未来へ続く一本の報告
予測局。
分析部。
儀式魔法によって映し出された未来が、静かに揺らめいていた。
王都西門。
荷馬車が列をなし、門の外まで続いている。
普段なら見られない光景だった。
「……止まっています。」
分析官の一人が呟く。
荷馬車は動かない。
商人達は困惑し、衛兵が慌ただしく走り回っている。
市場へ向かう荷は届かず、商会の職員達が何度も西門と街を往復していた。
映像はそこで途切れる。
「次。」
新たな映像。
今度は市場。
商人達が帳簿を広げ、何かを言い争っている。
品不足。
納期の遅れ。
怒号。
その断片だけが映し出された。
部屋に静かな緊張が流れる。
「王都の物流障害……。」
誰かが呟いた。
⸻
分析部では、すぐに資料が集められた。
主要街道。
商会。
物流量。
各地から届く報告。
セシリアも机へ資料を並べる。
「西側の街道だけではありません。」
「北方街道でも遅延。」
「南方でも同様です。」
一人の分析官が地図へ印を付けていく。
「共通点は?」
誰かの問いに、部屋が静かになる。
セシリアは報告書を読み返した。
止まった指が、一枚の紙の上で止まる。
「ノルド街道。」
「数日前、小規模な土砂崩れ。」
「こちらも同じ時期に東街道で斜面崩落。」
「さらに南では橋脚の一部損傷。」
「全部、小規模です。」
部屋の視線が集まる。
「一つ一つなら王都へ影響する規模ではありません。」
「ですが……。」
セシリアは地図を見つめた。
「同時に起きれば。」
「物流全体へ影響します。」
分析官達が頷いた。
「原因調査を。」
「協力魔導士へ依頼。」
⸻
数日後。
ユウマはノルド街道へ到着した。
崩れた斜面。
街道管理者。
近隣の住民。
一人ずつ話を聞いていく。
自然崩落。
そう片付けるには、不自然な点が多かった。
岩肌に残る削り跡。
荷車の轍。
山へ続く細い道。
「……。」
そこへレオが現れる。
「歩いてたら見つけた。」
「今回は本当か?」
「今回は本当。」
レオは笑う。
「最近、この辺じゃ石を勝手に切り出す連中が増えてる。」
「儲かるらしい。」
ユウマは崩れた斜面を見上げる。
「無理に山肌を削った結果か。」
「多分な。」
⸻
調査結果は予測局へ送られた。
違法採石。
しかも、ノルド街道だけではない。
同様の報告が各地から届き始める。
分析部では、報告書が次々と机へ積み上げられていった。
「北方も。」
「南方も。」
「同じ手口です。」
セシリアは深く息を吐いた。
「一つの事件ではありません。」
「各地で起きています。」
主任分析官が静かに頷く。
「行政へ提出。」
「対応は上が判断する。」
⸻
数日後。
王都では官報が配布された。
違法採石業者に対する一斉取締り。
主要街道周辺の安全点検。
街道管理体制の見直し。
街を歩く人々は、それを何気なく眺める。
誰も知らない。
数日後に起きるはずだった未来のことなど。
⸻
夕方。
分析部。
セシリアは再び未来映像を見つめていた。
王都西門。
荷馬車がゆっくりと門をくぐっていく。
商人達は普段通りに笑いながら挨拶を交わす。
市場では店主が品物を並べていた。
映像は静かに終わる。
先日見た混乱は、どこにも映っていなかった。
セシリアは報告書を開く。
静かに一行を書き加える。
予測された物流障害事象について、原因要因の低減を確認。
ペンを置く。
「……これでいい。」
誰に聞かせるでもない、小さな呟きだった。
未来は変わった。
正確には――
未来に芽吹こうとしていた災厄の芽が、静かに摘み取られたのだった。




