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第1章第3話 魔王の血縁

寒暖差で風邪気味です。

よろしくお願いします。


広場は静まり返っていた。


 誰も言葉を発しない。


 誰も動けない。


 ただ一体の竜と、俺を見つめている。


『お迎えに参りました』


 竜の声が再び響く。


『魔王陛下の御子よ』


「……違う」


 ようやく出た言葉は、それだけだった。


 だが自分でも分かっていた。


 説得力がない。


 さっき聖剣に拒まれた。


 魔王の記憶を見た。


 そして今、竜が現れた。


 全部が繋がっている。


「違う……はずだ」


 そう呟くしかなかった。


 すると。


「レインから離れろ!!」


 怒号が響いた。


 勇者候補の一人、アレン・クロスフォードだった。


 長剣を抜き、竜へ向ける。


「魔物の言葉に惑わされるな!」


 その一声で止まっていた人々が動き出す。


「そ、そうだ!」

「魔物の罠かもしれない!」


 だが。


 誰も俺には近寄らない。


 まるで俺自身が魔物になったかのように。


 胸が痛んだ。


 昨日まで一緒に暮らしていた人たちなのに。


『愚かな』


 竜が低く唸る。


『我らは王を迎えに来ただけだ』


「黙れ!」


 アレンが剣を振り上げた。


 光属性の魔力が剣へ集まる。


 里でも五本の指に入る実力者。


 だが。


『失せよ』


 竜が視線を向けた瞬間。


 アレンの身体が吹き飛んだ。


「がっ!?」


 地面を転がる。


「アレン!」


 誰かが叫ぶ。


 竜は何もしていない。


 ただ睨んだだけだった。


 圧倒的。


 そうとしか言えない。


 俺は初めて理解した。


 この竜は本気を出していない。


 本気なら里そのものが消えている。


『我が王』


 再び竜が俺を見る。


『お迎えに参りました』


 その言葉に。


「やめてくれ」


 俺は思わず叫んだ。


「そんな呼び方するな!」


 竜が目を細める。


『……なぜです』


「俺はレインだ!」


 声が震える。


「勇者の里で育った!」


「魔王なんかじゃない!」


 叫びながら、自分自身に言い聞かせていた。


 本当にそうなのか?


 本当に?


 分からない。


 何も分からない。


「レイン!」


 聞き慣れた声だった。


 振り返る。


 金色の髪を揺らしながら、一人の少女が駆けてくる。


「ミリア……」


 ミリア・エルフォード。


 俺の幼なじみだった。


 彼女は俺の前に立つ。


 まるで庇うように。


「ミリア!危険だ!」


 周囲が止める。


 だがミリアは振り返らない。


「レインはレインです!」


 その声は広場中に響いた。


「魔王の息子だとか、そんなこと分かりません!」


「でも私は知ってます!」


 彼女の目が揺れる。


「レインが優しい人だってことを!」


 胸が熱くなる。


 今日初めて。


 信じてくれる人がいた。


『……』


 竜は静かにミリアを見ていた。


 そして。


『なるほど』


 不思議な言葉を漏らす。


『その娘が』


「何だ?」


『いや』


 竜はそれ以上語らない。


 まるで何かを知っているようだった。


 そのとき。


「もうよい」


 低い声が響く。


 里長だった。


 人々が道を開ける。


 里長は竜の前まで歩いていく。


「お前の目的は何だ」


『王を迎えること』


「今すぐ連れていくつもりか」


『本来ならば』


 竜は頷いた。


『だが王は未覚醒』


 未覚醒。


 また知らない言葉。


『時は来ていない』


 そう言うと。


 竜は巨大な翼を広げた。


『再び参ろう』


 空気が震える。


『その時までご無事で』


 最後に俺を見る。


 どこか安心したような目だった。


 そして。


 竜は空へ舞い上がった。


 あっという間に雲の向こうへ消えていく。


 静寂。


 誰も何も言わない。


 だが。


 分かっていた。


 もう元には戻れない。


 里長が俺を見る。


 苦しそうな顔で。


「レイン」


 その声だけで察した。


 これから告げられる言葉を。


「今夜、私の家へ来なさい」


 重い沈黙。


「お前に……全てを話そう」


 その瞬間。


 俺の運命が大きく動き出した気がした。


 そして遥か北方。


 魔王城の玉座の間。


 一人の少女が窓の外を見つめていた。


 胸騒ぎが止まらない。


 理由は分からない。


 だが。


 確信だけがあった。


「誰かが……私を呼んでいる」


 彼女はまだ知らない。


 その相手が。


 自分と同じ運命を背負った少年であることを。

まだまだ話は始まったばかり。

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