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予測局2

翌日、ユウマとレオは王都中央区へ向かっていた。


特に目的が明確にあったわけではない。


強いて言うなら「気になったから」である。


「普通、こういう国家機関って事前予約とかいるんじゃないのか」


レオが歩きながら言う。


「知らん」


ユウマは即答した。


「知らんのに行くなよ」


「でも気になるだろ」


「好奇心で国家施設行くな」


「もう行ってる」


レオは深くため息をついた。


このやり取りにもだいぶ慣れてきていた。



予測局は王都の中央区にあった。


思っていたよりもずっと地味な建物だった。


石造りの大きな役所。


それ以上でもそれ以下でもない。


豪華な装飾も、威圧感もない。


「……これが予測魔法の中枢か?」


「なんか想像と違うな」


二人は同時に言った。



入口は驚くほど開かれていた。


警備はあるが厳重というほどでもない。


人の出入りも普通に行われている。


ユウマは受付へ向かう。


「見学できますか?」


「できますよ」


受付の女性はあっさり答えた。


「え、いいんですか?」


「予測局は見学歓迎ですので」


「治安いいので」


レオが横で小さく呟く。


「警戒心ゼロかよ」



案内された先は広い部屋だった。


机。


書類。


机。


書類。


机。


書類。


そして大量の職員。


想像していた“魔法機関”というより完全に役所だった。


「地味だな」


「地味だな」


二人の感想は一致した。



案内役の職員が説明を始める。


若い男で、眼鏡をかけている。


いかにも事務職といった雰囲気だ。


「予測魔法とは、未来を見る魔法ではありません」


ユウマが少しだけ興味を示す。


「違うんですか?」


「違います」


職員は頷いた。


「未来は確定していません」


「見ているのは“可能性”です」



机の上にコインが置かれる。


「例えばこのコイン」


「表か裏かは分かりません」


「しかし予測魔法は、どちらになるかを直接見るわけではありません」


「何を見るんですか?」


「起こり得る結果の確率です」


ユウマは少し考える。


「天気予報みたいな?」


職員は少し笑った。


「かなり近いです」



説明は続く。


「人間の行動であれば、九割以上の精度で予測可能です」


「九割以上?」


ユウマが思わず聞き返す。


「はい」


「商人の取引」


「兵士の巡回」


「盗賊の行動」


「貴族の政治判断」


「ほぼ予測できます」


レオが低く呟く。


「それ、もう勝ち確じゃね?」


「はい、ほぼそうです」


職員は悪びれもなく言った。



ユウマはしばらく黙る。


そして一言。


「じゃあ英雄いらなくないですか?」


職員は即答した。


「いませんね」



その瞬間、部屋の空気が少しだけ軽くなった。


ユウマは天井を見上げる。


レオは横を見ている。


しばらく沈黙。


そして同時に呟く。


「クソゲーでは?」


「クソゲーだな」



帰り道、王都の通りはいつも通り賑やかだった。


露店の声。


子供の笑い声。


人の流れ。


全部が平和そのものだ。


ユウマはその光景を見ながら歩く。


「なあ」


レオが言う。


「なんだ」


「これ、英雄が生まれない理由分かったな」


ユウマは頷く。


「全部先に潰される」


「全部管理されてる」


「全部予測される」


「そりゃ出番ないわな」


レオは苦笑した。



ユウマは空を見上げる。


青い空。


完璧に平和な世界。


だがその瞬間、違和感が残る。


「でもさ」


ユウマは言う。


「九割なんだよな」


レオが横を見る。


「ん?」


「残り一割ある」



その言葉にレオは黙る。


ユウマは続ける。


「完璧じゃない」


「管理されてるけど、抜けがある」


「そこに何かが入る余地がある」


レオは少しだけ笑う。


「嫌なところ見つけるの上手いな、お前」


「褒め言葉だな」



その夜。


宿の部屋には紙が散らばっていた。


予測局の説明メモ。


魔法理論。


都市構造。


ユウマはそれを見下ろす。


「英雄がいない理由は分かった」


「でも逆に言えば」


「そこに“隙間”がある」


レオが腕を組む。


「つまり?」


ユウマは笑う。


「そこに物語を入れる」



レオはしばらく黙る。


そして肩をすくめた。


「やっぱりお前、そういうやつだな」


「そういうやつって?」


「面倒なやつ」


ユウマは笑った。


「褒め言葉だな」



窓の外では、王都が静かに眠っていた。


完璧に管理された世界。


だがその完璧さは、まだ誰も気付いていない小さな“歪み”を内側に抱えている。


ユウマはそれに気付かないまま、紙の上に線を引く。


その線はまだ小さい。


だが確実に、何かへと繋がり始めていた。

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