点と点
翌朝。
ユウマとレオは予測局へ集めた情報を持ち込んでいた。
担当職員は机いっぱいに資料を並べる。
「複数人が同じ魔道具を少量ずつ購入している、と。」
「たぶん。」
ユウマが答える。
「断定はできません。」
「十分です。」
職員は笑顔だった。
「断定するのは我々の仕事ですから。」
レオが小さく呟く。
「便利な言葉だな。」
「責任重大とも言います。」
職員は苦笑した。
⸻
資料はすぐに分析班へ運ばれた。
大部屋では数人の分析官が机を囲んでいる。
誰も魔法を使っていない。
紙。
地図。
帳簿。
そして大量のメモ。
「思ってたより。」
レオが言う。
「地味だな。」
「昨日も言ってたな。」
「毎日思う。」
「失礼ですよ。」
職員が笑った。
⸻
一人の分析官が地図へ印を付けていく。
「この購入場所。」
「ここ。」
「ここ。」
「ここ。」
赤い印が少しずつ増える。
やがて。
一本の線になった。
「……繋がってる。」
ユウマが思わず呟く。
分析官は頷いた。
「王都南側だけです。」
「偶然では?」
レオが聞く。
「偶然かもしれません。」
分析官は冷静だった。
「ですが。」
別の紙を重ねる。
そこには物流経路が描かれていた。
「購入場所は違います。」
「しかし。」
「最終的に同じ倉庫街を経由しています。」
ユウマは少し鳥肌が立った。
未来映像は見ていない。
なのに。
ここまで分かる。
⸻
「これが予測局なんですね。」
ユウマが言う。
分析官は少し照れくさそうに笑った。
「未来は断片しか見えません。」
「ですが。」
「現実は全部残っています。」
「映像と現実を繋げる。」
「それが我々です。」
レオが腕を組む。
「探偵みたいだな。」
「よく言われます。」
⸻
午後。
新しい依頼書が渡された。
内容は簡単だった。
『南倉庫街の現地確認』
ユウマは依頼書を見つめる。
「今回はちゃんと目的地がある。」
「昨日より進歩だ。」
レオも頷く。
「歩くだけじゃない。」
「まだ歩くけどな。」
「それは諦めろ。」
⸻
二人は南倉庫街へ向かった。
昼間でも人通りは少ない。
荷車が行き交い。
作業員が荷物を運んでいる。
どこにでもある倉庫街だった。
「普通だな。」
レオが辺りを見回す。
「普通だ。」
ユウマも頷く。
普通すぎる。
だからこそ隠しやすい。
⸻
倉庫番へ話を聞く。
「最近変わったこと?」
男は首を傾げた。
「特には。」
「荷物は増えてますか?」
「少し。」
「誰の?」
「色んな商会だ。」
全部普通だった。
違和感はない。
「外れか。」
レオが言う。
その時だった。
「おい。」
ユウマが小さく声を上げる。
「どうした?」
「あれ。」
視線の先。
荷車を押す青年がいた。
ありふれた服。
ありふれた顔。
ありふれた荷物。
どこにでもいる作業員。
「普通だな。」
レオが言う。
「そう。」
ユウマは頷く。
「普通なんだ。」
「だから?」
「昨日会った店。」
「一昨日の店。」
「その前の店。」
「全部で見た。」
レオの表情が変わる。
「あいつか。」
「たぶん。」
青年は二人に気付く様子もなく歩いていく。
荷車には木箱が三つ。
何の変哲もない荷物。
「追う?」
レオが聞く。
ユウマは少しだけ考えた。
そして首を振った。
「いや。」
「なんで?」
「証拠がない。」
「今追えば。」
「ただ仕事中の人を尾行する怪しい少年二人だ。」
レオは少し考えた。
「……確かに怪しい。」
「だろ。」
「俺達の方が捕まりそうだ。」
「それは避けたい。」
二人は荷車が遠ざかるのを静かに見送った。
⸻
その日の夕方。
予測局へ戻ると、担当職員が資料を受け取る。
「追跡は?」
「しませんでした。」
ユウマは答える。
「理由は?」
「証拠がありません。」
職員は数秒だけ黙った。
そして。
静かに頷く。
「正しい判断です。」
「え?」
ユウマは少し驚いた。
「捕まえることが目的ではありません。」
「未来を変えることが目的です。」
「焦って動けば、本当に追うべき相手を見失います。」
レオが小さく笑う。
「今日は褒められたな。」
「珍しい。」
「お前、最近褒められ慣れてないだろ。」
「学院長になったら毎日褒められる予定だ。」
「誰に?」
「生徒。」
「気が早い。」
二人は笑いながら予測局を後にした。
少しずつ。
本当に少しずつ。
未来へ続く一本の線が、形になり始めていた。




