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積み重ねた信用

三年という時間は、人を変える。


それは能力だけではない。


人との繋がりも。


信用も。


少しずつ積み重なっていく。



朝。


予測局の依頼窓口では、協力魔導士達が順番を待っていた。


「おはようございます。」


ユウマが中へ入る。


「あ、おはようございます。」


受付の職員が笑顔で立ち上がる。


「今日はこちらになります。」


依頼書がすぐに差し出された。


後ろへ並んでいた若い協力魔導士が、小さく目を丸くする。


「あれ。」


「もう準備されてる。」


隣にいた先輩が笑った。


「ユウマは最近ずっとそうだ。」


「映像解析が終わる頃には担当候補へ入ってる。」


「信用ってやつだ。」



ユウマは依頼書へ目を通した。


今回の依頼は街道調査。


未来の映像には、馬車が横転する一瞬だけが映っていた。


場所は分かる。


だが原因は分からない。


予測局分析部は、


地図。


物流。


周辺地形。


過去の記録。


それらを照らし合わせ、


「街道そのものに異常がある可能性」


という結論を出していた。


だから協力魔導士が向かう。


未来を変えるために。



昼前。


現地へ着く。


街道には商人達が集まっていた。


「また車輪が外れた!」


「昨日もだ!」


ユウマは街道へしゃがみ込む。


魔力異常はない。


魔物もいない。


盗賊もいない。


それでも馬車だけが何度も壊れる。


少し歩く。


視線を地面へ落とす。


「あった。」


排水路だった。


長年の土砂が詰まり、雨水が一方向へ流れている。


地盤がわずかに沈み、


荷車が通る度に片輪へ負荷が集中する。


「ここを直してください。」


商人達は半信半疑だった。


それでも修繕すると、


荷馬車は何事もなく通り始めた。


「本当に直った……。」


「ありがとうございます!」


ユウマは軽く手を振る。


「未来の事故は、小さな原因から始まります。」


それだけ言って王都へ戻った。



夕方。


依頼報告のため、再び予測局へ向かう。


分析部の一角では、数人の職員が机を囲んで映像記録を整理していた。


「失礼します。」


報告書を提出すると、一人の女性が顔を上げた。


「ありがとうございます。」


柔らかな声だった。


淡い茶色の髪。


落ち着いた雰囲気。


胸元には分析部の徽章。


周囲の職員が紹介する。


「こちら、今年から担当区域が変わった分析官です。」


女性は立ち上がり、小さく頭を下げた。


「初めまして。」


「分析部のセシリアと申します。」


「協力魔導士のユウマさんですよね。」


「お話は伺っています。」


ユウマも自然に頭を下げた。


「初めまして。」


「よろしくお願いします。」


そのやり取りは、


誰が見ても初対面だった。



ほんの一瞬だけ。


セシリアと目が合う。


互いに何も言わない。


何も変えない。


三年間。


積み重ねてきた演技は、


この瞬間も崩れなかった。


(完璧だ。)


ユウマは心の中だけで小さく頷く。


歩き方。


表情。


声色。


距離感。


そこにいるのは、


ユウマの分身ではない。


予測局分析部の若手職員、セシリアだった。


誰が見ても。


そう見える。



報告を終え、予測局を後にする。


王都は夕暮れを迎えていた。


研究院へ向かう途中、


ユウマは静かに空を見上げる。


計画は順調だった。


レオは王都中の情報を集めている。


セシリアは予測局の中で信頼を積み重ねている。


そして自分は、


協力魔導士として信用を積み重ねる。


派手な出来事はない。


だが。


百年計画とは、そういうものだった。


誰にも気付かれず。


一歩ずつ。


未来だけを書き換えていく。

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