未来は少しだけ変わる
翌日。
ユウマは予測局へ呼び出されていた。
「結果が出ました。」
担当職員は笑顔だった。
「早いですね。」
「分析班が昨夜遅くまで頑張りました。」
「寝てください。」
「ありがとうございます。」
「いや、寝てください。」
職員は苦笑した。
⸻
分析室へ入ると、昨日より多くの資料が机に並んでいた。
地図。
帳簿。
物流記録。
魔道具の流通先。
全部が整理されている。
分析官が一枚の紙を差し出した。
「これが今回の結論です。」
ユウマは目を通す。
そこに書かれていたのは、
『違法流通を担う小規模仲介網の存在』
だった。
「組織じゃない?」
ユウマが聞く。
「まだ組織ではありません。」
分析官は首を振る。
「個人同士が緩く繋がっている段階です。」
「だから。」
別の資料を見せる。
「今なら止められます。」
⸻
分析官は未来映像を映した水鏡を指差した。
薄く揺れる水面。
そこには数秒だけ未来が映る。
暗い路地。
魔道具。
逃げる人影。
そして映像は終わる。
「これだけですか?」
ユウマが聞く。
「これだけです。」
「犯人の顔は?」
「映っていません。」
「場所は?」
「断定できません。」
「日時は?」
「数週間以内、としか。」
レオが肩をすくめた。
「相変わらず不親切だな。」
分析官は苦笑する。
「未来は、いつも説明不足なんです。」
⸻
そこへ一人の局員が入ってきた。
「失礼します。」
「軍へ報告が終わりました。」
分析官が頷く。
「対応は?」
「本日中に開始されます。」
ユウマは少し驚いた。
「もう?」
「はい。」
分析官は当然のように答える。
「今回の供給網は軍が担当します。」
「我々は未来を解析する。」
「軍は原因を排除する。」
「協力魔導士は原因を見つける。」
「それぞれ役割があります。」
ユウマは静かに頷いた。
ようやく分かった。
協力魔導士は何でも屋じゃない。
英雄でもない。
未来へ続く道を探す仕事なのだ。
⸻
予測局を出る頃には昼になっていた。
帰り道。
レオが空を見上げる。
「終わったな。」
「一応。」
「捕まえるところまでは見られなかった。」
「俺達の仕事じゃない。」
ユウマは少し笑う。
「少し寂しいけどな。」
「派手じゃないし。」
「英雄感もない。」
「財布探しから進歩したくらいか。」
「それは進歩だ。」
⸻
宿へ戻る途中。
二人はいつもの市場を歩く。
先日話を聞いた職人が手を振ってきた。
「兄ちゃん!」
「こんにちは。」
「例の変な客、来なくなったぞ。」
ユウマは少しだけ足を止めた。
「本当ですか?」
「ああ。」
「注文も普通に戻った。」
「そうですか。」
職人は笑う。
「助かったよ。」
それだけだった。
大事件ではない。
新聞にも載らない。
誰も英雄とは呼ばない。
けれど。
確かに誰かの日常は守られた。
⸻
夕方。
宿の部屋。
ユウマは計画書を開いた。
『アストラル学院創設計画』
最初に書いた頃より、紙はずいぶん増えている。
その一枚へ、新しく書き加える。
『協力魔導士として実績を積む』
レオが覗き込む。
「また増えた。」
「増えた。」
「完成するのか?」
「百年あれば。」
「長いな。」
「長い。」
二人は顔を見合わせて笑った。
⸻
しばらくして。
レオが真面目な顔になる。
「なあ。」
「なんだ?」
「今回さ。」
「うん。」
「未来、少し変わったんじゃないか?」
ユウマは計画書を閉じた。
未来を見たわけじゃない。
確認したわけでもない。
それでも。
職人の笑顔を思い出す。
「たぶんな。」
小さく答える。
「ほんの少しだけ。」
それだけで。
百年計画の最初の一歩としては、十分だった。




