情報が集まる場所
レオには、一つだけ習慣があった。
依頼が終わると、必ず王都を歩く。
目的地は決めない。
その日、その時、足が向いた場所へ行く。
三年間。
それを繰り返してきた。
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「また歩いてくる。」
宿を出ようとしたレオへ、ユウマが本から顔を上げる。
「何か探してるのか?」
「いや。」
レオは首を振った。
「話を聞きに行くだけだ。」
「誰の?」
「みんなの。」
ユウマは小さく笑う。
「いってらっしゃい。」
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昼下がりの商業区。
露店では商人達が威勢の良い声を上げている。
レオは果物を一つ買うと、そのまま市場を歩き始めた。
「おう、レオ。」
魚屋の主人が手を振る。
「久しぶりだな。」
「三日ぶりだ。」
「三日なら久しぶりだ。」
主人は豪快に笑った。
「最近、南門が騒がしいぞ。」
「何かあったのか?」
「知らん。」
「でも兵士が増えてる。」
「そうか。」
それだけ聞くと、レオは軽く手を振って歩き出す。
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少し進むと、今度は荷運び達が休憩していた。
「あ、レオさん。」
若い運び屋が声を掛ける。
「東通りが混んでます。」
「商隊か?」
「ええ。」
「珍しく北から。」
「北か。」
「ありがとう。」
運び屋は嬉しそうに笑った。
レオは何も特別なことはしていない。
ただ。
相手の名前を覚え。
話を聞き。
必要なら少し手伝う。
それだけだった。
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午後になると、小さな酒場へ入った。
昼間なので客は少ない。
「いつもの。」
店主が果実水を置く。
「助かる。」
「今日は面白い話があるぞ。」
「聞こう。」
店主は声を潜めた。
「研究院の先生が。」
「珍しく酒を飲みに来た。」
「珍しいな。」
「ずっと難しい顔してた。」
「何か見付からないらしい。」
レオは静かに頷く。
「そういう話もあるのか。」
「研究者も人間だからな。」
店主は笑った。
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夕方。
レオは宿へ戻った。
机ではユウマが本を読んでいる。
「おかえり。」
「ただいま。」
レオは椅子へ腰を下ろした。
「今日はどうだった?」
ユウマが聞く。
レオは今日聞いた話を一つずつ話していく。
南門の兵士。
北から来た商隊。
研究院の先生。
市場の様子。
酒場の空気。
話し終えると、ユウマが苦笑した。
「事件は一つもないな。」
「ない。」
「でも。」
レオは肩をすくめる。
「明日の王都は少し想像できる。」
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ユウマはその言葉を聞いて考え込む。
「予測局とは違うな。」
「全然違う。」
「向こうは未来を見る。」
「俺は今を見る。」
「でも。」
ユウマが笑う。
「少し似てる。」
レオも笑った。
「そうかもな。」
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夜。
二人は夕食を囲んでいた。
「結局さ。」
ユウマがパンをちぎりながら言う。
「お前、何者なんだ?」
「協力魔導士。」
「それ以外。」
「……。」
少し考えてから、レオは答えた。
「話を聞くのが好きな奴。」
ユウマは吹き出した。
「職業になってない。」
「でも間違ってない。」
「確かに。」
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窓の外では、今日も王都が静かに息づいている。
誰かが商売をし。
誰かが研究をし。
誰かが旅をし。
誰かが噂を話す。
レオはその一つ一つへ耳を傾けてきた。
気付けば。
困ったことがあれば相談され。
分からないことがあれば尋ねられ。
新しい話があれば最初に耳へ入るようになっていた。
本人はまだ気付いていない。
この三年間で積み重ねたものは。
裏組織ではない。
情報網でもない。
もっと単純だった。
王都の人々は、いつの間にか。
「レオなら知っている。」
そう思うようになっていた。




