英雄計画
金がいる。
ユウマは淡々と言った。
宿の机の上には、紙が散らばっている。
土地。
魔導具。
教師。
施設。
どれも現実的な数字ではなかった。
「正面からじゃ無理だな」
向かいに座るレオが言う。
同じ顔。
だがもう“影”ではない。
ユウマは頷いた。
「正面で稼げる額じゃない」
「普通に働いても足りないし、支援を待つ時間もない」
レオは机の紙を眺めた。
「じゃあどうする」
ユウマは少し考えた。
そして言った。
「だからまず英雄作る」
レオが瞬きをした。
「学校じゃなくて?」
「学校を作るのに実績がいる」
ユウマは即答した。
「誰も入りたくない学校は作れない」
「誰も金を出したくない学校も作れない」
「土地も手に入らない」
「だから先に英雄だ」
レオは納得したように頷いた。
確かにその通りだった。
平民の少年が学校を作ると言っても相手にされない。
だが英雄なら話は別だ。
「英雄になれば金も集まる」
「信用も集まる」
「人も集まる」
ユウマは紙に丸を書く。
その中央に大きく文字を書いた。
英雄
そこから矢印を伸ばす。
信用
依頼
金
人脈
学院
「順番はこうだ」
「なるほどな」
レオは感心したように言った。
「で、英雄になる方法は?」
ユウマは少し笑った。
「作る」
「またそれか」
「物語は作るものだからな」
レオは頭を抱えた。
だがユウマは真面目だった。
むしろ今までで一番真面目かもしれない。
「この世界は平和だ」
「だから英雄がいない」
「なら英雄が必要になる状況を作ればいい」
レオが静かに笑った。
「俺の仕事か」
「ああ」
ユウマは頷いた。
「ただし派手なことはしない」
「最初は小さく」
「小さな違和感を積み上げる」
ユウマは王都の地図を広げる。
治安の悪い区域。
流通の集中地点。
魔導具市場。
商業区。
様々な場所に印が付けられていた。
「まず噂を作る」
「噂?」
「組織の噂だ」
レオは眉を上げた。
ユウマは続ける。
「最近妙な連中がいる」
「裏で誰かが動いている」
「そういう話を少しずつ増やす」
「実体はなくても?」
「なくていい」
ユウマは言う。
「人は勝手に繋げる」
レオは笑った。
「嫌な才能だな」
「褒め言葉だな」
ユウマも笑った。
そして表情を引き締める。
「俺は研究者として動く」
「研究者?」
「魔法の研鑽だ」
それは嘘ではなかった。
ユウマは強くなる必要がある。
学院長になるために。
未来の物語に参加するために。
何より英雄になるために。
「事件が起きる」
「俺が調べる」
「解決する」
「その過程で強くなる」
レオは頷く。
「自然だな」
「だろ」
ユウマは笑った。
「英雄ってのは自分から名乗るもんじゃない」
「勝手に呼ばれるもんだ」
その日の夜。
二人は役割を決めた。
レオは裏へ。
ユウマは表へ。
同じ夢を見ながら。
進む道だけが分かれ始めた。




