違和感の行き先
翌日も、ユウマとレオは商業区を歩いていた。
「昨日だけで終わると思ってた。」
レオが欠伸をしながら言う。
「俺も。」
ユウマも正直だった。
財布探しなら一日。
魔物退治なら半日。
ところが今回の仕事は違う。
歩く。
聞く。
帳簿を見る。
歩く。
聞く。
また歩く。
「協力魔導士って、足腰が強くなる職業なのかもしれないな。」
「夢がない。」
「英雄ってもっと格好いいと思ってた。」
「まだ諦めるな。」
「諦めてはいない。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
⸻
午前中だけで十軒近い店を回った。
しかし、どこも似たような話だった。
「少し数が合わなかった。」
「翌日には合った。」
「気のせいだったかもしれない。」
誰も深刻には受け止めていない。
「……全部こんな感じだな。」
レオが腕を組む。
「事件って感じがしない。」
「だから予測局も俺達を呼んだんだろ。」
ユウマは帳簿を閉じた。
「現場じゃ誰も事件だと思ってない。」
「でも未来では繋がる。」
「その原因を探す。」
「面倒くさいな。」
「未来を守る仕事って、大体面倒なんじゃないか?」
「夢がないな。」
⸻
昼過ぎ。
商業区の外れにある小さな工房へ立ち寄った。
魔道具職人が一人で営む店だった。
年老いた職人は帳簿を見るなり首を傾げる。
「最近は注文が増えてな。」
「景気がいいんですか?」
ユウマが尋ねる。
「いや。」
老人は首を振った。
「同じ物を何度も買いに来る客がいる。」
「壊れやすいとか?」
「違う。」
職人は棚から一つの魔道具を持ってきた。
掌に収まるほどの小さな光石だった。
「こんなの、普通は一個あれば十分なんだ。」
「それを?」
「何十個も欲しがる。」
ユウマとレオは同時に顔を見合わせた。
「誰が?」
老人は少し困ったように笑う。
「そこが妙なんだ。」
「毎回違う奴なんだよ。」
⸻
工房を出たあと、二人は近くの広場のベンチへ腰掛けた。
「毎回違う客。」
レオが呟く。
「偶然か?」
「偶然かもしれない。」
ユウマも頷く。
「でも。」
「でも?」
「昨日までの話と合わせると少し気になる。」
レオは少しだけ笑った。
「お前、事件っぽい匂いがすると急に元気になるな。」
「好きだからな。」
「知ってる。」
⸻
二人は情報を書き出していく。
・少量の在庫のズレ。
・帳簿は自然。
・配送記録も自然。
・同じ魔道具を大量購入。
・購入者は毎回違う。
ユウマは紙を見つめた。
「……綺麗すぎる。」
「綺麗?」
「全部、小さすぎる。」
レオも紙を見る。
「一つ一つなら事件にならない。」
「だから誰も気付かない。」
「でも全部合わせると?」
ユウマは頷いた。
「少しだけ、誰かが意図してるように見える。」
レオは小さく笑った。
「俺だったらもう少し上手くやる。」
「それはそう。」
「褒めてる?」
「半分。」
⸻
その日の夕方。
二人は予測局へ戻り、集めた情報を提出した。
担当職員は資料を受け取りながら何度も頷く。
「ありがとうございます。」
「分析班へ回します。」
「これで終わりですか?」
ユウマが聞く。
「いいえ。」
職員は静かに首を振った。
「これでようやく始まります。」
「始まる?」
「皆さんが集めた情報と、未来映像を照合します。」
「そこで初めて、新しい原因候補が見えてくるかもしれません。」
レオが感心したように呟く。
「本当に分析屋なんだな。」
職員は少し照れくさそうに笑った。
「予測局は未来を見る組織ではありません。」
「未来を理解しようとする組織です。」
⸻
予測局を出る頃には、空は赤く染まり始めていた。
王都は今日も平和だった。
子供達が笑いながら走り回る。
商人達は店じまいを始める。
誰も知らない。
この平和の裏で、未来へ繋がる小さな違和感が、一つずつ拾い集められていることを。
「なあ。」
帰り道、レオが口を開く。
「なんだ?」
「地味だけど。」
「うん。」
「ちょっと面白くなってきた。」
ユウマは笑った。
「だろ?」
「物語ってのは、大体こういう小さい違和感から始まるんだ。」




