見えない努力
「またユウマ君か。」
研究院の掲示板の前で、一人の研究員が思わず声を漏らした。
新たな研究成果。
発表者。
ユウマ・アークライト。
「今月三本目だぞ。」
「本当に一人でやってるのか?」
周囲から驚きの声が上がる。
「魔力量だけじゃ説明できない。」
「発想も早い。」
「いや、努力なんだろ。」
誰かがそう言うと、
別の研究員が苦笑した。
「努力だけで説明できる量じゃない。」
ユウマ本人は、その声を聞こえないふりをして掲示板の前を通り過ぎた。
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研究室。
机には大量の文献が積まれている。
魔法陣。
設計図。
失敗記録。
「失礼します。」
セシリアが顔を覗かせた。
「論文、拝見しました。」
「ありがとうございます。」
「補助術式ですよね。」
「うん。」
ユウマは資料を閉じる。
「地味だけど。」
「こういう積み重ねが一番効く。」
セシリアは頷いた。
「予測局でも話題になっています。」
「研究院にすごい人がいるって。」
ユウマは苦笑した。
「期待され過ぎるのも困るな。」
「それだけ成果が出ていますから。」
短い雑談を終えると、セシリアは予測局へ戻っていった。
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その夜。
研究室には誰もいない。
ユウマは静かに魔法陣を展開した。
床へ幾重にも重なる術式。
青白い光が広がる。
そこから次々と分身が姿を現した。
一人。
二人。
三人。
やがて七人。
「今日は七班。」
ユウマが静かに言う。
「文献整理。」
「術式検証。」
「失敗例の洗い直し。」
分身達は慣れた様子で頷き、それぞれの机へ向かっていった。
部屋は一瞬で七つの研究室になる。
誰かが古い文献を読む。
誰かが魔法陣を書き換える。
誰かが実験結果をまとめる。
一晩で積み重なる時間は、一人では到底得られない量だった。
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夜明け前。
最後の分身が魔力へ還る。
ユウマは研究ノートを閉じた。
「今回も収穫あり。」
その瞬間。
意識の奥で、小さな魔力の揺らぎを感じる。
Archive共有。
ユウマは目を閉じた。
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『研究は?』
レオからだった。
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ユウマは笑う。
『順調。』
『今回は七人動かした。』
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少し間を置いて返事が来る。
『目立ち過ぎるな。』
『速度を少し落とせ。』
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ユウマは苦笑する。
『このくらいなら天才で済む。』
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今度はセシリアから共有が届いた。
『分析部でも話題になっています。』
『研究速度より、論理性を評価する声が増えました。』
『今のままで問題ありません。』
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ユウマは短く返す。
『了解。』
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レオ。
『魔力残量は?』
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『余裕。』
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『ならいい。』
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やり取りは数秒で終わる。
それだけで十分だった。
三人は離れた場所にいる。
それでも、百年計画は止まらない。
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翌日。
主任研究員が新しい報告書を手に取る。
「また完成したのか。」
「偶然ですよ。」
ユウマは笑う。
主任も笑い返した。
「その偶然が何度も続くから恐ろしい。」
研究室には笑い声が響く。
誰も知らない。
その成果の裏に、一晩で七人分の時間が積み重なっていることを。
誰も知らない。
その努力が、一人の英雄を生み出す百年計画の一部であることを。
今日もまた、世界には見えない努力だけが静かに積み重なっていった。




