表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/324

第九話「日雇いと社会の闇と、尊厳の解体ショー」

 世の中には、見なかったことにされている地獄がある。

 誰かが引き受け、誰かが押し付け、誰かが使い潰し、

 そして、誰も責任を取らない場所。

 それが――日雇いバイト現場だ。

 午前六時二十分。

 神城市郊外、プレハブ事務所前。

 カノは、眠気と二日酔いと絶望を引きずりながら、列に並んでいた。

 周囲には、年齢も性別も種族もバラバラな人間と獣人。

 共通点は一つ。

 全員、目が死んでいる。

「……今日の現場、どこやろ……」

 スマホを見る。

 案件名:廃棄物仕分け・軽作業(簡単)

「……“簡単”て書いてあるやつ、九割地獄やからな……」

 的中。

 ワゴン車に詰め込まれ、連れて来られたのは――

 巨大ゴミ処理場。

 漂う腐臭。

 積み上げられた黒い袋の山。

 飛び交うカラス。

 床には、正体不明の液体。

「……はい、終わった」

 現場監督のオッサンが、拡声器で叫ぶ。

「今日の作業はな、家庭ゴミの手選別や!!」

 ざわっ。

「分別ミス多すぎて、機械止まるから、人力で仕分けや!!」

 カノ、脳内で自分の人生を振り返る。

 ――あ、これ、罰や。

 作業開始。

 ベルトコンベアに流れてくる、混沌の塊。

 生ゴミ、オムツ、腐った弁当、割れたガラス、謎の液体、動物の死骸、エロ本、使用済みゴム。

「……」

 開始三分。

 嘔吐寸前。

「……これ……人間の出すもんちゃうやろ……」

 鼻を突く、地獄の香り。

 手袋越しでも伝わる、ぬめり。

 時々、ぬるっとした何かが指に絡む。

「……考えるな……無になれ……」

 悟りモード突入。

 隣の作業員、六十代くらいの人間の男性が、ぼそっと呟く。

「……慣れると、これが普通になるんだよ……」

「……なりたくないです……」

「……皆、そう言う……」

 その目は、完全に死んでいた。

 午前十時。

 休憩。

 水を飲んでも、口の中から腐臭が消えない。

「……これ、地獄の洗礼やろ……」

 午後。

 第二ラウンド。

 今度は、粗大ゴミの解体。

 家具、家電、ベッド、ソファ。

 中身、だいたい汚い。

 冷蔵庫の中から出てきた、謎の黒い液体を見て、カノは思った。

「……これ、事件やろ……」

 監督「いいから流せ!!」

 正義、死亡。

 夕方。

 作業終了。

 全身、ゴミの匂い。

 服、死亡。

 精神、瀕死。

「……これで……八千円……」

 時給千円。

 八時間。

 人生、安い。

 帰りのワゴン車。

 全員、無言。

 疲労と絶望で、魂が抜けている。

 メゾン・ブランシェ前。

 カノは、ふらふらと部屋へ戻り、玄関で崩れ落ちた。

「……もう……社会、無理……」

 そこへ、エイト君とシホ。

「……うわ、臭っ……」

「……人類の闇を、浴びてきました……?」

「……うん……」

 シャワーを浴びても、臭いが取れない。

 それでも、ストロングゼロを開ける。

「……はぁ……」

 アルコールが、脳を溶かす。

「……なぁ……」

 カノは、二人を見る。

「この社会、下で支えとるやつ、全員踏み潰されとるよな……」

「……」

「……」

 シホが、ぽつりと。

「……でも、誰かがやらないと、街は回らない……」

「……せやな」

 カノは、鼻で笑った。

「……ほんま、クソやな……」

 それでも、明日になれば、また並ぶ。

 並ばなければ、生きられないから。

 社会の闇の底で、今日も腐敗獣人は働いている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これも読んでクレメンス

埼玉のエセ走り屋に愛をッ!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ