少しずつ集める理由
翌朝、ユウマとレオは再び商業区へ向かっていた。
「最近ここしか歩いてない気がする。」
レオが伸びをする。
「そのうち道を覚えそうだ。」
「もう覚えた。」
「早いな。」
「昨日三回迷ったから。」
「迷ってたのか。」
「迷ってた。」
少しだけ情けない理由だった。
⸻
今日の目的は昨日よりはっきりしていた。
“同じ魔道具を、少しずつ買っている人物”
これを追う。
とはいえ、名前も顔も分からない。
分かっているのは、
毎回違う人間が買いに来ることだけだった。
「どうやって探す?」
レオが聞く。
「聞き込み。」
「地道だな。」
「協力魔導士だからな。」
「夢がない。」
「最近そればっか言ってるな。」
⸻
二人は昨日話を聞いた職人の店へ戻った。
「また来たのか。」
職人は笑った。
「気になることがありまして。」
ユウマが頭を下げる。
「この間の客って、どんな奴でした?」
「どれだ?」
「同じ魔道具を何個も買っていった人です。」
「ああ。」
職人は少し考え込む。
「普通の若い男だった。」
「特徴は?」
「普通。」
「身長。」
「普通。」
「髪型。」
「普通。」
レオが小声で呟く。
「普通しか情報がない。」
「普通に紛れるのが上手いんだろ。」
「今うまいこと言った?」
「たぶん。」
⸻
職人は思い出したように指を鳴らした。
「ああ、一つだけ。」
「何です?」
「毎回、値切らない。」
ユウマとレオが同時に首を傾げる。
「それだけ?」
「それだけ。」
「普通じゃないですか?」
「いや。」
職人は笑う。
「商人相手に値切らない客なんて珍しい。」
「言われてみれば。」
レオも頷く。
確かに。
少しでも安く。
それが普通だ。
「つまり。」
ユウマが考える。
「値段より数を優先してる。」
「そういうことかもしれんな。」
⸻
そのまま数軒の店を回る。
すると、不思議なことが分かってきた。
光石。
着火具。
保存具。
買われる魔道具は違う。
だが。
「全部、小型だな。」
レオが言う。
「しかも高くない。」
ユウマも気付いていた。
高価な軍用魔道具ではない。
どこにでも売っている。
ありふれた品ばかり。
「これで犯罪?」
「俺には分からん。」
「俺も。」
⸻
昼過ぎ。
二人は市場の端にある食堂へ入った。
「今日は俺が払う。」
レオが言う。
「珍しいな。」
「昨日お前が払った。」
「律儀だ。」
料理が運ばれてくる。
湯気の立つシチュー。
焼きたてのパン。
「うまそう。」
「仕事中だけどな。」
「腹は減る。」
「確かに。」
二人は同時にスプーンを動かした。
「うまい。」
「うまい。」
また同時だった。
少し笑ってしまう。
⸻
食事を終えた頃。
隣の席から商人達の話し声が聞こえてきた。
「最近、注文が多くてな。」
「景気いいじゃないか。」
「いや、変なんだ。」
「何が?」
「毎回違う奴が来るんだよ。」
ユウマとレオは視線を合わせた。
黙って耳を澄ませる。
「注文する物も似てる。」
「なのに顔が違う。」
「商会でも作るのかと思ったが。」
「名乗らねぇんだ。」
そこまで聞いて。
ユウマは静かに席を立った。
「どうした?」
レオが聞く。
「繋がったかもしれない。」
⸻
店を出たあと、ユウマは歩きながら口を開く。
「一人じゃない。」
「何が?」
「買ってる奴。」
「昨日もそう言ってただろ。」
「違う。」
ユウマは首を振った。
「昨日までは一人が変装してると思ってた。」
「今日は?」
「複数人だ。」
レオは少し考える。
「役割分担か。」
「たぶん。」
「だから誰も怪しまない。」
「だから未来まで残る。」
二人は同時に歩みを止めた。
ほんの小さな違和感。
誰も気付かない。
誰も事件と思わない。
それでも。
確かに誰かが、何かを準備している。
ユウマは小さく笑った。
「少しだけ。」
「事件らしくなってきたな。」
レオも笑う。
「ようやく英雄っぽい仕事になるか?」
「まだ分からん。」
ユウマは肩をすくめる。
「でも。」
「でも?」
「物語ってのは、登場人物が揃ってから動き出すんだ。」




