百年計画、改訂
翌朝。
宿の机には紙が山積みになっていた。
土地。
建物。
教師。
魔導具。
学院の名前候補まである。
「増えたな。」
レオが紙の束を持ち上げる。
「増えた。」
ユウマは素直に頷いた。
「最初は一枚だったのに。」
「夢だけだったからな。」
「今は?」
「夢と現実。」
レオは紙を一枚ずつ眺めていく。
「現実の方が多くなってきたな。」
「嬉しいような。」
「悲しいような。」
⸻
ユウマは最初の計画書を引っ張り出した。
少し黄ばんでいる。
そこには大きく三つだけ書かれていた。
『英雄になる』
『学院を作る』
『有名になる』
「……。」
レオが黙る。
「ひどいな。」
「ひどい。」
ユウマも否定しなかった。
「勢いだけで書いた。」
「今見ると分かる。」
「何も考えてない。」
二人は顔を見合わせて笑った。
⸻
ユウマは新しい紙を机へ置く。
「書き直す。」
「全部か?」
「全部じゃない。」
「順番。」
ペンを走らせる。
『協力魔導士として実績を積む』
『信用を得る』
『研究を続ける』
『予測局を知る』
『人脈を作る』
『学院設立』
レオが感心したように頷く。
「ようやく計画っぽくなった。」
「最初からこうしたかった。」
「嘘つけ。」
「勢いだった。」
「知ってる。」
⸻
しばらく沈黙が続く。
紙へ文字が増えていく音だけが部屋に響いた。
やがてレオが口を開く。
「なあ。」
「なんだ?」
「結局。」
「一番足りないものって何だ?」
ユウマはペンを止めた。
金ではない。
人でもない。
信用でもない。
少しだけ考える。
そして、小さく笑った。
「時間。」
レオは首を傾げる。
「時間?」
「十五歳で学院なんて作れない。」
「確かに。」
「英雄にもなりきれない。」
「そうだな。」
「だから。」
ユウマは窓の外を見る。
王都は今日も賑やかだった。
「急がない。」
⸻
レオも窓の外へ目を向ける。
「百年計画だもんな。」
「そう。」
「十五歳で焦る方がおかしい。」
「そういうこと。」
二人は笑った。
百年という時間は。
長い。
だからこそ。
焦る必要はない。
⸻
「じゃあ。」
レオが机へ肘をつく。
「次は何をする?」
ユウマは迷わなかった。
「今まで通り。」
「協力魔導士を続ける。」
「研究を続ける。」
「噂も育てる。」
「全部少しずつ。」
レオが笑う。
「地味だな。」
「地味だ。」
「でも。」
「嫌いじゃない。」
「俺も。」
⸻
ユウマは計画書の最後へ、一行だけ書き加えた。
『五年後の自分が困らないように動く』
レオが覗き込む。
「五年。」
「短くなったな。」
ユウマは頷く。
「百年なんて考えると遠すぎる。」
「だから。」
「まずは五年。」
「その次の五年。」
「気付いたら百年だ。」
レオは声を出して笑った。
「その計画。」
「お前らしいな。」
⸻
夕暮れ。
窓から差し込む橙色の光が、机いっぱいの計画書を照らしていた。
最初は夢だった。
今は計画になった。
まだ学院はない。
英雄でもない。
それでも。
昨日より今日。
今日より明日。
ほんの少しだけ前へ進んでいる。
ユウマは新しい計画書を丁寧に閉じた。
「さて。」
「また一歩ずつ始めるか。」
レオは立ち上がり、大きく伸びをした。
「百年なんて。」
「意外とあっという間かもしれないぞ。」
「それはない。」
ユウマは笑いながら即座に否定した。
二人の笑い声は、夕暮れの宿へ静かに溶けていった。




