表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/21

継承魔法アーカイブ

「ところでさ」


朝食のパンをちぎりながら、分身が言った。


「百年後、お前死んでるよな」


あまりにも当然みたいに言うので、少しだけ笑ってしまった。


「まあな」


十五歳の体だ。


今は健康そのものでも、百年後には土の中だろう。


普通なら。


「じゃあ百年計画、詰んでないか?」


分身は続ける。


正論だった。


計画書の上では完璧でも、実行する人間がいなくなるなら意味がない。


俺はパンをかじりながら、右手を見る。


そこには青い紋様が浮かんでいる。


《継承魔法アーカイブ》


転生した時から刻まれていた、俺だけの固有魔法。


「これがある」


俺は言った。


「それ何なんだよ、結局」


分身が眉をひそめる。


まだ説明していなかった。


というより、説明できなかった。


本能的に理解しているだけで、理屈としては俺も分かっていない。


「記録の魔法だ」


「記録?」


「俺自身を保存できる」


分身の動きが止まる。


「保存って、何をだよ」


「記憶、経験、考え方……多分、俺っていう存在そのもの」


しばらく沈黙が落ちた。


「それ、不老不死ってやつじゃないのか?」


期待半分、不信半分の声だった。


俺は首を振る。


「違う」


ここが重要だった。


「完全じゃない」


「どういう意味だ」


「継承するたびに、削れる」


分身の目が細くなる。


俺は続けた。


「記憶が欠けるかもしれない」


「感情が薄れるかもしれない」


「何か大事なものを、忘れるかもしれない」


窓の外では、いつも通りの街の音がしている。


馬車の車輪。


商人の声。


子供の笑い声。


平和な世界の音だ。


なのに、この部屋だけ妙に静かだった。


「それってさ」


分身が低く言う。


「積み重ねるほど、別人になるってことじゃねぇのか」


一瞬、言葉が出なかった。


その可能性は、考えないようにしていた部分だった。


「……かもしれないな」


正直に答える。


分身はじっと俺を見ていた。


責めているわけでもない。


ただ確認している目だった。


「それで百年やるつもりだったのか?」


「ああ」


即答した。


分身は呆れたように笑う。


「狂ってるな」


「知ってる」


「普通はやらない」


「普通じゃないからな」


少しだけ沈黙。


それから、分身は肩をすくめた。


「まあいいけどな」


「いいのか?」


「俺もお前だからな」


妙な理屈だった。


だが、なぜか納得できた。


その夜。


俺が眠った後も、分身は起きていた。


宿の窓際。


月明かりの下。


自分の手を見つめている。


触れれば確かに感触がある。


痛みもある。


空腹もある。


なのに、ふとした瞬間に思う。


「俺は誰なんだろうな」


言葉にした瞬間、少しだけ怖くなった。


自分の中に、自分じゃない何かが混ざっている気がする。


ユウマから生まれた存在。


それは分かっている。


だが今の自分は、それだけなのか。


考えかけて、やめた。


まだ答えを出すには早い。


今はただ。


百年計画の共犯者でいればいい。


そう思いながら、静かに目を閉じた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ