未来の欠片
協力魔導士の仕事というものは、思っていたより地味だった。
「……つまり」
ユウマは依頼書を見つめる。
「魔道具が少し減ってるから調べてこい、と」
向かいに座る予測局職員は苦笑した。
「そういう言い方をされると少し困りますね」
「違うんですか?」
「少し違います」
レオが小さく笑う。
「結局減ってるんだろ?」
「減っています」
「じゃあ合ってるじゃないですか」
「結果だけなら」
職員は困ったように頭をかいた。
「今回重要なのは、減っていることではありません」
「そこなんですよ」
⸻
職員は机の上へ一枚の羊皮紙を広げた。
そこには王都の簡単な地図が描かれている。
南区。
商業区。
倉庫街。
いくつかの場所に印が付いていた。
「三日前、予測儀式を行いました。」
ユウマは姿勢を正す。
予測魔法。
昨日見学したばかりの儀式魔法だ。
「あの水鏡ですね。」
「ええ。」
職員は頷いた。
「あの映像の中で、一つ気になる場面がありました。」
「どんな?」
「王都で犯罪組織と思われる集団が魔道具を使用していました。」
レオが腕を組む。
「犯罪組織、ねぇ。」
「ですが」
職員は続ける。
「映像は断片です。」
「犯人も分かりません。」
「日時も曖昧です。」
「目的も分かりません。」
「映るのは数十秒だけです。」
ユウマは昨日の説明を思い出す。
未来は見える。
だが。
意味は分からない。
⸻
「そこから分析官が調査します。」
職員は別の資料を取り出した。
「王都で流通している魔道具。」
「軍の管理品。」
「商会の仕入れ。」
「犯罪履歴。」
「過去の事件。」
「全て照合した結果……」
紙の一番下を指差す。
「裏流通が存在する可能性が高い。」
「なるほど。」
ユウマは素直に頷いた。
ようやく繋がった。
未来映像だけでは事件は分からない。
だから人間が考える。
それが予測局なのだ。
⸻
「しかし。」
職員は少し肩をすくめた。
「供給元までは分かりません。」
「未来には映っていませんから。」
「だから現場を見る、と。」
「その通りです。」
職員は笑った。
「協力魔導士は未来を見る仕事ではありません。」
「未来へ至る原因を探す仕事です。」
「格好いいこと言いますね。」
ユウマが言う。
「考えたの私じゃないんですが。」
「ですよね。」
「ですよ。」
⸻
依頼を受けた二人は、そのまま商業区へ向かった。
昼の市場は相変わらず賑やかだった。
行商人の声。
子供の笑い声。
荷車を押す商人。
どこを見ても平和である。
レオが辺りを見回した。
「これが犯罪組織に繋がるとは思えないな。」
「だから未来映像なんだろ。」
ユウマは答える。
「今は平和でも、その先は分からない。」
「なるほど。」
「だから今止める。」
「協力魔導士っぽいこと言うな。」
「今思いついた。」
「だろうな。」
⸻
二人は魔道具店を何軒も回った。
「最近変わったことありませんか?」
「いやあ特には。」
「仕入れは?」
「いつも通りだね。」
「困ったことは?」
「娘が反抗期。」
「それは頑張ってください。」
「ありがとう。」
店主は少し元気になった。
レオが小声で言う。
「仕事してるのか雑談してるのか分からんな。」
「情報収集だ。」
「娘の反抗期も?」
「大事だろ。」
「何に。」
「家庭円満。」
「仕事しろ。」
⸻
五軒目。
少し古い魔道具店だった。
店主は帳簿をめくりながら首を傾げる。
「そういや一つだけ妙だったな。」
ユウマとレオの目が合う。
「何です?」
「注文数と届いた数が一度だけ合わなかった。」
「盗難ですか?」
「いや。」
店主は首を振る。
「翌日には帳尻が合ってた。」
「帳尻?」
「届いてなかった荷物が翌日に来たんだ。」
ユウマは少し考える。
「配送遅れ。」
「普通ならそう思う。」
店主も頷いた。
「でもな。」
帳簿を見せる。
「荷受け記録は同じ日になってる。」
レオが眉をひそめた。
「書き間違いじゃないのか?」
「俺もそう思った。」
店主は笑う。
「だから誰も気にしてない。」
⸻
店を出ると、ユウマは少しだけ足を止めた。
「どう思う?」
レオが聞く。
「分からん。」
ユウマは正直に答えた。
「でも。」
「でも?」
「未来へ繋がる原因ってのは、こういう違和感なんだろうな。」
派手な事件ではない。
誰も騒がない。
誰も気にしない。
けれど。
未来では、大事件の一部になる。
「なんか。」
レオが笑う。
「地味だな。」
「地味だ。」
ユウマも笑った。
「でも嫌いじゃない。」
「俺も。」
二人は再び商業区を歩き始める。
まだ誰も気付いていない。
未来へ繋がる小さな歪みを拾い集めるために。




