見えない原因
「未来映像をもう一度。」
予測局、分析部。
セシリアは映像を見返していた。
市場。
露店。
人混み。
次の瞬間、一人の男性が倒れる。
続いて、また一人。
周囲は騒然となり、人々は市場から逃げ始める。
映像はそこで途切れた。
「感染症でしょうか。」
主任分析官が腕を組む。
「可能性は高い。」
「医療局には?」
「すでに連絡済みです。」
机には市場周辺の地図が広げられていた。
「現地調査は協力魔導士へ。」
セシリアは静かに頷いた。
⸻
翌朝。
「市場で体調不良者?」
ユウマは依頼書へ目を通す。
「現時点では発生していません。」
セシリアが説明する。
「未来映像だけです。」
「だから今のうちに原因を探す。」
ユウマは依頼書を閉じた。
「行きましょう。」
⸻
王都中央市場。
朝から多くの人で賑わっている。
「今のところ異常なし。」
ユウマは市場全体を見回した。
医療局の職員達も既に巡回している。
井戸水を採取。
飲食店を確認。
市場全体を調べ始めた。
「井戸は問題ありません。」
医療局。
「食材も異常なし。」
「感染症らしい兆候もありません。」
セシリアは少しずつ表情を曇らせる。
「分析を間違えた……?」
⸻
昼過ぎ。
市場を歩いていると、
「あれ。」
レオが手を振った。
「お前達も来てたのか。」
「商会から。」
レオは荷馬車を親指で示す。
「最近、この市場だけ返品が増えてる。」
「原因を探れって。」
ユウマは笑った。
「結局、また一緒だ。」
「そういうこともある。」
⸻
三人は市場を歩き回る。
「返品って何の商品?」
セシリアが尋ねる。
「保存肉。」
「肉?」
「腐ってる訳じゃない。」
「でも味がおかしいって。」
レオは一軒の店を指差した。
「全部ここから仕入れてる。」
ユウマは店主へ声を掛けた。
「保管庫を見せてもらえますか。」
⸻
地下倉庫。
冷気を保つための保存魔法陣が刻まれていた。
ユウマはしゃがみ込む。
「……これか。」
魔法陣の一部が薄く欠けている。
「魔力切れ。」
「完全には止まってない。」
「だから少しずつ温度が上がってた。」
セシリアは息を呑んだ。
「感染症じゃない。」
「食中毒。」
「未来は。」
レオが続ける。
「結果しか映らない。」
「原因までは分からない。」
⸻
医療局はすぐに販売停止を指示した。
問題の保存肉を回収。
魔法陣も修復される。
未来映像で見た市場の混乱は訪れなかった。
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帰り道。
夕暮れ。
セシリアは珍しく黙って歩いていた。
「ごめんなさい。」
ぽつりと呟く。
「感染症だと決めつけました。」
「私の分析不足です。」
ユウマは首を横へ振る。
「違う。」
「未来は当たってた。」
「倒れる人も。」
「市場が混乱することも。」
「間違えたのは。」
少し考えて笑う。
「未来じゃない。」
「未来を読む俺達。」
セシリアは立ち止まる。
ユウマは続けた。
「未来を見る魔法は便利だ。」
「でも。」
「原因まで教えてくれる魔法じゃない。」
「だから。」
「現場がある。」
「分析がある。」
「俺達がいる。」
セシリアはようやく笑った。
「ありがとうございます。」
⸻
夜。
研究院。
三人だけの部屋。
レオが机へ報告書を置いた。
「医療局から礼が来てた。」
「対応が早かったって。」
ユウマは紅茶を飲みながら笑う。
「今回はセシリアのおかげだ。」
「私ですか?」
「未来を見つけたのはセシリア。」
「原因を見つけたのは俺達。」
「一人じゃ無理だった。」
レオも頷く。
「役割分担。」
「それでいい。」
しばらく静かな時間が流れる。
セシリアはふと笑った。
「今日は少し落ち込みました。」
「珍しい。」
レオが肩を竦める。
「いや。」
「結構ある。」
「あります。」
三人は同時に笑った。
ユウマはカップを置く。
「予定通りだ。」
「失敗しない百年計画なんてない。」
「大事なのは。」
「百年後に成功していること。」
セシリアも頷く。
「第一段階。」
「順調ですね。」
「順調。」
レオが短く答える。
ユウマも静かに笑った。
「焦らず行こう。」
百年という時間は長い。
だからこそ、一つの失敗も、一つの成功も、すべてが未来へ続く経験になっていくのだった。




