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百年計画

「で、どうするんだ?」


朝食の席で分身が聞いた。


パンをちぎりながらの質問だった。


昨日生まれたばかりのくせに、妙に馴染んでいる。


俺も慣れてしまった。


向かい側に自分の顔が座っている光景に。


「学校を作る」


「それは聞いた」


「魔法学校を作る」


「それも聞いた」


「最高の魔法学校を作る」


「会話になってないな」


分身は呆れたようにため息を吐いた。


俺もそう思う。


だが問題はそこではない。


問題は、その方法だった。


宿の机には大量の紙が広がっている。


土地の価格。


建築費用。


王国の法律。


教育機関の認可制度。


昨日一日で調べた内容だ。


そして判明した事実は一つ。


「思ったより金がいるな」


「思ったよりどころじゃないな」


分身が即答した。


実際その通りだった。


校舎を建てるだけでも莫大な金が必要だ。


教師を雇うにも金がいる。


寮を作るにも金がいる。


図書館を作るにも金がいる。


結論。


全部金がいる。


「金持ちになろう」


「雑だな」


「でも必要だろ」


「まあな」


分身は認めた。


しばらく沈黙する。


窓の外では人々が行き交っている。


平和な朝だった。


そして。


ふと思う。


平和すぎる。


この世界は本当に平和だ。


だからこそ英雄が生まれない。


危険がない。


冒険がない。


伝説がない。


「なあ」


俺は言った。


「なんだ」


「この世界、物語が足りないと思わないか?」


分身は真顔で俺を見た。


そして。


「昨日からずっとそれしか言ってないぞ」


「そうだったか」


「そうだ」


否定できなかった。


だが重要なことだ。


学校を作るだけでは意味がない。


俺が欲しいのは校舎ではない。


舞台だ。


主人公が集まり。


ライバルが競い合い。


伝説が生まれる舞台。


それが欲しい。


「例えばさ」


俺は紙に円を描く。


「学院があるだろ」


「ああ」


「地下に迷宮がある」


「危険だな」


「七不思議もある」


「怪談か?」


「禁書庫もある」


「絶対問題になるな」


「伝説の卒業生もいる」


「まだ学校すらないぞ」


分身が頭を抱えた。


だが俺は止まらない。


想像が広がっていく。


魔法学校。


秘密。


冒険。


伝説。


前世で憧れた全て。


「最高じゃないか」


「子供の妄想だな」


「そうとも言う」


しかし。


俺は気付いていた。


今考えているものは学校ではない。


物語だ。


物語を生み出す装置だ。


だから。


本当に必要なのは校舎より先に別のものだった。


時間。


圧倒的な時間だ。


伝説は一日では作れない。


歴史は一年では生まれない。


十年でも足りない。


「百年」


思わず呟く。


分身が首を傾げた。


「何がだ?」


「百年必要だ」


「何に」


「全部」


俺は立ち上がった。


興奮していた。


頭の中で全てが繋がり始める。


土地を買う。


資金を集める。


学院を建てる。


卒業生を育てる。


伝説を作る。


世界に根付かせる。


百年あればできる。


いや。


百年必要だ。


「待て」


分身が言った。


「お前、今十五歳だよな」


「そうだな」


「百年後死んでるぞ」


興奮が止まる。


確かにそうだった。


普通なら。


百年後には死んでいる。


学院の完成を見ることすらできない。


しかし。


俺は右手を見る。


手の甲に刻まれた青い紋様。


《継承魔法アーカイブ》


まだ話していない。


俺だけが知る固有魔法。


百年計画を可能にする唯一の手段。


「それは大丈夫だ」


俺は言った。


分身が眉をひそめる。


「何か考えがあるのか?」


「ああ」


「聞いてもいいか?」


俺は少し迷った。


だが。


いずれ話さなければならない。


なにせこいつは最初の共犯者なのだから。


「明日話す」


「なんでだよ」


「もったいぶりたい」


「面倒くさいな」


その反応に思わず笑った。


分身も呆れたように笑う。


こうして。


アストラル学院百年計画は正式に始まった。


まだ金もない。


土地もない。


学校もない。


生徒もいない。


だが。


夢だけはあった。


そして時々、世界を変えるのに必要なのは、それだけだった。

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