ズレているもの
その違和感は、翌日になっても消えなかった。
レオは朝から王都を歩いていた。
いつも通りの街。
いつも通りの人々。
だが、どこかだけが妙に“揃いすぎている”。
笑い声も、足音も、会話も。
全部が正常なのに、逆に不自然だった。
「……気持ち悪いな」
小さく呟く。
そして足を止めた瞬間、気配が途切れた。
さっきまで確かにあった“何か”が、跡形もなく消えている。
レオは周囲を見回した。
誰も気にしていない。
誰も違和感を持っていない。
「……気づいてるのは俺だけか?」
⸻
一方その頃、ユウマは宿で地図を見ていた。
昨日の消失地点が、微妙に増えている。
「増えてるな」
「だな」
レオが戻ってきて答える。
「それ、自然増殖してないか?」
「そんなバカな現象あるか?」
ユウマは笑った。
だが笑いながらも、目は真剣だった。
「でも近いな」
「近いのかよ」
レオは椅子に座る。
「昨日のやつ、もう一回整理するぞ」
ユウマは頷いた。
「魔導具が消える」
「痕跡がない」
「記録にも残らない」
「予測魔法にも引っかからない」
レオが指を折る。
「普通の犯罪じゃないな」
「普通じゃない」
ユウマは即答した。
そして少しだけ考え込む。
「でも“意図”はある」
「どうして分かる?」
「バラバラじゃない」
ユウマは地図を指した。
「消失位置が“繋がりそうな形”になってる」
レオはそれを見て、眉をひそめた。
「誰かが線を引いてる?」
「そういう感じだ」
⸻
その日の午後。
二人は現場を変えた。
今度は魔導具問屋街の裏手。
消失が多発しているエリアだ。
店の奥に入った瞬間、ユウマは足を止めた。
「……今の見えたか?」
「見えた」
レオは即答する。
空間が一瞬だけ“抜けた”。
消えたというより、そこに“何もなかったことになる”ような感覚。
ユウマは目を細める。
「魔法じゃないな」
「断言できるのか?」
「魔法なら残る」
ユウマは言う。
「これは残らない」
レオは短く笑った。
「面倒なやつだな」
⸻
夜、宿。
ユウマは机に向かっていた。
紙には新しい仮説が並んでいる。
レオはその横でパンを食べている。
「で、結論は?」
「分からん」
ユウマは即答した。
レオは笑った。
「潔いな」
「ただ一つだけ言える」
ユウマはペンを置く。
「これは“自然現象”じゃない」
「誰かが作ってる」
レオは少しだけ目を細めた。
「目的は?」
「そこが分からない」
ユウマは軽く笑った。
「でも面白い」
レオはため息をつく。
「お前それ好きだな本当に」
⸻
その夜。
王都の外れ。
消失現象が再び起きていた。
だが今回は少し違う。
消えた後に、“何かの痕跡”が一瞬だけ残っていた。
それは魔法陣でもない。
魔力痕でもない。
ただの“違和感”だった。
その中心に立っていた男が、小さく呟く。
「……まだ足りない」
そして、その場から何事もなかったように消えた。
⸻
翌朝。
ユウマはその報告を聞きながら、静かに笑った。
「なるほどな」
「何がだ」
レオが聞く。
ユウマは紙を閉じる。
「こっちが観察してるつもりだったが」
「向こうも見てるな」
レオは少し沈黙したあと、肩をすくめた。
「じゃあゲーム開始か」
ユウマは頷く。
「そういうことだ」
そして窓の外を見た。
王都はいつも通り平和だった。
だからこそ。
少しだけ歪んで見えた。




