第一話2
目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。
空はどこまでも青く、鳥が舞い、遠くにはファンタジー全開の城がそびえている。
……うん、どう見ても異世界です、本当にありがとうございました。
ふつうなら感動するシーンなんだろう。
「すげぇ!ドラゴンだ!」「魔法だ!」「もう一生ここで暮らすんだ!」とか叫ぶところだ。
でも俺は違う。
俺はひとり、ぽつりと呟いた。
「……シルビア、車検場に置きっぱじゃん」
そう、俺の心配はそれだけだった。
俺が異世界に来たことなんざどうでもいい。
大事なのは、俺のシルビアが今この瞬間も見知らぬ整備士に下から覗かれて、
タイヤ外されて、ブレーキパッドを勝手にチェックされてるって事実だ。
「おーい!大丈夫かい、お兄さん!」
近くを通りかかった行商風のおっさんに声をかけられる。
やば、これチュートリアルNPCじゃん。
「あの、ここは……?」
「おお、ここは王国の西の草原だよ。ところで兄さん、ずいぶん変わった服を着てるな」
やっぱ異世界か。
まあ、こういうのはテンプレだし、すぐ慣れる……って、ん?俺がまず確認しなきゃいけない大事なことがあるだろ。
「さーせん。俺のシルビア…あ、いや、俺の車見ませんでしたか?」
行商風のおっさんに食ってかかる俺。
「す、すまんが“くるま”?とは何のことだ……?」
「ほら!四つタイヤがついてて!ハンドル回して!シューン!って走るやつだよ!!」
「????」
……終わった。
俺の推し活ライフ、終了のお知らせ。
「いやいやいや……おい、誰か!トヨタも日産もホンダもないのか!?軽自動車も?軽トラも??え、マジで???」
俺は膝から崩れ落ち、絶望のあまり天を仰いだ。
「シルビアちゃぁぁぁぁぁん!!!俺を置いて行かないでぇぇぇぇ!!!」
街の人々「……何あの人」「気が触れてるのかしら」
俺は異世界での一歩目から、盛大にやらかしたのだった。
街で「シルビアちゃぁぁん!!」と叫び散らかしていた俺は、当然のように衛兵に捕まった。
だってそうだろ?見知らぬ街で見知らぬ単語を叫びながら発狂してる若者だ。
そりゃあ怪しいに決まってる。
で、連れてこられたのが――「冒険者ギルド」だった。
「おい新人、異世界人だってな?」
カウンターに座ってるのは、筋肉ゴリゴリの受付嬢。いや、あれはもう受付嬢じゃなくてプロレスラーだ。
「お、おう……。で?俺はどうすれば現世に帰れるんだ?」
「帰る方法なんざ知らん。ただ――お前、魔力適性があるらしい」
魔力適性?
……いや俺、車オタクだぜ?
回転数とかトルクなら得意だけど、魔力ってRPM換算できんの?
「はいこれ、触ってみろ」
渡されたのは水晶玉。ありがち。
俺が触れると――バチィィン!と光が弾け飛んだ。
「……おい。数値振り切れてるぞ」
「マジかよ!?……俺、チート主人公!? いや、もしかして“あっちの世界からシルビア召喚”とかできんのか!?」
「いや、適性は……魔法使いだな」
「魔法使い!? ちょ、待て、剣士とか勇者じゃなくて!? もっとこう、カッコいいやつあるだろ!?」
「魔法使いだ。おめでとう、今日からお前は立派な魔法職だ」
……クソが。
俺が欲しいのはファイアボールでもサンダーでもねぇ。
あ、いや、5ZIGENのファイヤーボールは欲しい。
って、欲しいのは帰るための道、そして俺のシルビアちゃんだ。
「ちくしょう……!俺はこの世界からとっとと脱出してシルビアを取り返す!
そのためなら魔法だろうがなんだろうが使い倒してやる!!」
街の人々「……まだ“シルビア”とか言ってる……」
こうして、俺の異世界生活(シルビア奪還戦線)は幕を開けた。




