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2/7

共犯者

翌朝。


目が覚めた瞬間、昨夜の興奮が嘘ではなかったことを思い出した。


机の上には一枚の紙。


『アストラル学院創設計画』


勢いだけで書いた文字が、朝日に照らされている。


冷静になった今なら笑い飛ばせるはずだった。


だが。


「やるか」


やっぱりやりたかった。


むしろ昨夜よりやる気が増している。


俺は椅子に座り、計画を書き始めた。


必要なものを書き出す。


土地。


校舎。


教師。


教材。


運営資金。


寮。


研究施設。


図書館。


生徒。


書き終わってから眺める。


そして思った。


「無理では?」


予想以上に無理だった。


まず金がない。


土地もない。


人脈もない。


十五歳の平民に等しい少年がどうにかできる規模ではない。


そもそも学校を作る理由を説明しても誰も賛成しないだろう。


「魔法学校が欲しいからです」


などと言ったら頭のおかしい少年扱いされて終わりだ。


机に突っ伏す。


計画開始から半日。


早くも暗礁に乗り上げていた。


「やっぱり無理か……」


そう呟いた瞬間だった。


右手の甲が微かに熱を帯びる。


青い紋様。


生まれた時から刻まれている俺だけの魔法。


《継承魔法アーカイブ》


俺はその紋様を見つめた。


この世界では珍しい固有魔法。


だが俺はほとんど使ったことがない。


理由は単純だ。


使い道がなかったからだ。


ただ一つだけ分かっていることがある。


この魔法は俺自身を記録し、保存し、分割できる。


試したことはない。


だが理解だけはしていた。


本能的に。


まるで最初から説明書が頭の中に入っているみたいに。


「……やるか?」


思いついた瞬間、自分で引いた。


普通の人間ならやらない。


絶対にやらない。


だが俺は普通じゃなかった。


なにせ魔法学校を百年かけて作ろうとしている人間だ。


今さらである。


俺は宿の部屋に結界を張った。


深呼吸する。


そして右手を掲げた。


「アーカイブ」


青い光が広がる。


紋様が脈打つ。


頭の奥から何かが引き抜かれるような感覚。


思わず歯を食いしばった。


痛い。


想像以上に痛い。


記憶が。


感情が。


人格が。


自分の一部が剥がされていく。


数秒後。


光が収まった。


床に誰かが座り込んでいた。


俺だった。


正確には俺によく似た少年だった。


黒髪。


黒い瞳。


同じ顔。


同じ年齢。


鏡を見ているようだった。


「……成功したのか?」


俺が言う。


「たぶんな」


相手も言う。


声まで同じだった。


しばらく見つめ合う。


なんとも言えない時間だった。


「気持ち悪いな」


「それは俺も思った」


完全に同意だった。


自分の顔が目の前で喋るのは想像以上に落ち着かない。


相手も同じらしい。


互いに嫌そうな顔をしている。


「で?」


しばらくして相手が言った。


「で、何がしたいんだ?」


「魔法学校を作る」


「頭おかしいのか?」


「知ってる」


「無理だろ」


「知ってる」


「金は?」


「ない」


「土地は?」


「ない」


「人脈は?」


「ない」


「終わってるな」


「終わってるな」


二人同時にため息を吐いた。


しかし。


相手は突然笑った。


俺もつられて笑う。


なぜなら分かっていたからだ。


こいつは俺だ。


だったら結論も同じになる。


「でもやるんだろ?」


「ああ」


「だと思った」


相手は立ち上がる。


そして右手を差し出した。


「じゃあ協力してやるよ」


俺はその手を握る。


当然だ。


握手の感触まで同じだった。


「よろしく」


「よろしく」


こうして。


アストラル学院百年計画は正式に始動した。


後に英雄達の学び舎となる学院。


その礎となったのは。


世界を変えるほどの才能でも。


莫大な財産でも。


偉大な血筋でもない。


ただ。


無駄に行動力のある馬鹿が二人になっただけだった。

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