスターしかこないわけだな。ということは……」
メタが張れる。
そうして作り上げた必勝の策。
アニの新しい軍勢、汎用戦機の初陣だ。




