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第七話「狼、銃、パトカー三台。人生、終了のお知らせ」

 その日は、朝から嫌な静けさがあった。

 メゾン・ブランシェ。

 いつもなら、どこかしらから

 ・エイト君の工具音

 ・カノの空き缶クラッシュ音

 ・シホの金属カチャカチャ音

 が聞こえてくるのだが、この日は異様なほど静かだった。

「……あかん日や、これ……」

 203号室。

 カノは、ストロングゼロを開けながら、根拠ゼロの確信を抱いていた。

 こういう日は、必ず碌でもないことが起きる。

 そして、その予感は――

 ピーポーピーポー

 という、最悪のSEによって、秒速で現実になる。

「……え?」

 窓の外を見る。

 パトカー。

 しかも一台じゃない。

 二台。

 いや、三台。

「……」

 数秒後。

 ドンドンドンドン!!!!

 アパートの玄関ドアを叩き割りそうな音。

「神城警察署です!! 開けてください!!」

 カノの脳内で、死刑宣告のゴングが鳴った。

「……ウチ、なんかやった?」

 記憶をフル回転。

 飲酒、無断欠勤、ゴミ不法投棄未遂、大家さんへの暴言、深夜騒音幇助。

「……あ、詰んだ」

 だが、答えはすぐ出た。

 103号室。

 シホ。

 銃。

 職質ホイホイ部屋。

「……あいつか……」

 カノは、半分白目のまま廊下へ飛び出した。

 そこには、完全武装の警官たちと、顔面蒼白の獣人二匹。

 エイト君は、すでに正座。

 シホは、両手を挙げ、壁際で直立。

 完全に突入直前の麻薬組織アジト。

「……状況、説明して?」

 カノ、震え声。

 エイト君が、死んだ目で囁く。

「……通報」

「誰が」

「……隣の奥さん」

「何を」

「……『銃を持った不審者がうろついてる』」

「……あ」

 全員、同時に103号室のドアを見る。

 中には、

 AR-15

 AK47

 スコープ

 サイレンサー

 銃剣

 予備マガジン

 ――地獄のフルコース。

 警官の一人が、低い声で言う。

「この部屋、開けます」

「……はい……」

 シホの声は、蚊の鳴くよう。

 ドアが開き、銃器の壁が露わになる。

 一瞬の沈黙。

 そして。

「……本物じゃ、ないですね?」

「……全部、モデルガンです……」

「……改造、してます?」

「……ちょっとだけ……」

「……ちょっととは」

「……見た目、九割……」

 警官たち、全員、無言。

 空気が、殺意と職務質問で飽和する。

 そこへ。

「ちょっと!! あんたら!!」

 大家さん、参戦。

「シホはな!! 銃オタクなだけで!! 危険人物ちゃう!!」

 フォローになってない。

 警官、頭を抱える。

 事情聴取、開始。


 廊下に並べられ、正座。

 獣人三匹。

 警官三人。

 近所の野次馬、十人。

 公開処刑。

「銃を外に持ち出したことは?」

「……整備後、動作確認で……」

「どこで」

「……廊下……」

「時間は」

「……午前六時……」

 野次馬、ざわつく。

「早朝に廊下で、銃型の物体を構える狼」

「……完全アウトやな……」

 カノ、他人事。

 エイト君、死に顔。

 結論。

 厳重注意+書類提出+近隣住民への謝罪回り。

 死亡。

 完全なる、社会的死亡。


 夕方。

 三人は、大家さんに引きずられ、菓子折り片手に近所を回っていた。

「すみませんでしたぁ……」

「申し訳ありませんでしたぁ……」

「……」

 謝る度に、尊厳が削れていく。

 十軒目を終えた頃には、三人とも魂が半分抜けていた。

「……なぁ」

 カノが呟く。

「ウチら、もう、裏社会の住人やろ……」

「……表には戻れないですね……」

「……うん……」

 エイト君、悟る。

 アパートに戻ると、そこには注意喚起の張り紙。

 ――「危険物の取り扱いにご注意ください」

「名指しやん……」

「……はい……」

 その夜。

 三人は、103号室に集まり、無言で酒を回し飲みしていた。

「……シホ」

「……はい」

「銃、減らせ」

「……無理です」

「即答かい」

 カノは、天井を見上げ、ぽつりと呟く。

「……ウチら、ほんま、社会に向いとらんな……」

「……はい」

「……でも」

 エイト君が、笑う。

「今日、ちょっと面白かった」

「……不謹慎すぎ」

「……でも、否定できません」

 三人、静かに笑う。

 警察沙汰。

 近所迷惑。

 社会的評価、底辺。

 それでも、明日はまた、やって来る。

 クズで、バカで、どうしようもない日常が。

 それが、腐敗獣人たちの、平常運転だった。


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